会社員がAIを使わない納得の理由!AI導入を阻む三つの壁/今後AIの普及が日本企業にもたらす四つのメリット

濱田金男

濱田金男

テーマ:生成AIによる業務効率化

会社員がAIを使わない理由は、「どれだけ自分の畑を早く耕しても、空いた時間に隣の畑も耕せと言われるだけで、報酬が変わらない農場」に似ています。

効率を上げる魔法のクワ(AI)を渡されても、農夫(会社員)にとっては「仕事を増やすだけの道具」に見えてしまい、こっそり使うか、あるいは使わないふりをするのが合理的になってしまっているのです。

今回は、こうした企業のAI導入が進まない理由を、主に「組織の壁」「人の壁」「技術理解の壁」という3つの要因について、深掘りしていきたいと思います。

1. 評価制度とインセンティブの欠如(組織の壁)
会社員にとって、AIを活用して業務を効率化するメリットが現状の制度ではないことが最大の障壁の一つです。
①時間給的な評価
多くの会社ではパフォーマンスではなく「労働時間」で評価されるため、AIで仕事を早く終わらせても、さらに別の仕事が降ってくるだけで、給与が上がるわけではないという現状があります。

②隠れた効率化
自分で効率化の手法を見つけても、それを周りに伝えると自分の首を絞める(仕事量が増える)だけなので、あえて共有せず「ステルス」で活用し、浮いた時間を自分のために使う人が得をする構造になっています。

2. 心理的抵抗とプライド(人の壁)
AIに対する漠然とした不安や、自分たちの仕事の価値観が影響しています。
①自分には関係ないという思い込み
「AIは怖い」「自分には必要ない」といった漠然とした忌避感があります。

②クリエイティブへの自負
「考えること」や「創造的なこと」は人間にしかできないというプライドが、AIに仕事を任せることを阻んでいる場合があります。

③エンジニアのこだわり
ITリテラシーが高い層であっても、「自分でコードを書くのが好きだからAIにやらせたくない」といった独自の抵抗感を持つことがあります。

3. AIへの過度な不信感(技術理解の壁)
人間は自分たちのミスには寛容ですが、AIのミス(ハルシネーションなど)には非常に厳しいという側面があります。
①信じきれない
AIが毎回違う答えを出すこと(LLMの特性)を理解していないため、一度の失敗で「使えない」と判断してしまいます。

②人間の方が優れているという思い込み
「人間の方がすごい」という固定観念が、AIを信頼して仕事を任せることを妨げています。

4. 適切な「オンボーディング」の欠如
AIを単なるツールとして捉え、「一人の新人」として適切に教育(情報共有)していないことも、実用化に至らない理由です。
これは、社内の文脈や人間関係、情報の所在といった「前提条件(コンテキスト)」をAIに与えないまま使おうとするため、期待したパフォーマンスが出ず、結局人間がやったほうが早いと判断されてしまいます。
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組織におけるAI導入は、「超高性能な耕運機を導入する」ことに似ています。しかし、農場のルールが「働いた時間分だけ給料を払う」ままであれば、農夫はわざと手で耕すふりをするか、耕運機を隠して使うでしょう。組織の停滞をなくすには、「早く耕し終えたら、その分早く帰れるか、収穫が増えた分だけ報酬が増える」という農場のルールそのものを変える必要があるのです。

では、ここからは解決策を見いだせるかどうか検討していきましょう。

1. 評価制度とインセンティブの再設計
労働時間ではなく、パフォーマンス(成果)で評価する仕組みへの転換が不可欠です。
①還元の明示
AIで業務を早く終わらせた際、浮いた時間を別の仕事で埋めるのではなく、昇給や時短として本人に還元する仕組みを作らなければ、社員は効率化を隠す(ステルス活用)ようになります。

②活用を評価に組み込む
AI活用を評価の加点要素にしたり、逆に活用しないことがマイナスになるような負荷設定を行うなど、使うインセンティブを丁寧に設計する必要があります。

2. AIを「新人」としてオンボーディングさせる
AIを単なるツールではなく、「一人の新人」と見なして教育(オンボーディング)するという視点が重要です。
①コンテキスト(文脈)の共有
会社の経済状況、社内の人間関係(ナラティブ)、情報の所在、権限といった「前提条件」をAIに与えることで、初めて最大限のパフォーマンスを発揮できるようになります。

3. 「スター社員」の発掘と事例の共有
ボトムアップの自然発生を待つのではなく、戦略的に活用者を支援します。
①アーリーアダプターの活用
2000人規模の組織でも、目覚めて活用しているのは1%程度です。こうした「スター社員」を見つけ出し、彼らのボトルネックを取り除き、成功事例を他の部署や意思決定層へ届けることで、組織全体の認識を変えていきます。

4. 意思決定層によるトップダウンの推進
現場の自発性に期待しすぎるのは「ファンタジー(夢物語)」であり、経営層の責任としての投資が必要です。
① 経営戦略への組み込み
AIを使わないことで競合にシェアを奪われ、市場から退場せざるを得なくなるリスクを理解し、経営レベルで「AI前提の企業」になるという強い意思決定を行うべきです。

②ボトルネックの解消
AIによって現場のスピードが10倍になれば、意思決定のスピードも10倍にする必要があります。人間がボトルネックにならない組織構造への改善が求められます。

5. 「思考のパートナー」としての活用
AIを単純な自動化(Do)の道具としてだけでなく、検討・決定・改善といったPDCAの上流工程のパートナーとして活用するよう、社員の価値観をアップデートさせることが重要です。
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日本企業にとってのAIの発展は、「誰にでも公平に与えられた、疲れを知らない超有能な部下」を手に入れるようなものです。この部下に単純な反復作業や記憶を任せ、人間は「何のためにその仕事をするのか」という目的(プロンプト力)と、人と人との対話に集中することで、組織全体がこれまで以上のパフォーマンスを発揮できるようになるのです。

日本企業においてAIの発展がもたらすメリットは、単なる業務の効率化に留まらず、深刻な社会課題の解決や日本独自の強みを活かした経済成長など、多岐にわたります。

主なメリットを以下の4つの観点でまとめます。

1. 労働力不足の解消と「現場力」の強化
日本経済の最大の課題である人手不足に対し、AIは強力な解決策となります。
① 物理的な自動化(フィジカルAI)
飲食店でのオーダー自動化、清掃ロボット、製造現場での外観検査など、これまで人間が行っていた作業をAIが代替することで、少ない人数で現場を回すことが可能になります。

②協働ロボットの普及
安全柵なしで人間と同じ空間で働ける「協働ロボット」の導入により、物流や食品、部品組み立てなどの工程で、人件費削減と24時間安定稼働が実現します。

③熟練技能の継承
ベテラン作業者の勘や経験(ナラティブ)をAIでデータ化し、標準作業として定義することで、新人教育の期間を短縮し、技術を組織の資産として継承できます。

2. 品質向上とヒューマンエラーの未然防止
AIは、人間が避けられないミスや判断のばらつきを排除し、品質を劇的に向上させます。
① 高精度な外観検査
従来の画像処理では難しかった光沢のある金属や、個体差のある農作物、食品の異物混入などを、AIが高い再現性で検知し、不良品の流出を未然に防ぎます。

②作業分析によるミス防止
AIカメラで作業者の動作をリアルタイムに解析し、手順飛ばしや工具の誤使用を検知してアラートを出すことで、ポカミスをゼロに近づけることができます。

3. ホワイトカラーの変革と意思決定の高度化
事務職(ホワイトカラー)や経営層にとっても、AIは「道具」から「パートナー」へと進化します。
①AIエージェントへの「任せる」働き方
これまでの「人間がAIを使う」段階から、AIに一連のワークフロー(アポ取り、リサーチ、レポート作成など)を「任せる」パラダイムへとシフトし、総生産量を飛躍的に高めることができます。

②意思決定のサポート
膨大なリアルデータの解析(データ駆動型)により、経営戦略の検討や市場予測の精度が向上し、より確かな判断が可能になります。

③ナレッジマネジメントの自動化: 社内に散らばる膨大な資料やチャットのやり取りをAIが解析し、必要な情報を必要なタイミングで提示(オンボーディング)することで、「調べる」手間が激減します。

4. 日本独自の成長戦略:「新しい中間層」の再生
AI時代において、日本はIT革命時とは異なり、世界に対して圧倒的な比較優位性を持つ可能性があります。
①すり合わせの強み
日本の強みである「複雑で不定形のオペレーションを高い再現性でやり遂げる組織能力」と、ソフト・ハード・人間を連携させる「すり合わせ」の技術は、AIと非常に相性が良いとされています。

②アドバンスエッセンシャルワーカー
AIを使いこなすブルーカラーや現場作業者を「ライトブルーワーカー(新しい中間層)」として再生させ、生産性と賃金の両方を向上させることで、持続可能な成長モデルを構築できます。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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