トヨタ式QAネットワーク:情報駆動型フレームワークの構築(2)顧客の声を品質保証の設計図とする
「機械が止まりました!」 「不良品が出ました!」
こうなってから慌てるのは、残念ながら「三流」の仕事です。 プロの品質
管理者は、まだ何も起きていない平和な時にこそ、汗をかいています。
今回は、初心者が混同しやすい「予兆」「異常」「不具合」「トラブル」
という4つの言葉を明確に区別し、本当の未然防止(トラブルを未然に
防ぐ活動)とは何かを解説します。
1. 破滅への4段階(タイムライン)を理解する
製品や機械が悪くなる時、いきなり壊れることは稀です。必ず段階を踏ん
で悪化します。これを「火事」に例えて整理しましょう。
① 予兆(よちょう)=「煙」
状態: まだ数値や形には現れないが、「なんか変だ」というレベル。
例: 機械の音がいつもより高い気がする。少し焦げ臭い、モーターが熱い
判定: 五感(感覚)で気づくことが多い。
② 異常(いじょう)=「ボヤ(火種)」
状態: 「基準(標準)」から外れている状態。ただし、製品としてはまだ
使える(規格内)こともある。
例: 「設定温度が基準より5℃高い」「いつもよりバリが大きい(公差内)」。
判定: 基準とのギャップで明確に判定できる。
③ 不具合(ふぐあい)=「火事」
状態: 機能が果たせない、規格を外れた状態。いわゆる「不良品」。
例: 「寸法が公差を超えた」「動かなくなった」「割れている」。
判定: 明確なNG(使用不可)。
④ トラブル(Trouble)=「全焼・災害」
状態: 不具合によって引き起こされた、社会的・経済的な混乱。
例: ラインが停止して納期に遅れる、顧客からクレームが来て回収騒ぎ
になる。
判定: 誰が見ても大惨事。
2. 初心者は「不具合」で騒ぎ、プロは「異常」で止める
この言葉の区別ができると、「未然防止」の意味がわかります。
事後対応(是正): 「不具合」や「トラブル」が起きてから対処すること。
未然防止(予防): 「予兆」や「異常」の段階で対処し、不具合まで進化
させないこと。
特に重要なのが「異常」の捉え方です。 初心者は、「バリが大きいけど、
まだ規格内(ギリギリOK)だからいいか」とスルーしてしまいます。これ
は「異常(基準ズレ)」を放置し、「不具合」になるのを待っているのと
同じです。
「規格内であっても、いつもと違うなら『異常』である」。 この認識を持ち
ボヤのうちに消し止めるのがプロの現場です。
3. 異常を見つけるための「4M変化点管理」
では、どうすれば「予兆」や「異常」に気づけるのでしょうか? 火のない
所に煙は立ちません。製造現場で異常が起きるきっかけは、必ず「変化」
にあります。
これを管理するのが「4M変化点管理」です。
Man(人): 新人が入った、担当者が休んだ。
Machine(機械): 刃物を交換した、修理した後だ。
Material(材料): ロットが変わった、メーカーが変わった。
Method(方法): 作業手順を変えた、条件を変えた。
「今日から材料のロットが変わりました(変化点)」。 この情報があれば、
「じゃあ、いつもより注意して見ておこう(予兆の監視)」というスイッチ
が入ります。
「変化点(変わったこと)」の周りには、必ず「異常」が潜んでいます。
日常作業において、「今日、何が変わったか?」を確認することこそが、
未然防止の第一歩です。
4. 現場の声を上流へ(フィードバック)
「予兆」や「異常」を見つけた時、現場だけで解決しようとせず、声を
上げることも重要です。
「最近、この部品が組み付けにくいです(異常)」
「図面の公差が厳しすぎて、毎回ギリギリです(予兆)」
こうした現場の「小さな悲鳴」を、設計者や技術者に届けること。 これが
「上流工程へのフィードバック」です。
前々回、「品質は設計で決まる」と言いましたが、設計者も完璧ではあり
ません。現場からの「作りづらい」「異常が出やすい」という情報を元に
設計図が修正されれば、「そもそも異常が出ない製品」へと進化します。
まとめ:火事になってからヒーローになるな
派手なトラブルを解決する人は目立ちますが、それは「マッチポンプ
(自分で火事を招いて消している)」かもしれません。
間違い(古い常識): トラブルを解決する人が優秀。
正解(新しい常識): 「予兆」に気づき、「異常」を直し、何事も起き
なかったかのように平穏な一日を終わらせる人こそが、真に優秀
な品質管理者。
明日からは、 「トラブルはありません(火事は起きていません)」ではなく
「異常(ボヤ)を見つけて消しておきました」 と言えるようになりましょう。



