「トモイクプロジェクト」 ~共に育てる社会へ
はじめに
第3部では、最低賃金や労働時間規制、解雇制度といった労使ルールの世界比較と、解雇が難しい日本で企業を守る適切な労務管理について解説しました。
第4部では、第1部から第3部までの「世界の労働動向のトレンド」を総括し、今後日本にも波及すると思われる変化を整理します。その上で、取り組むべき労務と財務・資金の両面の対策について考察します。
今後日本に影響を及ぼすと思われる世界のトレンドと課題
海外で見直されている労働施策は、今の日本の課題と重なります。日本の課題をまとめた表は以下の通りです。
| 世界のトレンド | 日本の状況 | 課題や対応策など |
|---|---|---|
| 定年延長・廃止とシニア活用 | 高齢者雇用安定法に基づく70歳までの就業機会確保努力義務化、定年延長 | ベテラン層のモチベーション維持と役割に応じた評価・賃金体系の再設計 |
| 柔軟な働き方と両立支援 | 育児・介護休業法の施行(残業免除拡大、テレワーク措置等) | 多様な勤務形態に対応する就業規則の改定と業務の標準化・多能工化 |
| 最低賃金の継続的引き上げ | 全国加重平均1,121円、更なる引き上げ基調の継続 | 人件費・社会保険料負担の増加と固定残業代を含む給与体系の点検 |
| 社会保険の適用拡大 | 短時間労働者に対する厚生年金・健康保険適用の段階的拡大 | 法定福利費の企業負担増加に伴う中長期的な資金繰りへの影響 |
これらの変化は、単なる法改正への対応にとどまらず、企業の収益構造や人材確保に直結する経営課題となります。
持続可能な組織をつくる「労務の対策」
企業が「選ばれる企業」として生き残るための労務の対策例は以下の2つです。
1.就業規則と両立支援制度の再構築
1つ目は、育児・介護休業法などに対応した就業規則および各種社内規定の改定です。
3歳から小学校就学前の子を持つ社員への柔軟な措置(テレワークや短時間勤務等)や残業免除の拡大を制度化し、単に形式を整えるだけでなく、実際に取得しやすい職場風土を醸成します。
柔軟な働き方を実現できる体制を整えることが、優秀な若手や中堅社員の離職を防ぐことに繋がります。
2.職務・評価連動型賃金体系へのシフト
2つ目は、シニア層や短時間労働者が納得して働ける「職務・評価連動型」の賃金体系へのシフトです。
従来の年功序列型から、担う役割や成果、貢献度に応じて適正に報いる評価制度へ移行することで、定年後の再雇用者もモチベーションを維持しながらスキルの継承に貢献できるようになります。
人件費上昇に備える財務対策
人件費の上昇を「単なるコスト増」として捉えるのではなく、あらかじめ計画に組み込んだ財務戦略として管理することが重要性です。
具体的には以下の通りです。
1.人件費や法定福利費の増加分を織り込んだ中長期キャッシュフロー予測
最低賃金の引き上げや社会保険の適用拡大によるコスト増加分を試算し、利益や手元資金がどのように推移するかを数値化します。これにより、資金ショートのリスクを未然に防ぎ、必要な資金調達のタイミングを事前に把握できます。
2.助成金の活用
業務改善助成金やキャリアアップ助成金、両立支援等助成金などを活用することで、労務環境整備にかかる費用や人件費上昇分の一部を公的資金で補うことが可能となります。
さらに、労務環境の整備や人材投資に積極的な企業は、周囲からの評価を高める可能性があります。法令を遵守し、従業員が定着する健全な労務管理を行っている企業は、事業リスクが低いと判断される傾向にあります。
まとめ
全4回の連載でお伝えしたポイントは以下の通りです。
【主なポイント】
- 日本の失業率は世界と比べても際だって低く、構造的人手不足を解消するには従来の雇用モデルからの脱却が急務
- 育児・介護休業法への対応や評価制度の見直しなど、多様な人材が活躍できる「労務環境整備」を進める必要がある
- 人件費上昇を織り込んだ中長期資金計画の策定と助成金活用により財務基盤を強化し、周囲の評価を得ることが重要
人手不足や人件費高騰は厳しい経営環境をもたらしますが、労務と財務の一体改革を進める絶好の機会でもあります。
まずは自社の就業規則の確認や、今後の人件費シミュレーションといった「最初の一歩」を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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