脳を若返らせるゴルフの効能
手前味噌で恐縮ですが、東京2020オリンピックの開幕を直前に控えた7月18日、横浜武道館で開催された「健康ゴルフ体験教室」で講師を務めました。この体験教室は、横浜武道館1周年記念事業として企画され、ゴルフの他には小学生を対象にしたバスケットボールやフットサル教室も開催されました。
「健康ゴルフ体験教室」では、健康的にゴルフをする上で大切なこと、「ゴルフフィットネス」体験と効果検証、そして健康的なゴルフスタイルを解説しました。
今回は、東京オリンピックでスポーツに注目が集まる今、ゴルフで健康を維持増進するポイントを考えてみたいと思います。
健康の3要素、プラスαとは?
健康を維持するには「栄養」「運動」、そして「休養」の3つがバランスよく保たれていることが大切で、この3つは「健康の3要素」といわれています。この3つの要素はとても大切ですが、私はこれだけでは不十分だと感じています。何故なら、現代はストレス社会で「ストレス発散」「ストレス解消」といった要素が、この3要素には欠けているからです。コロナによる巣ごもり生活によってストレスが溜まり、メンタル的に不健康な人が増えている今、更にこの必要性が高まっていると感じています。
人は生命を維持する上で不要なモノ、つまり老廃物を尿や便、汗と一緒に体外に排出します。これら老廃物と共に排出しなければならないモノが「ストレス」です。ストレスは目に見えないため軽視されがちですが、溜まると体に不調をきたし、ひどい時には死に至ることもあります。よって健康の維持増進には、ストレスをしっかり排出することが必要です。私は老廃物やストレスなど、不要なモノを体外に排出することを「排気」と呼んでいます。
「排気」の反対語は「吸気」です。「吸気」は、人間の生命維持に必要なモノを取り入れることです。
その代表格が、健康の3要素の一つ「栄養」です。しかし人間にとって必要な栄養は、口から摂る「食事」だけではありません。芸術性の高い絵画を観たり、風光明媚な景色を楽しんだりするのも、目で摂りこむ栄養といえます。好きな音楽を聴くのは耳から摂りこむ栄養といえるでしょう。つまり、口から摂りこむ食と栄養に加え、五感通じて摂りこむ広い意味での栄養も、人間にとっては必要不可欠だと思います。私はこれを「吸気」(気を取り込む)と表現しています。
この「吸気」と「排気」に加え、健康の3要素にも含まれている「運動」と「休養」の4つを、バランスよく回すことが、健康の維持増進にはとても大切です。次に、この4つの要素をゴルフで考えてみたいと思います。
不健康ゴルフを払拭、健康的なゴルフを
ゴルフは体を動かすスポーツですので、当然ゴルフをすることで「運動」はカバーできます。しかし間違ったやり方をすると健康を害す原因になるので要注意です。また、どうせやるなら健康的にやりたいものです。そこで、健康的なゴルフの仕方、不健康なゴルフの仕方を考えてみましょう。
不健康ゴルフの代表格は「準備運動をしない」です。ゴルフスイングは、瞬間的に素早く筋肉を動かすため、準備運動をせず、スムーズに体が動かせない状態でプレーをすると、筋骨格系、特に腰、首、肘、そして膝などに問題が起こるリスクが高まります。しかしながら、準備運動を軽視しているゴルファーがとても多いと感じます。
小学校の体育の授業では、水泳や徒競走の前には必ず準備運動をするように教えます。ところがゴルフではそれを教えない(教えられない)指導者が多いのが問題です。あるゴルフの業界団体が発行している初心者向け冊子の中で「ラウンド当日の流れ」を解説しています。そこでは、ロッカルームで準備をした後、いきなり練習場でボールを打ちましょうと書かれています。ゴルフを広めようとしている業界団体ですら、準備運動の必要性を認識していないのには驚きです。
やはりゴルフの練習前やラウンド前は、20~30分かけて念入りに準備運動をしてください。運動の目安は、冬場でもうっすら汗ばむ程度です。私が主管するゴルフスクールで取り入れている運動プログラム「ゴルフフィットネス」は効果的ですが、その紹介は改めて。
準備運動不足に加え、ゴルフには多くの不健康シーンが見られます。朝早いからと睡眠不足でのプレー、時間がないからといって朝食抜き、ハーフターンの昼食時にビールを飲むなどです。睡眠不足、食事抜き、飲酒などは本来スポーツにはあってはならない不健康行為です。これら不健康な行為を払拭し、健康的なゴルフスタイルを実践して欲しいと思います。
文明の利器に頼る“勿体ないゴルフ”とは?
また、けして不健康とはいえないまでも、最近のゴルフには「文明の利器」に頼ることにより、健康の維持増進上“勿体ない”シーンが見られます。その一つが「カートに乗る」です。
「歩く」は、健康の維持増進にとてもプラスになります。厚労省が健康保持・増進のために推奨している1日の歩数は、男性が9,200歩、女性が8,300歩です。アベレージゴルファーは1ラウンドで約10km、約13,000歩は歩くといわれています。よってカートに乗らず、胸を張り、少し大股で元気よく歩けばとても健康的です。また、できるだけカートに乗らず、歩いてラウンドするとスコアメイクにもプラスになります。ただし、猛暑日のラウンドは別です。できるだけカートに乗り、体力を温存しましょう。
もう一つの健康上“勿体ない”シーンは、「距離測定器に頼る」です。最近はレーザー距離計やGPSナビなど、高性能な距離測定器が販売されています。ピンまでの正確な距離を把握することは、スコアメイク上とても重要です。よって距離測定器を使いたい気持ちは分かりますが、これを自分の目と脳を使って行うことで「脳の活性化」に繋がります。
ゴルフは認知症予防に効果的だといわれています。何故なら、ゴルフは状況を把握し、戦略を練り、リスクヘッジしながら頭を使ってプレーするからです。また距離を算出したり、スコアを数えたりといった計算も行います。このような頭を使いながらの運動を「デュアルタスク運動(二重課題運動)」といい、認知症予防に効果的です。距離測定器は補助的に使い、できるだけ自身の脳をフル活用し、脳を活性化しましょう。
ゴルフは「積極的休養」の一つ
4つの要素の一つ「休養」は、近年その重要性が認識されてきています。運動学や栄養学は従来からありますが、最近は「休養学」という言葉も聞かれるようになり、書物(※)も出版されるようになりました。
※ 書籍「休養学基礎」(一般社団法人日本リカバリー協会監修)
一般社団法人日本リカバリー協会では、「休養」を「生理的休養」「快楽的休養」、そして「社会的休養」の3つに分類しています。更に「生理的休養」は、「休息タイプ」「運動タイプ」「栄養タイプ」に分けられます。そして「運動タイプ」を、『活動により老廃物の除去や新陳代謝の向上を促し、心身の活力を養う』と説明し、これを「積極的休養」としています。つまり、ゴルフのような適度な運動は、広い意味で「休養」の一つといえるわけです。
一方、「休息タイプ」は、『活動を中断して心身を鎮静化し、心身の活力を養う』とし、これを「消極的休養」としています。睡眠不足でのゴルフは不健康といいましたが、睡眠はこの「消極的休養」に当たります。
ゴルフを「積極的休養」とするなら、ゴルフでストレスを溜めないことが大切です。ストレスは精神的な緊張状態で、休養とは真逆の状態だからです。しかしながら、ゴルフがストレスになっている人がとても多いと感じます。
具体的には・・・
・あれこれフォームのチェックばかりしていて、ゴルフを楽しんでいない人
・ミスするたびに落ち込んだり悩んだりしている人
・他人の目や体裁ばかりを気にしている人、などです。
接待ゴルフや上司との付き合いゴルフがストレスになっている人も少なくないかも知れません。
やはりゴルフを楽しむことが大切です。
コースにでれば、都会では味わえないおいしい空気を味わうことができます。そして広大な芝生の景色を楽しむこともできます。肌で感じる空気感や芝生や草木の匂いなど、五感を通じた「吸気」にプラスになります。またゴルフでよい汗をかき、適度な運動でストレスを発散することで「排気」も可能です。そして正しいやり方さえすれば、「運動」と「休養」を加えた4つをバランスよく回すことができます。
東京オリンピックでは、日本人選手が大活躍しています。オリンピックを観て、スポーツの持つチカラを再認識した人も多いと思います。スポーツは人生を豊かにします。中でもゴルフはいくつになっても楽しむことができる上、健康の維持増進にとても役立ちます。より多くの人々にゴルフを通じて健康で豊かな人生を送っていただきたいと思います。
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