<導入事例>IoT・デジタル技術を活用した生産管理方式でジャストインタイム生産を目指すには
高崎ものづくり技術研究所の濱田です。
今回は、日本の農業が直面している課題と、それを解決するための「農業DX(デジタルトランスフォーメーション)」について、現場ですぐに実践できる視点からお話しします。
「DX」と聞くと、何か難しそうで、大掛かりなシステムや高額なロボットが必要だと思っていませんか?実は、もっと身近なところから、手元のスマートフォン1台から始められる改革なのです。
小さな一歩から始める「農業DX」
~スマホ1台で「勘と経験」
1. 日本の農業が直面する「2025年の崖」ならぬ「継承の危機」
現在、日本の農業従事者の平均年齢は68.7歳に達しており、主力は70代です。ここで最も恐れるべきは、単なる人手不足ではありません。長年現場で培われてきた熟練農家の「匠の技」や「鋭い勘」が、誰にも継承されないまま失われてしまうことです。
「今日は葉の色が薄いから、水を控えよう」。 こうしたベテランの判断は、長年の経験に基づく「暗黙知」であり、言葉やマニュアルにするのが非常に難しいものです。この「暗黙知」を、デジタル技術を使ってデータという「形式知」に変換し、次の世代へつないでいくこと。これが農業DXの核心的価値です。
2. 「スマート農業」と「農業DX」は違います
よく混同されがちですが、この2つは明確に違います。
●スマート農業(点の活動)
ロボットで収穫を楽にする、ドローンで農薬を撒くといった「作業の効率化」です。これはあくまで手段であり、「作業の置き換え」に過ぎません。
●農業DX(面の活動)
集めたデータを活用して「一番高く売れる時期に出荷する」「無駄な肥料コストを削減する」といった「経営の変革」を行うことです。
機械を入れて楽にはなったけれど、利益にはつながっていない。そうならないためには、データを活用して「稼ぐ力」につなげる視点が必要です。
3. 明日からできる「農業DX」3つのステップ
「高すぎる機械は買えない」「難しそう」という声もよく聞きます。しかし、DXの第一歩は、高額な投資ではなく「小さなデジタル成功体験」を積むことから始まります。
私が提案する、明日からできる「超・初歩的」な3ステップをご紹介します。
●【STEP 1】まずは無料アプリを入れる いきなり高機能なシステムは不要です。まずはスマホに、シンプルな「作業記録アプリ」や「日誌アプリ」を入れてみてください。目的は、デジタルの便利さを体感すること。「紙に書くより探しやすいな」と感じるだけで十分な進歩です。
●【STEP 2】写真を撮って保存する(センシング) 文字入力が面倒なら、写真を撮るだけでも立派なデータ収集です。 「葉の色」「土の乾き具合」などを毎日撮影し、保存してください。これが、ベテランの「目(センシング)」を記録に残すことにつながります。
●【STEP 3】週に1回振り返る(PDCA) ここが最も重要です。撮りためた写真や記録を週に一度見返してください。「去年より生育が早いな」「この時期に病気が出やすいな」という気づきを、翌年の計画に反映させます。これが「勘」から「データと戦略」に基づいた農業への転換点となります。
4. 「きつい農業」から「かっこよくて稼げる農業」へ
農業DXが目指すゴールは、ただ楽をすることではありません。「データを活用してもっと稼げる農業にする」「若い人が働きたくなる魅力的な職場にする」ことです。
休耕地が増えている今こそ、そこをチャンスと捉え、デジタルで人と人をつなぎ、新しいビジネスを生み出す土壌があります。
まずは、手元のスマートフォンで畑の写真を1枚撮ることから始めてみませんか?その小さな行動が、日本の農業の未来を変える大きな一歩になります。



