発達障害者支援法における発達障害
発達障害の診断とは、どのようなものでしょうか。それは「操作的診断」というものです。「操作的診断」ってなに?と考えていらっしゃる方に、この「操作的診断」について述べたいと思います。
<症状でグループ分けするというアイデア>
世界保健機構(WHO)は、様々な疾患の国際調査をしています。グローバルな統計調査をしようとするとき、国や地域によって診断に不統一があっては困ります。このためWHOでは、ICDと呼ばれるあらゆる疾患を網羅した統計のための国際分類を編んで、診断のグローバルな統一を図っています。
はじめは身体疾患が中心でしたが、ICDの第9版を編むにあたってWHOは、その精神疾患部門の統一分類の作成に本格的に取り組みました。そこで考えられたのが、従来の病因・病理による診断分類ではなく、「症状」による診断分類でした。
近代医学では科学的ではないとして斥けられたやり方に後退したわけですが、19世紀の記述精神医学以来、症状の記述なら精神医学は年季を積んできました。症状を理屈抜きに拾い上げるだけなら学派間の不一致が生じることはないわけで、生まれたのがICDの第9版(ICD-9(1977))における精神疾患部門の診断分類です。
ただし、精神障害の個々の症状は非特異的なものばかりで、ある症状とある精神障害とを直に結びつけるのは到底無理です。しかも、精神疾患の症状は、ほとんどが主観的なものです。そのような非特異的で主観的なものに頼って、どうして客観的かつ統一的な診断が可能になるのだろうか?不可能というほかはありません。そこで苦肉の策として、精神障害を「症状の集まり(症候群)」としてグループ分けすることにして、複数の症状がどんな組み合わせで揃っているかのちがいによって分類し、診断し分けるという方式が工夫されました。このような診断の方式を「操作的診断」と呼びます。
<マスとしては使いやすい>
「操作的診断」の前までの伝統的な診断方法では、「症状」に加えて「家族歴」「生活歴」「病前性格」「発病状況」「経過」などを判断材料に加えることで診断の確度を上げる努力をしていました。どんな家族(遺伝要因、環境要因を含め)のもとに生まれ育ち、どのような生活環境の中をどんな体験をしてきて、どんな性格特徴の持ち主で、いかなる状況下で発病(症状の出現)が起き、その後、症状がどう動いてきたかを患者ごとにそれらの個別的な特徴をとらえ分けて診断するのが普通でした。それが、「症状」一点に絞った極めてシンプルな診断手法に変わったのです。
この「操作的診断」は、症状の項目リストをチェックすれば機械的に診断名が付けられる仕組みで、診察者個人の技量や経験に診断が左右される度合いが少ないのです。つまり、誰でも一致した診断に達しやすいのです。医療水準の地域格差を頭におかなければならないグローバルな調査には、これが大きなメリットになります。患者一人ひとりの病因・病理を掘り下げて個々の患者への理解を深める実地の診療には全く不向きですが、個別性を離れたマスとして大まかに病気をとらえる統計学的な調査にはかなった方式ではあります。つまり、統計処理の便宜のため、全ての診断名にコードナンバーがふられており、これがこの診断システムの目的でした。
※参考文献 子どものための精神医学 滝川一廣著