令和5年度地域別最低賃金
給与といえば、銀行振り込みが一般的ですが、来年度以降は「○○ペイ」といったデジタルマネーで給与を受け取れるようになります。具体的には、PayPayや楽天ペイなど、スマートフォンのアプリを用いて決済の口座を開設すると、そこで給与が受け取れるようになります。
現状、労働基準法では、原則、給与は現金払い、省令で銀行口座への振り込みが認められています。現行の法律では、デジタルマネーは現金の手渡しや口座振り込みに該当しないので、給与の支払いに対応できません。近年のキャッシュレス化に対応できるよう、今回の省令改正でデジタル給与での支払いが可能になった次第です。
厚生労働省は制度の開始に向けて意見募集(パブリックコメント)を行い、11月に改正された労働基準法の施行規則(省令)を公布する予定です。もちろん、すべての企業と従業員が強制的にデジタル払いに対応しなければならないわけではありません。企業は従来通り、銀行口座への振り込みを選ぶことも可能です。
また、賃金を受け取る側(従業員)の同意を得た場合のみ、デジタル給与が可能となります。従業員は従来の支払い方法の継続を希望することも可能です。さらに、給与の一部をデジタルマネーで、残りを銀行口座に振り込むといった選択もできるようになる見通しです。
デジタル給与のメリットは、人手不足の解消にもつながることが一つとしてあります。現状、外国人労働者や日雇い労働者などは銀行口座を開設しにくい場合があります。こうした人たちでも、デジタルマネーならば、スマホでアプリをダウンロードして口座を開設すれば給与の支払いが可能になるので雇用しやすくなります。
給与が「○○ペイ」といったデジタルマネーで受け取れるようになります。これは、キャッシュレスで生活している従業員にとってもメリットがあります。最近は、買い物の支払いをデジタルマネーで決済し、現金をほとんど使わないという人が増えています。ただ、「○○ペイ」といったデジタルマネーはあらかじめお金をチャージしておかなければ利用できません。今回の法改正により、決済アプリの口座に直接給与が入るようになれば、銀行のATMなどから給与を引き出す手間が省け日常の買い物もしやすくなります。
とはいえ、デジタル給与に対して、安全性に疑問を抱く人も少なくありません。そこで、今回の制度では、デジタル給与に対応する業者には厳格な参入要件を設け、要件を満たす企業を厚労相が指定する形をとる予定です。また、サービスを提供する企業が破綻した場合に備え、個人が預けた資金の残高の全額を保証する仕組みの導入も義務付けられるといいます。こうした流れの中、損保大手では、デジタル給与を保証する保険の開発に取り組む動きも見られます。
ほかにも、デジタル給与をビジネスチャンスとみなし、参入する企業も増えています。デジタル給与の受取口座には毎月多額の資金が流れ込むので、決済サービスを提供している企業にとっては、受け取った資金を用いてよりよいサービスを提供することで顧客増加が期待できます。
現在、PayPayや楽天ペイ、メルカリ傘下のメルペイなどがデジタル給与の事業に参入を前向きに検討しています。ほか、リクルートも参入を検討しています。同社は給与の計算を簡素化できる機能など、給与振り込みの業務負荷低減も含めたサービスを開発しています。今後、参入企業がどのような競争を繰り広げるのか目が離せません。(了)
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)