相続登記の義務化 認知度が低迷
事業承継においては、経営資源を次世代へ円滑に引き継ぐだけでなく、後継者が事業承継後に自社を更に成長・発展させていくことも重要です。
中小企業庁編「中小企業白書2023年版」では、中小企業を対象に実施したアンケート調査に基づき、後継者が事業承継を契機として企業を成長させる上で必要な取組みについて分析しています。
まず事業承継の類型別に、事業承継の準備期間についてみると、「親族内承継」は、他の類型と比較して準備期間が長い傾向にあり、「5年以上」と回答した割合が約3割と最も高くなっています。一方で、「社外への引継ぎ」は準備期間が短い傾向にあり、「準備期間はなかった」と「1年未満」の回答割合の合計が7割近くを占めています。
次に、事業承継の類型別に、後継者の準備期間中の取組みについてみると、どの類型においても、「自社の経営資源・財務状況の理解に努めた」と回答した割合が5割を超えています。
また「親族内承継」においては、「現場で働き、自社の技術やノウハウ、商習慣等を学んだ」、「学校やセミナー等に通い、経営に関する知識やスキルを学んだ」と回答する割合が高くなっています。「親族内承継」は他の類型と比較して準備期間が長いことから、各現場を回って経験を積むことや、学校やセミナー等を利用するなど、経営に関する学習を行う傾向にあることが見て取れます。一方、「社外への引継ぎ」では、「従業員と自社の課題等について話し合う機会を設けた」と回答する割合が高くなっています。「社外への引継ぎ」の場合、特に社内から信認を得る必要があることから、従業員とのコミュニケーションを強化する取組みを重視する様子がうかがえます。
では、事業承継を契機とした企業成長に向けて、後継経営者にはどのような取組みが求められるのでしょうか。そこで中小企業庁編「中小企業白書2023年版」において、後継経営者が事業承継後を見据え、製品開発に向けた社内体制を整えたことで成長につなげた事例として紹介された、ダンレックス株式会社(東京都中央区)の取組みについてみていきましょう。
ダンレックス株式会社は工事現場で使用される保安灯や安全ベストなど、保安用品の企画・開発・販売を行う企業です。現社長は、大手機械メーカーで勤務した後2014年に入社、営業を担当する中で、他社製品との違いを打ち出せず価格競争に陥っている状況に危機感を抱きました。
こうした状況の打開策を検討するべく、時代のニーズに合った製品を開発し、知的財産権を活用して他社と差別化を図ることが自社の成長に向けて重要だと考え、事業承継前の段階から準備を始めました。
まずは製品開発の土台づくりとして、現社長の工業高校時代の担任講師に依頼し、社員向けに月1回の勉強会を開催することで社員の基礎知識を着実に増やすとともに、現社長自ら社員と密にコミュニケーションを取りつつ、新製品に関する意見やアイデアを出しやすい環境づくりに努めました。さらに、年に1回は特許出願を行うなど、知的財産権の取得にも積極的に取組むことで、他社製品との差別化やブランドイメージの向上を図りました。
上記の事業承継前からの取組みが奏功し、社長就任以降売上高が増加傾向にあるとともに知的財産権の取得も進んでいます。
このように、後継経営者が事業承継後を見据え、新たな取組みを行うことが、承継後の自社の成長・発展に結びつくのです。
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)