診断にぴったりと当てはまらない
引き出しに入れなくても理解や支援は可能です。とはいえ、引き出しが無用というわけではありません。何のための診断かがたいせつなのです。
一つ目ですが、医療はさまざまな行政制度を担っています。そして行政は必ず診断を求めます。保険診療制度も医療福祉制度・障害福祉制度もその「ひと」に対するサービスではなく、その「病気(障害)」に対するサービスのかたちで制度化されているためです。病名(障害名)の提示、すなわち診断が必須条件になります。サービスが与えられるか否かは病名(障害名)次第の場合も少なくありません。民間のシステム(医療保険、休職・休学、休業補償など)もこれに準じています。教育でも診断名がないと「特別支援教育」を受けられないのが日本の現行制度なのです。
二つ目ですが、人間には「名前」を得てはじめて安心して落ち着けるところがあります。私たちは世界を意味(概念)によってとらえる認識的な体験のしかたを身につけ、いわば「言葉の世界」を生きています。ものごとには「名前」があるという気づきから言語が、ひいては認識がはじまります。そのため、何ごとにつけ「名前」が与えられてはじめて「わかった」という安心が得られるのです。それが私たちの世界の知り方のカタチなのです。
※参考文献 子どものための精神医学 滝川一廣著