その子の内側の体験の世界12
バブリングがあらわれるのが、生後6か月くらいからです。まだ、有意味のある言葉ではありません。が、養育者はすっかりそれを「おしゃべり」として、クーイングにもまして積極的に乳児に応答します。「そうなの」「そうなの」と相槌を打ったり、その「おしゃべり」を真似して声をかけたりします。
乳児はこの段階になると、クーイングとは違って、明らかに大人の応答を意識した発声をするようになります。バブリングをしていた子どもが応答を待つようにふと声を止め相手を注視します。それに相手が応答してあげるとさらに活発にバブリングをするという相互的・双方向的な発声が始まります。つまり、「やりとり」が生まれてきます。
「やりとり」はコミュニケーションです。
もちろん、コミュニケーションといっても「意味」を伝え合うまではできません。ここでコミュニケートされ、共有されているものは「情動」です。バブリングでのやりとりの場面で観察されるのは、両者が心地よく声を出し合い、ほとんど一緒になって声を出し合っている状態です。そこには親密な情動の交流、両者の情動がほとんど溶け合うように「共有」されている状態が生まれているのです。
このようにお互いの情動の波長が重なりあい一体化が生じる現象を、精神医学者のスターンは、「情動調律」と名づけています。
私たちは、心の中に生起する様々な情動を、めいめいの脳内で孤立的に体験するのではなく、他の人と共感的に分かち合っています。分かち合うことによって、情動を処理しているのです。情動を共にできるのが人間です。幼児期の情動調律にその原点があります。バブリングによって、心地よい情動を養育者とともにするところから始まって、喜怒哀楽、様々な複雑な情動を他者と分ちあう力を次第に伸ばしていきます。
次回に続きます。