令和2年分から本格化 年末調整手続の電子化
我が国は長い間「金利なき世界」が続いてきました。ところが、輸入原材料高と円安を起点とするインフレの弊害は無視できず、日銀の金融政策は転換し、「金利ある世界」に突入しています。「金利なき世界」から「金利ある世界」への転換は、単に金利が上昇するということに止まらない、意外と大きな経済の構造転換を迫るものなのかもしれません。
銀行はリスクの対価として金利を獲得します。銀行が取るリスクには主として期間リスクとクレジットリスクがありますが、原則的にリスクが大きくなるにつれて、金利は高くなります。期間リスクでは長期ほど金利は高く、逆に期間が短ければ低くなります。クレジットリスクとは端的には貸倒リスクのことですが、一番信用度の高い国の発行する国債が最も金利が低く、企業向けの融資金利はそこから信用度が落ちるに従い高くなります。
通常、期間とクレジットの格差に対応して、相応の金利差(スプレッド)がつくのですが、ゼロ金利下ではそのスプレッドが急速に縮まります。というのは、銀行が顧客に提示する金利は原則的にゼロ以下にならないので、リスクの小さい金利はいち早くゼロに到達して下げ止まり、その後はリスクの大きい金利だけが下がってくるからです。
期間リスクでは、短期金利がゼロに近づくと、銀行は収益を求め、長期の貸出や有価証券に向かわざるを得なくなります。そうすると、長期金利もゼロに向けて低下し続け、長短の期間スプレッドが圧縮されていきます。クレジットリスクにおいても、最上位の国債の金利がゼロに近づくと、次に優良大企業の社債や貸出の金利が下がり、最後には中小企業向けの金利も下がることにより、スプレッドが急速に縮小します。
したがって、「金利なき世界」では、本来は存在するはずだったスプレッドが消失してしまいました。そこで、「金利ある世界」が到来すると、そのスプレッドが復活することが予想されます。
資本主義は本来、弱肉強食の世界です。金利にはその苛烈性が典型的に表現されます。つまり、強い企業ほど低金利を享受し資金を有利に利用できるのに対し、借入金への依存度が高い、財務体質の弱い企業は高い金利が適用され、業況を一層苦しめます。高金利に耐えられない企業は市場から退出し、より収益性の高い企業に交代することを迫られます。収益性の低い企業から高い企業への新陳代謝は、退出を迫られる企業やそこで働く従業員にとってはつらいことですが、経済成長のためには必要なことであり、金利はその重要なドライバーとして機能します。
「金利なき世界」では銀行はゼロ金利では商売になりませんから、少しでも金利を取ろうとして、財務状態の悪い企業にも貸倒リスクにある程度目をつむり、無理して融資をしてきました。さらにコロナ禍に登場した実質無利子、無保証によるゼロゼロ融資がその傾向に拍車をかけました。ゼロ金利下におけるスプレッドの縮小で助かっていたのは、本来であれば、もっと高金利の融資か、あるいは銀行からの融資を受けられず、市場から退出を迫られていたかもしれない財務状態の悪い企業だったのです。
ところが、「金利ある世界」が到来すると、国債をはじめ優良企業の貸出金利が上昇してきます。銀行は無理して不振企業向けに融資しなくても、優良企業への貸出で収益が取れるようになってきますから、重点はそちらに移っていきます。
「金利ある世界」はクレジットスプレッドの拡大により企業の新陳代謝を促進する作用を持つことを忘れてはなりません。それに加え、ゼロゼロ融資の返済が本格化することもあり、不振企業には厳しい局面が到来すると考えられます。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)



