新型コロナによる売上減 地方税の徴収猶予と固定資産税等を軽減へ
貸借対照表の資産・負債をキャッシュという見地から分類しようとすれば、そもそも、キャッシュ(あるいはキャッシュ同等物)の受け払いがあるかどうかが第一の関門です。その観点から、資産・負債は、キャッシュの受け払いが予定されている売掛金や買掛金などの一般の資産・負債と、キャッシュ移動がない引当金や繰延税金資産・負債などの会計上の損益調整項目とに分けられます。
この両者の相違は分かりやすく、分別が容易ですが、同じキャッシュの受け払いがある一般の資産・負債についても以下のような違いがあることに注意しなければなりません。
まず、資産から見てみましょう。資産は原則として取得価格で貸借対照表に計上されています。一般の資産は最終的にキャッシュでの回収を予定していますが、その回収予定金額が簿価と同じかどうかという点がポイントになります。
一つは契約により回収元本が確定している、受取手形、売掛金、貸付金などの資産があります(現金預金もこれに含まれます)。こうした資産をここでは「元本確定資産」と呼ぶことにします。元本確定資産の回収額は簿価(取得価額)と一致します。
他方、たな卸資産、土地、建物、株式などといった資産の元本回収は、資産を稼働させて収益を生むか時価による売却になりますから、取得価額とは異なる価格で回収されます。これらを「価格変動資産」と呼びます(回収元本が確定していないのれんなどの無形固定資産も含まれます)。
売掛金などの元本確定資産も相手先の倒産などがあれば、当初約束された元本が回収できないこともありますが、よほどのことがない限り、貸借対照表に計上されている簿価で回収できます。ところが、価格変動資産の貸借対照表上の簿価は、元本回収という観点からは、まったく意味を持たない過去の価格になります。
資産に元本確定と価格変動があるなら、負債にも元本確定負債と価格変動負債があってもよさそうですが、負債は買掛金や借入金といったものが主体で、ほとんどが元本確定になります。こうした負債は契約で返済を約束したもので、返済できなければ、契約不履行となり、倒産してしまいますから、何をおいても期日通りにキチンと返済しなければなりません。負債はこのように返済が絶対ですが、それを補う意味で、貸借対照表の貸方には、負債の下に過去の利益の蓄積である返済不要の自己資本が控えます。
元本確定負債で調達した資金で価格変動資産を購入し、想定外に資産価格が値下がりしたり、あるいは売却できなかったりすると、負債の返済に窮することになってしまいます。
価格変動資産は値下がりリスクがあるから、できるだけ持たない方がいいというのではありません。資産は価格が変動するからこそ意味があります。在庫が値上がりしたり、工場で生産する製品が価格上昇したり、買収した子会社が成長するから、企業は利益を上げることができるのです。
つまり、企業の経済行動を貸借対照表に即して解釈すれば、「過去の利益の社内の蓄積である自己資本と契約で確定した社外から調達した負債で、価格が変動する資産を購入して、その資産価値の向上を図ること」ということができます。価格変動資産の保有は利益の源泉なのですから、企業は価格変動資産を取得しなければなりません。とはいっても、価格変動資産はいつも思惑通り上昇するとは限りません。場合によっては下落することもありますから、その時の備えがあるかどうかが問われるのです。
返済不要の自己資本が厚ければ、リスクを取れますが、負債調達を大きくして価格変動資産を増やすと、逆に振れたときの危険性も増大します。単に資産と負債が両建てだからと安心するのではなく、自社の財務体力に照らして、価格変動資産と確定した負債のバランスを見極めることが必要なのです。
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)