過失と損害の複雑な関係
医療事故事件の中で、お医者さんの過失(ミス)がかなり疑われるというケースや、最終的に過失(ミス)を前提とした解決ができたケースは、ある程度類型化できます。
絶対のものではありませんが、参考にしていただきたいと思います。
異物が体内に残っていた
これは特にコメントするまでもありません。よくあるのは、手術中に使用したガーゼを体内に置き忘れてしまったというケースです。
このケースでは、医師の過失(ミス)はほぼ争いがないことが多いですが、因果関係といって「その医師の過失(ミス)で発生した損害なのかどうか」ということが争われることがあります。
定期的な検査や通院をしていたのに重大な病気が発見されなかった
これは、ある病気のために定期的な検査や通院をしていたのに、別の重大な病気が発見されず、後になって発見された時には手遅れかその一歩手前であったりするケースです。
このケースでは、医師の見落としが疑われるのですが、そうはいっても必ず見落としだったと断言できるわけではなく、一般の医療水準ではどうしても発見できなかったという場合もあります。
ですから、そのお医者さんがどんな検査や診察などをしていたのか、一般の医療水準に合致した対応をしていたのかということが重要な判断要素となります。
手術中や手術直後、または入院管理中の急変
簡単な手術だと聞いていたのに急変したというケースや、入院中で毎日の兆候や検査データなどを管理していたはずなのに急変してしまったというケースです。
このケースも、手術の手技ミスや、術中術後管理の不備、医師の見落としなどが考えられます。
ですが、上記同様、一般の医療水準ではどうしても避けられなかった不幸な結果だったという場合もあるので、やはりそのお医者さんがどんな検査や診察などをしていたのかなどをよく検討する必要があります。
説明不足
手術や検査の際に、リスクの説明をきちんとせずに実施して重大な結果が生じてしまったケースなどがあたります。
本来、きちんとリスクを説明して同意を得てから手術などをするのが原則なので、きちんとした説明がなされなければ患者の自己決定権を侵害したということになるはずです。
もっとも、緊急の場合など、医師の判断でその治療方法を選択することがやむをえないと考えられる場合や、たとえリスクがあっても他の選択肢を選択させることが相当ではないと思われる場合などでは、説明を尽くさなかったことが医師の過失(ミス)とはいえないケースもあります。
さらに、医師には、患者さんが病気や治療方法の全てを理解するほどまでに説明を尽くす義務はないとされているので、患者さんが「自分はわからなかった」というだけでは、必ずしも説明義務違反とは限りません。
過失(ミス)を指摘しにくいケース
過失(ミス)を指摘しにくい典型的なケースは、縫合不全のケースと、細菌感染症のケースです。
どちらも、お医者さんが最善を尽くしていても、一定の確率で悪い結果が生じてしまう可能性があるためです。つまり、悪い結果が生じたとしても、それだけでは医師の過失(ミス)がすぐに疑われるという関係にないのです。
もっとも、これらのケースでも、医師の過失(ミス)で悪い結果が生じることもありますから、いきなり泣き寝入りすることはありません。過失(ミス)を問うことが難しいケースであることを一定承知していただき、それでもなお「今回はおかしいのではないか?」と医師の過失(ミス)を疑うということであれば、何らおかしいことではありません。