親や配偶者に遺言を書いて欲しい? まずはあなたから公証役場へ!
立秋を過ぎました。暦の上ではもう秋になったとはいうものの、私のいる神奈川でも連日30度を超える暑い日が続いています。当初は懸念されていた電力供給の問題も、多くの企業の積極的な取り組みや各家庭の理解と協力によって何とか日々乗り切れているようで、少しずつではあるものの確実に復興に向かって進んでいるのではないかと考える次第です。
しかしながら、先日福島から避難をしてきたという女性の方とお話をさせていただく機会があって、まだまだ私の認識が甘いものだと思い知らされたことがありました。その女性は、『仮設住宅もできて、ライフラインも復旧してきたのはうれしいのですが、一方でマスコミも次第に取り上げる頻度が少なくなってきています。いま、首都圏にいる多くの人たちにはだんだんと震災の記憶が薄まっていってるように思えてなりません。でも、きっと原発事故で放射能に汚染されたという福島に対する偏見はこれから何十年も続くのかもしれません。』とおっしゃっていました。
こういうことが起こるたびに思うのは、つらく厳しい立場に置かれてしまうのは必ずと言っていいほど弱い立場の人や少数の立場の人たちなのです。彼らがつらく厳しい立場にいるのは、決して彼らの責任でもなく、また彼らに原因があるわけでもありません。ましてや、偏見という私たちの行為がさらに彼らをつらい立場に追い込んでしまうことのないようにしたいものです。そして、同時に私たちは偏見を持つことなく今回の原発事故の事実関係を冷静に直視し、今後のエネルギー政策はどうあるべきかについてをひとりひとりが他人事ではなく自分のこととして考えなければならない時期に来ていると捉えています。
偏見を持たずに事実関係を冷静に直視する必要があるのは、実は遺産分割協議にも同じことが言えるのです。遺産分割協議に携わると本当にいろいろな相続人の方と接することになります。しかし、私は相手が相続人の誰であってどんな方であっても、決して偏見をもって接するようなことはしないように心掛けています。私が偏見をもって対応すればおそらく相手の方は心を開いてくれなくなってしまうでしょうし、そうすることが結果的には大事な事実関係を見落としてしまう可能性があるからです。
また、同様に私は、相手が相続人の誰であっても偏見を持たれることのないようにも心掛けています。相続が開始した場合において、遺言がなければ法定相続が原則となります。これまでの様々な経緯や感情があることは理解できるのですが、法律上はすべての相続人に平等に権利があるのです。だからこそすべての相続人が、正しく事実関係を把握して冷静に協議に参加してもらう必要があるのです。ただし、遺産分割協議は、みんなが満足をするための場ではなくてみんなが少しずつ不満を引き受ける場としなければなかなかまとまらないのが現状です。私は、相続人の誰かひとりの味方になるのではなく、誰に対しても等間隔で接して理解を求めなければならない立場にいます。偏見を持たれてしまってはこの立場を維持することはできません。なかなか困難なことですが、いつも心に留めて行動しているつもりです。
これからも、私は一般の方の相続に対する誤解や不安そして偏見を解きほぐして適切な助言をしていくことを自らの責務ととらえて、一人でも多くの方に『争わないための遺言書』をご提案し続けていきます。