トヨタ生産方式で生まれた「ポカヨケ」と「エラープルーフ」の考え方;ポカミスを防ぐには?
ここでは、食品トレーサビリティシステムをこれから導入しようとする
企業、またはすでに導入している事業者に向けて、システム導入の目的
や留意点、基本事項、具体的な導入手順などを解説しています。
1.食品トレーサビリティシステム導入の目的
①食品事故発生時の迅速な原因究明と被害拡大防止
問題が発生した食品の流通経路を特定することで、原因究明を迅速化し
汚染された食品の回収を効率的に行うことができます。
②食品表示の信頼性向上
食品の生産・加工・流通の履歴を明確にすることで、消費者は表示内容
の信憑性を確認でき、安心して食品を購入することができます。
③業務効率化
食品の識別記号による管理や情報共有によって、在庫管理や品質管理を
効率化し、コスト削減や品質向上に繋げることができます。
2.システム導入の基本事項
①食品の識別と対応づけ
・各段階で食品を識別し、仕入先・販売先と対応づけるルールを定め、
記録・保管する必要があります。
・識別単位はロットまたは個体・個別製品となり、それぞれに識別記号
を付与します。
・ロットの形成は、食品安全管理、表示への対応、品質管理の効率化を
考慮して行います。
・識別記号は重複しないようにルールを定め、関係者間で統一すること
が望ましいです。
・事業者内部での識別単位の対応づけルールを定め、分別管理を徹底
します。
②情報の記録
トレーサビリティ確保に必要な情報(識別記号、仕入先・販売先、日時
場所など)に加え、目的に応じて付加的な情報(生産・加工・流通工程
の履歴など)を記録します。
③情報の蓄積・保管
記録した情報は、設定した目的や食品の特性に応じて、適切な期間・方法
で保管します。
④トレーサビリティシステムの検証
システムの信頼性を確保するため、モニタリング、内部監査、外部監査
を実施します。
⑤情報の伝達と開示
事業者間、国および地方公共団体、消費者への情報伝達・開示の方法を
定めます。
3.システム導入の進め方
①事業者間の連携と調整
フードチェーン全体でのトレーサビリティ確保のため、関係事業者間で
組織を形成するか、既存システムの調整を行う必要があります。
②現状の把握
社会的な課題や消費者ニーズ、食品の流通経路、活用可能な資源などを
把握します。
③基本構想書の作成
システムの目的、対象範囲、識別・対応づけルール、記録情報、検証
方法、情報伝達・開示方法などを明確化します。
④体制整備と役割分担
システム運用のための組織・体制を構築し、各事業者・担当者の役割と
責任を明確にします。
⑤実施計画の作成
基本構想書に基づき、各事業者内部での具体的な実施計画を策定します。
⑥トレーサビリティ手順書の作成
実施計画に基づき、各作業担当者向けの手順書を作成します。
⑦導入スケジュールの作成
教育・研修、試験運用などのスケジュールを作成します。
⑧関係者の研修
システムの目的や作業内容を理解させるための研修を実施します。
⑩電子情報システムの構築(任意)
必要に応じて、電子情報システムを構築します。
⑪広報活動
消費者や関連事業者に向けて、トレーサビリティシステムの導入を
周知します。
⑫システムの改善・更新
定期的な評価に基づき、システムの改善・更新を行います。
⑬簡易システムの導入
小規模な事業者向けに、安価で導入しやすいロット管理システムが市販
されています。これらのシステムは、必要な機能が絞られており、導入
や操作が比較的容易です。
また、ある程度のITスキルがあれば、Excel VBAなどを活用して、簡易
的なロット管理システムを自作することも可能です。ただし、システム
のメンテナンスや更新には、専門的な知識が必要となる場合があります。
注意点として、システム導入自体が目的にならないよう、運用開始後も
定期的に見直しを行い、改善していくことが重要です。
また食品衛生法などの関連法規を遵守する必要があります。
4.ロット付与とロット管理
食品事故を防止し、発生時に迅速な追跡調査を行うためには、ロットの
付与と適切なロット管理が不可欠です。ロットとは、同一条件下で生産
・加工された製品のまとまりのことです。ロット管理とは、このロット
単位で製品を管理し、追跡できるようにすることです。
(1)ロット形成の基準設定
製造工程における危害要因を考慮し、同一の危害要因にさらされた製品を
同じロットにまとめます。
製品ラベルに記載される情報(品種、原産地、原材料など)が同一である
製品を同じロットにまとめます。
鮮度や品質が均一な製品を同じロットにまとめることで、品質管理を容易
にします。
(2)識別記号の付与
各ロットに固有の識別記号(ロット番号など)を付与します。識別記号は
重複なく、一意にロットを識別できるものでなければなりません。
識別記号は、製品ラベル、包装箱、送り状などに明記します。バーコード
や二次元コードなどを活用することで、情報管理の効率化を図ることが
できます。
(3)情報の記録と管理
各ロットの生産・加工・流通に関する情報を記録し、管理します。
・原材料情報:入荷日、ロット番号、産地、使用期限、仕入先など
・製造情報:製造日、製造ライン、担当者、使用設備など
・加工情報:加工日、加工内容、担当者、使用設備など
・包装情報:包装日、包装形態、担当者、使用設備など
・出荷情報:出荷日、出荷先、出荷量、ロット番号、運送業者など
記録した情報は、帳票、データベース、スプレッドシートなどを用いて
管理します。
これらは、専用の生産管理クラウドシステムを導入することで、情報管理
の効率化、正確性の向上、迅速な情報検索などが可能になります。
(4)ロットの分別管理
異なるロットの製品が混ざらないよう、保管場所や搬送方法などを工夫し
ロットごとに分別管理を行います。
必要に応じて、ロットごとに識別表示(ラベル、タグなど)を付けて区別
します。
(5)トレーサビリティシステムの検証
定期的にトレーサビリティシステムの検証を行い、適切に機能していること
を確認します。
検証方法としては、模擬的な食品事故発生を想定した追跡訓練などが有効
です。
(6)ロット管理の重要性
適切なロット管理を実施することで、以下のような効果が期待できます。
①食品事故の発生防止
ロット単位で品質管理を行うことで、問題のある製品の出荷を未然に
防ぐことができます。
②食品事故発生時の迅速な対応
問題発生ロットを特定し、流通経路を迅速に追跡することで、被害
拡大を最小限に抑えることができます。
③消費者への情報提供
問題発生時に、対象ロットを特定し、消費者に正確な情報を提供する
ことができます。
④企業の信頼性向上
食品の安全性を確保し、消費者への責任を果たすことで、企業の信頼
性を向上させることができます。
5.食品事故発生時のトレーサビリティシステムによる追跡調査
食品事故が発生した場合、トレーサビリティシステムを用いて、以下の手順
で追跡調査を行います。
①問題発生製品の特定
事故が発生した製品の識別記号(ロット番号など)を特定します。
②情報収集
問題発生製品に関する情報を収集します。具体的には、製造日、製造
ライン、使用原材料、出荷先などを特定します。[3-5] この情報は、製品
ラベル、送り状、帳票類、データベースなどに記録されています。
③流通経路の追跡
収集した情報をもとに、問題発生製品の流通経路を追跡します。
具体的には、どの事業者から仕入れ、どの事業者に出荷したのかを、記録
された情報に基づいて特定していきます。
④原因の究明
流通経路を特定することで、問題発生の原因を究明します。
例えば、特定の原材料が原因であるのか、特定の製造工程に問題がある
のかなどを、記録された情報や関係事業者への聞き取りによって調査
します。
⑤回収・廃棄
必要に応じて、問題発生製品の回収や廃棄を行います。
トレーサビリティシステムによって、回収対象製品を特定し、迅速かつ
効率的に回収することができます。
⑥システム化による効率的な追跡調査
トレーサビリティシステムをシステム化することで、追跡調査をより
効率的に行うことができます。
システム化により、膨大な記録の中から必要な情報を迅速に検索する
ことが可能になり、システム上で情報を共有することで、関係事業者間
での情報伝達がスムーズになり、迅速な調査が可能になります。
またシステム化により、人為的なミスを減らし、情報の正確性を高める
ことができます。
(留意点)
システム導入・運用コストと期待される効果を比較検討し、適切なシス
テムを構築することが重要です。
また、トレーサビリティシステムは食品の移動を把握するシステムであり
食品安全管理は別途HACCPなどのシステムを導入する必要があります。
そのほか、システム導入・運用にあたっては、関連法規を遵守する必要が
あります。
この資料は、食品トレーサビリティシステム導入のための基本的な考え方
を示したものであり、具体的なシステム構築は個々の事業者の状況に合わ
せて行う必要があります。
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