精神発達の道筋
診断には「納得と安心」の力があります。言葉の世界を生きている私たちにとって「名前」がもつ力は大きいのです。名前を知ることがそれを知ることの第一歩で、名前が与えられることによって、それをまわりと分ちあうことができるようになる。だから、名づけには納得や安心をもたらす力があります。診断とはその納得と安心のための「医学的名づけ」にほかならず、それを求めて診察室のドアをたたく子どもや家族は少なくありません。それに応えることはだいじなことです。
当惑や不安に本人やまわりが直面したとき、「うつ病」「ADHD」「強迫症」などの名前が与えられることは、それがその人ひとりだけの出来事ではなく、なんらかの一般性をもった現象であること、別の言い方をすれば「既知の現象だ」と知ることを意味します。これがいかにたいせつかは、逆にどの医者へ行ってもいっこうに診断名がつかない状況を思い浮かべれば、たやすくお分かりいただけることでしょう。「既知」とは、社会がすでにそれについての経験をなんらかのかたちで共有していることを意味し、これが安心につながることなのです。
医者の告げる「これは〇〇ですね」という診断は、「自分はこれについて(知識的・経験的に)知っていますよ」という患者へのメッセージを意味します。そこがだいじなのです。自分の知っていることを活かして、お役にたてるよう努めましょう、と請けあうのです。診断すること(名づけること)をおろそかにできないのは、この意味があるからに他なりません。しばしば、そこから治療がはじまります。
※参考文献 子どものための精神医学 滝川一廣著