日本のレアアース戦略:技術革新と自立への道標:調達の多角化、独自の精錬技術、使用量の削減・代替、リサイクル

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の底力

日本のレアアース戦略は、従来の「中国依存」から脱却し、「調達の多角化」「独自の精錬技術」「使用量の削減・代替」「リサイクル」という複数の層で構成された非常に緻密で総合的なものです。

その技術力のすごさは、単に資源を確保するだけでなく、環境負荷やコスト、設計の概念そのものを書き換える点にあります。

1. 革新的な精錬技術と環境への配慮
中国が世界のレアアース精錬の約90%という圧倒的なシェアを握ってきた最大の理由は、環境規制を緩和して低コストで精錬を行ってきたことにあります。

レアアースの精錬は通常、大量の化学薬品やエネルギーを必要とし、有害な廃液や放射性廃棄物が発生するため、先進国ではコスト面で太刀打ちできませんでした。

日本はこの「環境とコストの壁」を突破する日本独自の精錬技術を開発しています。
• イオン交換法: 特殊な樹脂を用いて、磁石のように必要な金属だけを高い精度で吸着・抽出します。2024年のJAEAの実験では、テルビウムの選択率が93%を超え、工程を大幅に短縮できることが示されました。

• イオン液体抽出法: 揮発性や毒性の低い「イオン液体」を使用し、従来の溶媒抽出に比べ廃液を80%削減、コストを20〜30%削減できる見込みです。

• これらの技術は、作業環境の安全性を高めるだけでなく、中国の「環境を犠牲にしたコスト優位性」を無力化する可能性を秘めています。

2. 南鳥島沖レアアース泥の「3つの奇跡」
日本国内の排他的経済水域(EEZ)にある南鳥島沖の海底には、国内需要の数百年分に相当するレアアース泥が眠っています。この泥には、従来の陸上鉱石にはない「3つの奇跡」と呼ばれる圧倒的な技術的優位性があります。

• 放射性物質がゼロ: 生物起源(魚の骨など)であるため、陸上鉱石で深刻な問題となるトリウムやウランなどの放射性元素がほとんど含まれていません。これにより、多額の環境対策コストが不要になります。

• 弱酸・常温・短時間での抽出: 従来の鉱石は強酸・高温での処理が必要ですが、南鳥島の泥は「常温の薄い塩酸」で、しかも短時間で95%以上の抽出が可能です。

• 自然な不純物分離: 弱酸で処理するだけで、鉄やアルミニウムなどの不純物とレアアースが自然に分離する性質があり、複雑な精錬工程を大幅に簡略化できます。

また、この泥を水深6000mから引き上げる技術についても、地球深部探査船「ちきゅう」が培ってきた高度な掘削技術が活用されており、実用化に向けたパイロット試験が計画されています。

3. レアアースを「使わない・減らす」技術力
日本は、レアアースを確保するだけでなく、「そもそも必要としない」次元の技術開発でも世界をリードしています。
• 重希土類フリー磁石: 高温環境での磁力を維持するために不可欠だったジスプロシウムやテルビウムを一切使わないネオジム磁石(プロテリアル開発など)が、2026年には量産体制に入る予定です。

• 構造による制御: 元素を足すのではなく、磁石内部の結晶構造を極限まで制御することで、レアアースの使用量を大幅に減らしつつ高性能を実現しています。

• 高性能リサイクル: 使用済みEVモーターからレアアースを98%という高い回収率で取り出す技術(日産自動車・早稲田大学)や、自動解体ライン(三菱マテリアル・ホンダ)による循環構造を構築しています。

4. 国際連携と地政学的戦略
日本の戦略は技術のみに留まらず、外交面でも巧妙です。
• JOGMECによる支援: オーストラリアのライナス社を政府系機関であるJOGMECが資金面や信用面で支え、中国以外で唯一の安定した供給網を維持してきました。

• 日米豪の連携: 資源・精錬・材料設計の各段階を同盟国間で分担し、誰かが欠けても供給が途切れない「分散型サプライチェーン」を構築することで、中国の「資源を武器にする戦略」を無力化しようとしています。

このように、日本は「資源を持たない国」という弱点を、精錬・材料設計・リサイクルという重層的な技術力と国際的なネットワークによって、他国に依存しない「自立した強み」へと変えつつあります。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

ものづくり現場の品質管理、人材育成のプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ群馬
  3. 群馬のビジネス
  4. 群馬の人材育成・社員研修
  5. 濱田金男
  6. コラム一覧
  7. 日本のレアアース戦略:技術革新と自立への道標:調達の多角化、独自の精錬技術、使用量の削減・代替、リサイクル

濱田金男プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼