遺留分ぐらいはもらわないと?! 残念ですがそれは遺留分の問題ではありませんよ!
遺言には関心があるのですが、遺言を書くとかえって相続人同士で揉めてしまうのではないでしょうか?このような質問をされることがたびたびあります。
確かに、『遺言を書く(遺言がある)』ということは多くの場合法定相続分以上の財産を相続する相続人が存在します。一方で、残念ながら法定相続分に満たない財産しか相続できない相続人もまた存在することになってしまいます。法定相続分に満たない財産しか相続できなかった相続人からは『遺言があったせいで相続分が少なくなってしまった』などと不平不満を言われてしまうのではないかとご心配されるのもよく理解できます。
しかし、もし遺言がなければ法定相続が原則となります。最終的には法定相続分よりも多く相続する人あるいは少なく相続する人が出てくるかもしれませんが、少なくとも誰が何を相続するかの話し合い(遺産分割協議)をスタートさせる時点では相続人全員に平等に権利があることだけは否定できないのです。
例えば、相続財産が土地・建物とわずかな預貯金のみでお父さんが亡くなったというケースにおいて、相続人全員が法定相続分の相続を希望するとすれば、現実的には土地・建物を売却して得た現金を等分するしかないのが現実でしょう。
しかしながら、例えば高齢のお母さんの面倒は誰が見るのか、数年ごとに行われる法要やお墓の管理・お寺とのお付き合いはどうするのか、これらも全て兄弟姉妹の頭数で等分して1年交替で引き受けるのか、現実的にそんなことできるはずがありません。人間関係までもきっちりと法定相続分で割り切ることなどできないのです。
思うに、遺産分割は相続人全員が満足するための場ではなくて、相続人全員が少しずつ不満を引き受ける場としなければ、円満な相続を実現することはできません。
とすれば、円満な相続にするためには、相続人全員が『多少不満は残るけどまあ仕方ないな』と思ってもらえるような内容でまとまることができるような準備をしておくことが大切です。
そのためには、きちんとした遺言を作成してその中で財産の分け方を遺言者の想い(付言)とともにきちんと明示しておくことが必要です。そしてさらに、遺言書の保管と遺言内容の実現は相続人のどなたかがなさるのではなくて、利害関係のない第三者たる専門家に委託したほうが安全です。そこまでの紛争予防策をあらかじめ講じておいたならば、土地・建物を相続する相続人は、母親の面倒を最後まで見ることや法要やお墓の維持管理・お寺との付き合いという負担を引き受けるかわりに、他の相続人は法定相続分には満たない預貯金の相続という不満を引き受けることで、相続人の皆さんは『多少なりとも不満が残るが仕方ないな』というお気持ちになれるのではないでしょうか。これこそが、当事者の話し合いで速やかに円満に相続手続を解決できたと言えるのではないでしょうか。
私は、魔法使いでもスーパーマンでもありませんから相続人全員が満足できるような遺産分割案を考えても到底思いつきません。しかしながら、相続人の誰かがいいとこ取りをしてしまうことのないようにしながら相続人全員が少しずつ不満・負担を引き受けて、『多少不満は残るがまあ仕方がないな』と思ってもらえるような遺言書・遺産分割協議書の作成を通じて十分に円満な相続となるようなご提案をすることはできます。
相続人同士が何年にもわたって裁判所で遺産争いをすることは、人間関係を決定的に壊してしまうだけです。これほど不毛なことはありませんし、きっと亡くなった方もそんなことは望んでおられないはずではないでしょうか。これからも私は、ひとりでも多くの方に『争わないための遺言書』のご提案をし続けていきます。