【中小企業技術開発プロジェクトリーダーへ】新技術開発を成功に導く4つの教訓と、成功のための心構え

濱田金男

濱田金男

テーマ:新技術・新製品開発

国や大学の支援を受けて新しい技術開発に挑む中小企業のリーダーの皆様
その道のりは決して平坦ではありません。予期せぬ技術的な壁、経済的な制約、
そして複雑な利害関係との調整が待ち受けています。
しかし、これらの困難は、プロジェクトの失敗を意味するのではなく、「より
良い戦略」への転換を促すサインです。

ある中小企業の複合強化樹脂開発プロジェクトの経験に基づき、これから新たな
挑戦を始めるリーダーが心に留めるべき4つの教訓と、成功のための心構えを
お伝えします。

--------------------------------------------------------------------------------
教訓 1:科学的根拠に基づき、「戦略的転換」を躊躇しない
プロジェクトの初期計画は、あくまで「最良の仮説」に過ぎません。実験の結果
その仮説が現実の物理的、あるいは経済的な制約に阻まれた場合、従来の計画に
固執することは、リソースの浪費に繋がります。

心構え:原因を「人」ではなく「システム」に問う
• 根本原因の診断を徹底する: 開発中に致命的な問題(例:初期配合で衝撃強さ
 が3.6 kJ/m²という壊滅的な脆性を呈した)が発生した場合、それは「操作ミス」
 ではなく「材料固有の性能限界」や「機器の物理的限界」(例:小型粉砕機に
 おけるトルク不足や熱除去能力の限界)に起因すると、科学的・工学的な視点
 から診断を下す勇気が必要です。

• 非実行可能な案は即座に切り捨てる: 代替案が技術的に可能でも、工業的な
 経済性がない場合(例:溶媒を用いた手法が1kgあたり74,133円という高コスト
 で経済的に破綻した)は、その解決にリソースを集中させず、唯一実行可能な
 パスにリソースを集中投下すべきです。

教訓 2:「最終目的」のために「手段」は柔軟に管理する
プロジェクトの成功は、契約書に書かれた「手段」(例:特定の原料グレード、
添加材含有率10%)を達成することではなく、「最終目的」(目標物性の達成)
を果たすことにあります。

心構え:目標達成に資する「合理的な変更」は正当な手段である
• 論理構成を明確化する: 契約条件が最終目標の達成を阻害する場合、計画変更は
 合理的な手段と位置づけ、 支援機関に対し正式な「変更申請書」を提出します。
 その際、「最終目的達成のために、手段の変更が不可欠である」という論理構成
 を明確にすることが、承認を得る鍵となります。

• 「ハイブリッド戦略」で制約を乗り越える: 技術的な必要性(例:衝撃強度確保
 のために添加材の配合比率を減らす)と、契約上の条件(例:含有率10%)が矛
 盾する場合、粉末状の添加剤を別途追加するといったハイブリッド戦略を講じ、
 両立を図るべきです。

• データに基づき優先順位をつける: 闇雲な実験は避け、データ分析(DoEの活用
 やMIの考え方)に基づき、最もインパクトが大きい要因から着手し、リソースの
 効率を最大化します。

教訓 3:高度な組織連携と「コミュニケーションの透明性」を確保する
新技術開発は、企業内の部門間、および外部の専門家・支援機関との密な連携なく
しては成功しません。予期せぬ困難な状況下では、コミュニケーションの「量」
よりも「質」と「透明性」が重要になります。

心構え:記録と連携がプロジェクトの信頼性を担保する
• 支援機関とのやり取りは「文書ベース」で外部支援機関とのやり取りにおいては
 記録に残らない電話は避け、メール等の文書ベースでのコミュニケーションを
 徹底し、透明性と信頼性を確保します。

• 戦略会議で認識を統一する: 重要な文書(変更申請書や報告書)を作成する際は
 チーム全体で戦略会議を開き、文書の文面や論理構成を慎重に吟味することが
 求められます。これにより、社内外の認識のズレを防ぎます。

• 技術継承と現場情報の重視: 大学の基礎研究者と企業の開発担当者間で技術
 ノウハウの継承体制を構築し、実験担当者が現場の実情を正確に伝えられるよう
 経営層(社長)への報告会議にも同席させるなど、現場のファクトデータに基づ
 く認識の統一を図ります。

• 顧客の声で目標を具体化する: 開発初期段階から想定顧客とのコミュニケーシ
 ョンを活発化させ、開発目標を要求仕様や要望価格に具体的に落とし込み、開発
 成果が市場ニーズに合致するように調整します。

教訓 4:最終的な「工業的な経済性」を常に追求する
研究開発は自己満足で終わってはならず、最終的に事業化に繋がらなければ意味が
ありません。技術的な実現可能性だけでなく、量産化におけるコストとプロセス
の最適化を並行して進める必要があります。

心構え:量産とコストダウンのシナリオを「開発の初期段階」から織り込む
• 設備投資はボトルネック解消の手段と捉える: 小型設備の物理的限界(熱や
 トルクの不足)が判明した際、リソースの浪費を防ぐために、大型機への戦略
 的なスケールアップといった大胆な設備投資を最優先事項として実行します。
 これは、単に生産量を増やすだけでなく、プロセスを妨げる「焼き付き」や
 「粉砕不良」といった不安定要因を工学的に排除するための必須条件です。

• 自動化と人件費削減を計画する: 手作業が多いプロセスは初期の人件費を高騰
 させる原因となるため、量産化の計画では、自動化・省人化のシナリオを明確
 に立て、コストダウンの見通しを具体的に示します。

• 次世代原料による効率化を狙う: 現状のプロセスに満足せず、さらにコストを
 圧倒的に低く抑えられる新しいプロセスを継続的に探索し、将来的な生産性向上
(1.5倍向上)の可能性を追求します。

以上、これから新技術開発に挑戦する中小企業のプロジェクトリーダーの皆さんの
心構えとして参考にしていただければ幸いです。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

ものづくり現場の品質管理、人材育成のプロ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ群馬
  3. 群馬のビジネス
  4. 群馬の人材育成・社員研修
  5. 濱田金男
  6. コラム一覧
  7. 【中小企業技術開発プロジェクトリーダーへ】新技術開発を成功に導く4つの教訓と、成功のための心構え

濱田金男プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼