日本の物価上昇・インフレ率;日銀と識者で、なぜ意見が違うのか?30年のデフレから終息宣言はいつ?

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

日銀はインフレ率2%は安定的に推移しているとして、先日利上げを実施しました。しかし識者によっては、まだ安定的な物価上昇率2%は達成されていないとする意見もあります。両社の言い分とその背景にある思惑などについて解説します。

日本の物価上昇率が「目標の2%を達成した」とする日本銀行と、「まだ不十分だ」とする識者の間には、「物価上昇の中身(質)」と「持続性」に対する評価の決定的な違いがあります。

1. 日本銀行の主張: 「賃金と物価の好循環」が動き出した
日銀(植田和男総裁)は、物価上昇が一時的なコスト押し上げによるものではなく、「基調的」な上昇に変わったと判断しています。

①サービス価格の上昇
これまで停滞していたサービス価格(人件費が反映されやすい)が上昇し始めたことを、人件費転嫁の証拠と見ています。

②高い賃上げ率の継続
2024年に続き2025年の春闘でも高い水準の回答が維持され、「賃金が上がるから物価を上げる、物価が上がるから賃金も上がる」という**「第2の力(需要側からの押し上げ)」**が定着しつつあるという見解です。

③実質金利の低さ
利上げをしても、インフレ率を差し引いた「実質金利」は依然として大幅なマイナスであり、経済に対して依然として緩和的(アクセルを踏んでいる状態)であると強調しています。

2. 識者・慎重派の主張: 「実感なきインフレ」と「コストプッシュ」
反対に、多くのエコノミストや識者が「2%達成」に疑問を呈する理由は、家計の購買力と消費の弱さにあります。

①実質賃金の停滞
名目賃金は上がっていますが、物価上昇のスピードに追いつかず、実質賃金がプラス圏で安定していません。 庶民の生活実感が伴っていない以上、持続性はないとする見方です。

②消費の低迷
物価高により家計が「節約」に走っており、個人消費が力強さを欠いています。消費が冷え込めば、企業はやがて価格転嫁ができなくなり、インフレ率は再び低下するという懸念です。

③外部要因への依存
現在の物価高は依然として円安やエネルギー価格、食料品価格の転嫁(コストプッシュ)が主因であり、日本経済の内発的なパワー(需要)によるものではないという指摘です。

3. 背景にある「思惑」と「本音」
なぜここまで評価が分かれるのか、そこには経済指標の解釈だけでなく、それぞれの立場による戦略的判断が働いています。

①日本銀行
・「政策の正常化」を急ぎたい
  日銀の本音は、長年続いた「異次元の金融緩和」という異常な状態から、一刻
  も早く抜け出したいという点にあります。
・金利の「弾薬」を確保したい
  次に景気後退が来たとき、金利を下げる余地を持っておきたい。
・円安抑制の圧力
  日米の金利差を縮小させることで、輸入物価を押し上げる「悪い円安」に歯止めをかけたい。
・市場の歪み是正
  国債市場や金融機関の収益悪化など、副作用を解消したい。

②識者・政治サイド
・国民の不満」と「景気腰折れ」を避けたい
・政治的リスク
  選挙を控え、有権者の「物価高への不満」は大きなリスクです。利上げに
  よる住宅ローン金利上昇などの悪影響を恐れています。
・中小企業の保護
  賃上げ分を価格に転嫁できない中小企業にとって、利上げによる資金繰り悪化
  は死活問題です。

そんな中で、高市政権は2026年度予算を122兆円と過去最大の予算案を国会に提出する予定ですが、いつ頃経済の好循環が実現し、30年以上続いたデフレ経済から脱却できるのでしょうか?

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を象徴する、122兆円という過去最大の2026年度予算案。この大規模な財政出動が、30年続いたデフレ経済の終止符を打つ「最後の一押し」になるかどうかが、今(2025年末)まさに最大の焦点となっています。

1. 経済の好循環は「2026年度」が正念場
多くの専門家や市場関係者は、2026年度(令和8年度)が「賃金と物価の好循環」が実感を伴って定着する年になると予測しています。その鍵を握るのは「実質賃金」のプラス定着です。

①2025年までの動き
2024年、2025年と歴史的な高い賃上げが続きましたが、物価上昇も激しかったため、家計の「買う力」を示す実質賃金は一進一退でした。

②2026年の展望
2026年には輸入コスト上昇によるインフレが一段落する一方、2025年の春闘結果が家計に完全に浸透します。ここで「給料の伸び > 物価の伸び」という状態が安定的に続けば、消費者が安心して財布の紐を緩める「好循環」が完成します。

2. デフレ脱却宣言はいつ出るのか?
政府が公式に「デフレ脱却」を宣言するためには、単にインフレ率が2%であるだけでなく、「再び物価が下落に転じるリスクがない」という確信が必要です。

①宣言のタイミング
2026年度予算が執行され、春から夏にかけての個人消費の回復が数字で確認できれば、2026年後半にも「デフレ脱却宣言」が出る可能性が高まっています。

②高市政権の狙い
122兆円もの予算を投入することで、需要を無理やりにでも押し上げ、デフレへの逆戻りを完全に防ぐ「オーバーシュート(目標を少し上回る状態)」を狙っているという側面があります。

3. 122兆円予算の「光」と「影」
この巨額予算は、好循環を加速させる一方で、経済の不確実性も生んでいます。

①成長投資
  プラス効果:防衛・サイバー・AIへの投資が新たな産業を生む
  リスク:予算が膨らみすぎて非効率な支出になるリスク

②家計支援
  プラス効果:社会保障や賃上げ環境の整備で消費を底上げ
  リスク:国債費(利払い)が30兆円を超え、財政を圧迫

③金利への影響
  プラス効果:経済の活発化による正常な金利上昇
  リスク:急激な金利上昇が住宅ローンや中小企業を直撃

4. 結論:脱却の鍵は「マインドの変化」
30年以上のデフレを経験した日本にとって、最大の障壁は「物価は上がらないものだ」という国民の心理(デフレマインド)です。

2026年度予算による強力な景気刺激が、「来年はもっと給料が上がるから、今日買っておこう」という前向きな心理への転換を促せるかどうかが、実質的なデフレ脱却の成否を分けるでしょう。

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