ラピダス:2ナノ半導体国産化への挑戦と国家戦略

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

ラピダスによる2ナノメートル(nm)半導体の開発状況、政府支援の背景、
および日本産業への影響について解説します。

1. 2ナノメートル半導体開発の現状
ラピダスは現在、最先端の2nm世代半導体の試作に成功した段階にあります。
しかし、これは完成ではなく量産に向けた「始まりの一歩」であり、製品と
しての完成度を1.0とすると、現在はバージョン0.2から0.3程度の状態です。
① 技術的特徴
従来の「フィンフェット(FinFET)」構造から、さらに微細化が可能な
「ゲートオールアラウンド(GAA)」という新しいトランジスタ構造を採用
しています。
これは、電流の漏れを抑え、高い性能と省電力を両立させる技術です。

②今後のロードマップ
2024年度末までに設計ツールと連携可能なバージョン0.5に到達させ、2025
年後半には顧客へのサンプル提供(バージョン0.7〜0.8)を開始、2027年
の量産開始を目指すという、非常にタイトなスケジュールで動いています。

③最大の課題
技術の確立だけでなく、量産時の「歩留まり(良品率)」をいかに高められる
かが鍵です。100個作って何個動くかという歩留まりがビジネスの成否を分け
TSMC並みの70%程度を目指す必要があります。

2. 政府が巨額支援を行い自国生産を目指す理由
日本政府は最大で1.72兆円に及ぶ巨額の支援を決めていますが、これには主に
以下の背景があります。
①経済安全保障と地政学的リスク
最先端半導体の生産は現在、台湾のTSMC一社に極端に依存しています。
アメリカは、台湾有事などのリスクを考慮し、供給網が分断される事態に備えて
同盟国である日本国内に安定した供給拠点を確保する必要があります。

②産業の競争力維持
AIや自動運転などの次世代技術には最先端半導体が不可欠です。これらを海外
(特にTSMC)に依存し続けると、価格決定権を握られたり、供給を制限された
りする恐れがあるため、自国でコントロールできる体制が求められています。

③日米の合意
インテルなどの米企業も苦戦する中、日本でも先端半導体企業を立ち上げてほし
いという米国からの強い要請と合意も背景にあります。

3. 日本の産業に与える影響
ラピダスの挑戦は、単なる一企業の成功に留まらず、日本の産業構造全体に大き
な影響を及ぼします。
①製造装置・材料メーカーとの相乗効果
日本には、ウェハーを薄く削るディスコや、樹脂封止技術を持つ東亜など、世界
シェアの高い装置・材料メーカーが多数存在します。
ラピダスが国内で先端拠点となることで、これらの企業との共同開発が加速し、
日本の強みがさらに強化されることが期待されています。

②後工程(パッケージング)技術の進化
最近では、前工程の延長として高い技術が求められる「後工程(中工程)」の
重要性が増しています。ラピダスは、日本の液晶工場などの既存設備を後工程
に転用する可能性も視野に入れており、新たな製造エコシステムが形成されよ
うとしています。

③人材の還流と育成
かつて半導体大国だった日本から失われた最先端の経験を取り戻すため、海外で
経験を積んだ技術者が日本に戻り始めています。ラピダスが成功の目処を立てる
ことで、さらなる高度人材の集積が期待されます。

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比喩による解説
この開発を「水道インフラ」に例えると、2nm技術(GAA)の成功は、360度
どこからも水が漏れない画期的な「蛇口の構造」を発明したようなものです。

しかし、政府が巨額の資金を投じているのは、単に新しい蛇口が欲しいからでは
なく、「自分たちの街に、自分たちで管理できる最新の浄水場(工場)」を作ら
なければ、有事の際に水が止まったり、隣町の浄水場から法外な料金を請求され
たりして、生活(産業)が立ち行かなくなるからです。

現在は、その浄水場から「東京都民全員に、一滴の濁りもなく美味しい水を届け
る(高い歩留まりでの量産)」という非常に難しいミッションに挑んでいる段階
と言えます。

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