令和4年度地域別最低賃金
2023年3月期の有価証券報告から、人的資本に関する情報の開示が義務付けられました。開示元年となった今年、人的資本経営に注目が集まっています。人的資本経営とは、自社の人材が有する知識や能力を資本と位置づけ、それを活用して企業価値を高めようとする経営スタイルを指します。言い換えると、人材は企業の競争優位の源泉であり、価値創造の推進力とする経営を指します。
これまでの企業において、人材に関する支出はコストととらえることが一般的でした。給与だけでなく、例えば従業員が参加したセミナーの代金などは、利益を押し下げるコストとみなされます。足下の利益を確保しようとすると、企業は給与を抑制し、従業員の教育を後回しにしがちになります。
ところが、人的資本経営では、人材に投じる資金は価値創造に向けた投資ととらえます。給与や職場環境の整備、人材育成などに投下するお金は、今後、企業が価値を創造し、成長するための投資だととらえるのです。
冒頭で触れた通り、有価証券報告書などで、企業が人材に対してどのような姿勢を示し、実際、人的資本へどれだけ投資しているのか、第三者がわかるようになりました。人的資本経営は人材が価値創造の推進力となり、結果業績向上が期待できると考えられています。そのため、第三者が企業を評価する上で、対象となる企業が人的資本経営を実施しているかどうかは重要な指標になりえます。
とりわけ、深刻な人手不足が懸念される業界では、人的資本経営に真摯に取り組む姿勢はその企業に人材を惹き寄せるポイントとなるでしょう。さらに、銀行や投資家にとって、対象となる企業が人的資本経営を行っているかどうか、今後は重要な指標になる可能性も少なくありません。
2023年3月期の有価証券報告から「人的資本」に関する開示が義務付けられました。ただ、現在、開示の内容に関する基準やひな形は決まっていません。企業が開示する事項を主体的に選んでいるのが現状です。ISO30414では、「人的資本に関する情報開示のガイドライン」が定められ、参考にする企業もあります。
また、金融庁からは有価証券報告書の開示例が公開されています。とある制御機器メーカーでは人権リスク分析を実施し、各拠点で評価を行い、課題がある拠点は対策を検討、是正措置を実施しました。これにより、グループで働くすべての人たちの人権が尊重され、よりよい職場環境を実現できたことが報告されています。
こうした人的資本経営が重視される背景には企業の存在理由や目的が変化していることが一つとしてあります。1990年代まで、世界の上場企業は株主の利益に焦点を当てる傾向が強くありました。
かつて、株式会社は投資家からお金を集めて大規模な工場を建て、大量生産を通じて利益を生み出していました。工場を建てるためのお金は貴重で、お金を提供してくれる株主に重きが置かれるようになりました。
ところが、時代は流れ、大量生産により世の中には多くの商品があふれ、消費者はありきたりの商品には魅力を感じなくなります。売れる商品をつくるには他社との違いを生み出すイノベーションの必要性が高まります。結果、イノベーションを生み出せる創造的な人材が貴重な存在になったのです。実際、米国ではS&P500企業の時価総額のうち90%が無形資産と推定されています。企業は工場や設備などの有形資産を持たなくても、魅力的なソフトウエアなどを開発できる人材がいれば、競争力をつけることができるようになったのです。今後さらに、企業の価値を高めるため、人的資本の重要性がますます高まっていくと考えられます。
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)