生成AIを活用した「未然防止型」設計プロセスの構築~上流工程での「抜け漏れ」をゼロにする:過去トラブルの教訓とAIの網羅性を融合~

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

この解説は、経営層や関係部門に対し、「なぜ今、AI活用なのか?」「それによって設計プロセスはどう変わるのか?」を論理的に説明し、社内の合意形成を図るための叩き台としてご利用いただけます。

1. 背景と目的:なぜ従来の設計プロセスでは限界なのか
(1)現状の課題:「モグラたたき」からの脱却
多くの製造現場では、試作・評価段階で顕在化した問題を解決する「再発防止型(モグラたたき)」の対応に追われています。

しかし、市場や後工程で発生するトラブルは「氷山の一角」に過ぎず、その下には膨大な潜在リスク(欠陥)が隠れています。 従来のプロセスでは、設計者の経験や記憶に依存しており、ベテランの退職や経験不足により、過去の不具合事例(過去トラ)が参照されず、同じ失敗が繰り返される(モグラたたき)リスクが高まっています。

(2)目指す姿:「未然防止型」設計への転換
設計の最も上流段階で、潜在的なリスク(故障モード)に「気づく」仕組みを構築します。
人間(設計者)の創造力と、生成AI(NotebookLM等)の膨大なデータ処理能力を組み合わせることで、「未知の問題」を予測し、設計段階で品質を作り込む**「ボトムアップ型設計」**を実現します。

2. コア・コンセプト:生成AI×DRBFMによる「気づき」の拡張
本手法では、生成AIを単なる効率化ツールではなく、「過去の全トラブル知識を持つ参謀(スーパーアシスタント)」として設計プロセスに組み込みます。

(1)「変化点」への着目(DRBFMの基本)
トラブルの多くは、従来設計からの「変更点」や「新規点」に潜んでいます。
①人間の役割: 設計意図に基づき、何を変えたか(新規点・変更点)を明確にする。
②AIの役割: 変更点リストに基づき、過去の類似事例や技術文献から「その変更
 によって何が起こりうるか」のリスクシナリオを提示する。

(2)「故障モード」の網羅的抽出
経験の浅い設計者にとって、自分の設計が「どう壊れるか(故障モード)」を想像することは困難です。
①AIの活用:社内の過去トラブル報告書、クレーム情報、FMEAシート等を学習
 したAI(RAG/NotebookLM)が、該当部品に関連する過去の失敗事例を即座
 に抽出する。
②一般的な工学知識(Deep Research情報)に基づき、「摩耗」「断線」
 「ショート」「異物混入」などの故障モードを抜け漏れなくリストアップし
 ドラフト(下書き)を作成する。

3. 具体的な進め方(実施フロー)
以下の4ステップで、AIと協働しながら設計を進めます。

STEP 1:要求品質の明確化(QFD × AI)
 顧客の曖昧な要求やクレーム情報をAIに入力し、具体的な「品質特性(技術
 仕様)」に変換した「QFD品質表」を作成します。
 これにより、設計の初期段階で「守るべき機能」を定義します。

STEP 2:リスクの所在特定(新規点・変更点リスト × AI)
 「従来品(流用元)」と「今回の新設計」の差異をAIに比較・分析させ、
 「新規点・変更点リスト」を作成します。
 「なぜ変えたのか?(変更理由)」「そこ懸念点は何か?」をAIとの対話
 を通じて明確にします。

STEP 3:故障モードの予測と対策(FMEA/故障モード一覧表 × AI)
 抽出された変更点に対し、AIが過去のナレッジベースから関連するトラブル
 事例を引き出し、「故障モード一覧表」及び「故障モード抽出表」の原案を
 作成します。

 設計者はAIが提示したリスク(例:カシメ圧不足による脱落、加工硬化に
 よるクラック等)に対し、具体的な対策(構造変更、試験実施等)を立案
 します。
 設計者は、その評価結果をセルフFMEA評価表にまとめ、信頼性・安全性
 に問題ないかを自己評価します。

STEP 4:デザインレビュー(DR)による補完
 AIが作成した資料(セルフFMEA評価シート等)を基に、人間(有識者・
 関係部門)がレビューを行います。

AIは「抜け漏れ防止」の網羅性を担い、人間は「妥当性判断」と「責任」を
担うことで、完璧な信頼性設計を目指します。

4. 期待される効果
①「抜け漏れ」の撲滅: 個人の記憶に頼らず、AIが過去の膨大なデータから
 リスクを示唆するため、検討漏れが激減します。
②設計品質の標準化: * ベテランの知見をAI化(ナレッジベース化)すること
 で、若手や経験の浅い設計者でも一定レベル以上のFMEA/DRBFMが実施
 可能になります。
③手戻り工数の削減: 試作・評価段階でのトラブル発生を未然に防ぐことで、
 設計変更や再試作の手戻りコストを最小化します。

5. 結論
本取り組みは、単なるツールの導入ではありません。過去の失敗(負の遺産)
をAIという最新技術で「資産」に変え、設計者自身が「気づき」を得て成長
する「技術伝承と品質保証のDX」です。

 高崎ものづくり技術研究所では、社員の皆さんと一緒に設計の仕組みを
 考えたり設計者向けの講習会を行ったり、設計力向上のお手伝いをしております。
 また、「若手社員グループ学習」「熟練技術の見える化」「AI活用業務効率化」
 などの個別案件についてもご相談をお受けしております。
  ★お問い合わせは <こちらから

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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