自社の技術力アップ、差別化にも寄与する生成AIの企業における活用方法:まず職場ではなにからスタートしていけば良いか?

濱田金男

濱田金男

テーマ:生成AIによる業務効率化

今や生成AIの企業における活用は、自社の熟練技能や過去トラブル、改善事例などを蓄積し、社内に水平展開、また、それらを学ぶ若手社員の教育ツールとしても活用が期待されています。このことで自社の技術力アップ、差別化にも寄与すると考えられます。そのために、まず職場ではなにからスタートしていけば良いでしょうか?

熟練技能や過去のトラブル事例を生成AIで知識化し、若手社員の育成や技術力向上に役立てるという構想は、企業の競争力を維持・強化するための未来への戦略的投資そのものです。
この目標を達成するために、職場では「スモールスタートによる知のインフラ構築」から着手することが、リスクを軽減しつつ着実に成果を出すための最も賢明な第一歩となります。
以下に、職場でまずスタートすべき具体的なステップを解説します。

1. まずは「AIエキスパート」を構築する:ツールの選定とス

まず取り組むべきは、社内の機密情報を安全かつ正確に扱うことができるAI環境を構築することです。
(1)AIツールの選定:RAGベースの活用
一般的な生成AI(ChatGPTなど)はインターネット上の広範な情報で学習しているため、企業の機密情報や独自のノウハウについては正確な回答ができません。そのため、自社の知識資産を活用するには、NotebookLMのような、ユーザーがアップロードした資料のみを情報源として回答を生成するAI(RAG:検索拡張生成)の活用が推奨されます。

NotebookLMが生成する全ての回答には、根拠となった資料の該当箇所が「引用」として明記されるため、正確性が命である技術情報の参照において信頼性が確保されます。

(2)スモールスタート(PoC)での開始
いきなり全社的なシステム導入を目指すのは失敗の原因となりやすいです。まずは課題が明確で範囲が限定された領域から始める「スモールスタート」を強く推奨します。
• 開始領域の例:「特定の製品ラインの技術文書一式」や「品質保証部門の過去の不具合報告書」など、特定の技術領域に限定して導入します。

• 目的:小さな成功体験を積み重ね、AI活用による効果を社内に可視化することで、その後の本格展開に向けた協力者を増やすことが最善の方法です。

2. 知識資産の「質」を高める:データの前処理の徹底

NotebookLMのようなRAGシステムには、「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」という鉄則があります。システムの回答品質は、投入するデータの品質によって100%決まると言っても過言ではありません。
したがって、最初のステップで最も注力すべきは、この地道な「データの前処理」であり、プロジェクトの成否の8割を占めるとされています。

(1)データの収集と種類
貴社の目標(熟練技能、過去トラブル、改善事例の蓄積)に応じて、以下の資料を収集し、NotebookLMに投入します。
• 熟練技能・暗黙知: ベテラン技術者へのヒアリングを記録したメモや音声・ビデオの文字起こし。言葉では表現しにくい「カン・コツ」も、文字起こしして投入することで形式知化できます。

• 過去トラブル・改善事例: 過去のバグレポート、インシデントログ、エラーレポート、詳細なデバッグノート。自動車リコール情報の事例では、事故の教訓や注意点を体系化し、ナレッジデータベースの文書に変換しています。

• 形式知: 設計図書、製造ノウハウ、作業手順書(SOP)などの公式文書。

(2)データのクレンジングと正規化
収集したデータに対して、以下の作業を徹底することで、検索精度とAIの理解度を劇的に向上させます。
• クレンジング: 文書内の不要なヘッダー・フッター、ページ番号、広告などを除去します。

• フォーマット統一: WordやPDFなどを、AIが最も理解しやすいMarkdownなどのシンプルなテキスト形式に変換し、見出しやリストといった文書構造を正しく伝えます。

• 用語の正規化: 社内での表記揺れ(例:「assy」「アッセンブリ」「組立品」)を統一します。この一手間が、検索精度を劇的に向上させる鍵となります。

3. 技術力向上と若手育成への展開

知識資産の準備が整い、NotebookLMが「社内専門AI」として機能し始めたら、これを若手育成と技術力アップの「知のインフラ」として活用します。
(1)若手育成の高速道路
若手社員はNotebookLMに対し、「〇〇というエラーが出た時の過去の対策事例を教えて」「この部品の設計で最も注意すべき点は?」といった具体的な質問を投げかけるだけで、まるで熟練の先輩が隣にいるかのように、文脈に沿った具体的なアドバイスを得られるようになります。

これは、ベテラン技術者の頭の中にしかない設計思想や過去の教訓を形式知へと転換するものであり、教育担当者の負担を劇的に軽減し、新人の早期戦力化を可能にする「技術継承の高速道路」を築きます。

(2)「車輪の再発明」の撲滅
エンジニアは、ファイルサーバーの奥深くに眠る過去の設計書や実験レポートなどをAIに横断的に検索させることで、「耐熱性に優れた樹脂部品の過去の設計事例をリストアップして」といった問いに瞬時に回答を得ることができます。
これにより、過去の優れた設計を流用・改良することが容易になり、ゼロから設計し直すという「車輪の再発明」を撲滅できます。

まとめ:パートナーとしてのAI活用

生成AIは、技術者の「勘と経験」を不要にするものではなく、むしろその専門知識や経験をデータ駆動型のアプローチによって増幅・加速させる強力な「パートナー」です。

最初にすべきことは、このパートナーに質の高い知識を注入するための「データの前処理」であり、これが、個別の成功体験を「再現可能なノウハウ」へと昇華させるための土台となります。
この取り組みは、知識を個人の記憶やファイルサーバーの片隅に眠らせるのではなく、組織全体の集合知として常に活用できる「生きた資産」へと変革させることを意味します。

それは、企業が変化の激しい時代を生き抜き、持続的な競争優位性を確立するための礎となるでしょう。

 ★生成AI活用の職場でまずスタートすべき具体的なステップについてご相談を受け付けています。
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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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