解明待ちの「土地の上に存する権利」
新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞は深刻です。通常の売上のほとんどが失われれば、企業は資金繰りに窮し、存亡の淵に立たされます。そうした企業において、焦点があたるのは当面の支払い能力である流動性です。流動性の概念には幅がありますが、危機が深まるにつれ、焦点が当たる流動性の範囲は狭まります。
もっとも一般的な支払い能力の判断指標は流動比率(流動資産/流動負債)です。流動資産は短期に現金になることが予想されている資産で、流動負債は短期に支払期限が到来することが予想される負債です。したがって、両者を比較することにより、短期に支払うべき負債に対して保有する、短期に現金化できる資産の割合が把握できます。ただ、流動資産には実際には短期に現金化できない資産も含まれていますので、流動比率は200%以上あるのが望ましいとされます。
流動比率の最大の欠点は、分子である流動資産に在庫が含まれていることです。在庫は流動資産の中に占める割合が大きいにもかかわらず、売却される金額と売却される時期が確定しておらず、支払い手段としての確実性に欠けるからです。そこで、より短期の支払い能力として重要視されるのが当座資産です。当座資産は現預金、短期で運用される有価証券、売掛金から成ります。そこに在庫が含まれないことが重要です。その当座資産と流動負債を比較した当座比率(当座資産/流動負債)が流動資産より確実性の高い支払い能力を示す指標になります。当座比率は100%以上あれば安心だとされます。流動比率も当座比率もどちらかといえば、経済が安定している時の支払能力を示す指標です。危機が本格化すると、すぐ支払いに使えるキャッシュがどれだけあるかが重要です。それが手元流動性です。
手元流動性とは当座資産から売掛金を除き、現預金とすぐキャッシュに変換可能な短期運用の有価証券から成ります。手元流動性は今すぐに支払い手段として使える現預金相当額です。
手元流動性比率(手元流動性/月商)は手元流動性が何か月分の売上に相当するかを示しています。今回のコロナ危機のように急速に売上の減少に見舞われたとき、何カ月分の売上の喪失に耐えられるか、ということを表現しています。つまり、企業の直近の耐久力を示しているものだといえます。
もっと厳密に企業のギリギリの耐久力を示すのは、手元流動性と固定費の比較です。固定費とは売上があろうがなかろうが関係なく支払い続けなければならない、人件費、家賃などの固定的な費用です。売上がゼロになっても耐えられる最終的な企業の耐久力は、手元流動性が固定費の何か月分あるかで判断されます。
流動比率や当座比率は流動負債との相対比較ですから、短期借入金を借りて現預金を増やしても分子と分母が同時に増えるだけで、比率はさほど改善しません。しかし、手元流動性比率は、短期借入金を借り入れて現預金を増やせば、向上します。本当の緊急時には企業の借入能力も問われており、借入金を増やしても手元流動性を厚くすることが求められます。ただ、借入金の増加による手元流動性の増加は当面の資金繰りには役立ちますが、長期の財務の安定性にはマイナスに作用することは注意しなければなりません。
(記事提供者:(株)日本ビジネスプラン)