人生の節目と遺言 ~家族への未来のメッセージ~1
第5回 住宅を購入した時こそ考えたい遺言
住宅を購入する。
人生の中でも、大きな決断の一つではないでしょうか。
何十年もの住宅ローンを組み、家族の暮らしを思い描きながら住まいを選ぶ。
そこには、「家族を守りたい」という想いが込められているのだと思います。
結婚し、子どもが生まれ、家族が増えた。
だからこそ家を購入する。
そんな方も多いのではないでしょうか。
そして、この頃になると、多くの方が生命保険についても真剣に考え始めます。
保障額は今のままで足りるだろうか。教育費は大丈夫だろうか。もし自分に何かあったら、家族の生活は守られるだろうか。特に子どもがまだ小さい頃には、保険を見直した経験のある方も多いと思います。
それは、「自分がいなくなった後も家族を守りたい」という、親として自然な気持ちの表れではないでしょうか。
では、家についてはどうでしょう。もし、その家を残して亡くなったら、この家は、誰が引き継ぐのだろう」と考えたことはありますか。
例えば、6,000万円の自宅があるとします。そして、夫が亡くなり、相続人が妻と子ども一人だったとしましょう。
遺言がなければ、法律上の相続分は、妻が2分の1、子どもが2分の1です。
自宅以外に十分な財産がなければ、「妻はこの家に住み続けたい」と思っても、子どもの相続分をどうするのかという問題が出てきます。
場合によっては、家を売却して財産を分けることまで考えなければならないかもしれません。家族のために買った家なのに、です。
ところが、もし、「この家は妻に相続させる」という遺言を残していたらどうでしょう。
もちろん、子どもには遺留分があります。
この場合、子どもの遺留分は法定相続分の2分の1、つまり4分の1です。
6,000万円の財産だけを考えれば、3,000万円ではなく、1,500万円相当になります。もちろん、実際の相続では、自宅以外の財産や債務、生前贈与なども関係します。
ここでは、分かりやすくするため、そうした事情を考慮しない単純な例として考えてみます。
それでも、遺言があるか、ないかで、財産を引き継ぐときの状況は大きく変わることは、お分かりいただけるのではないでしょうか。
子どもがいない場合は、さらに違いが出てきます。
例えば、妻と夫の父母が相続人の場合、法律上の相続分は、妻が3分の2、父母が3分の1です。
6,000万円なら、父母の法定相続分は2,000万円です。
ところが、「妻にすべて相続させる」という遺言があれば、父母の遺留分は、合計で6分の1。
6,000万円なら、1,000万円相当になります。2,000万円と1,000万円。その差は、決して小さくありません。
そして、ここで大切なのは、
遺言がなければ、相続人同士で、財産をどのように分けるのかを話し合うことになる。
一方で、遺言があれば、自分の財産を誰に、どのように引き継いでほしいのか、その意思をあらかじめ示しておくことができる。ということです。
私は、遺言には、「財産の行き先を残す」という大切な役割があると思っています。
そして、それは、大切な財産を守ることにもつながります。
家族のために購入した家を、できるだけ自分が望む形で家族につないでいく。
そのために、生きているうちに、「この財産を誰に引き継いでほしいのか」を考えておく。それが遺言なのではないでしょうか。
ただ、人生は住宅を購入したときのままではありません。
- 子どもが成長し、独立する。
- 親と同居することになる。
- 夫婦二人の生活になる。
- 家を売却して、住み替える。
- 高齢になり、施設への入居を考える。
人生の節目には、家族の暮らし方も、財産の状況も変わっていきます。
住宅を購入したときには、「この家で家族と暮らしていこう」と思っていたとしても、何十年か後には、その家を取り巻く状況が変わっているかもしれません。
だからこそ、人生の節目は、遺言を見直すタイミングでもあるのです。
まだ遺言を書いていない方なら、「もしものとき、この財産を誰に引き継いでほしいだろう」と考えてみる。
すでに遺言を書いている方なら、「今の家族の状況に合っているだろうか」「以前に決めた財産の行き先でいいだろうか」と、見直してみる。
遺言は、一度書いたら終わりではありません。
人生が変われば、家族も変わります。
家族が変われば、財産についての考え方も変わることがあります。
だから、そのときの自分の想いに合わせて、見直していけばいいのです。
私は、「遺言は高齢者のものではなく、人生の節目に考えるもの」だと考えています。
住宅を購入することも、その一つの節目です。
家族の暮らしを考える。
家族の未来を考える。
そして、自分が築いてきた財産を、誰に、どのようにつないでいくのかを考える。
その想いを言葉にして残すものが、遺言なのだと思います。
家族のために買った家だからこそ、その家の未来についても考えてみる。
それもまた、家族を想う一つの方法なのではないでしょうか。
次回は、
「遺言は争いをなくす魔法ではない」についてお話ししたいと思います。


