以外と理解されない「生産性向上」「付加価値」の考え方を整理してみました。
地政学的リスクの高まりや物流コストの変動を受け、多くの日本企業がサプライチェーンの見直しを迫られています。特に中国への生産依存は、コストメリットと表裏一体のリスクとして長年議論されてきました。
しかし、長年の取引関係や現地に最適化されたサプライチェーンを即座に切り離すことは現実的ではありません。多くの企業にとっての現実解は、「取引を継続しつつ、リスクを徹底的に管理する」こと、そして「従来の関係性を見直し、新たな取引形態を模索する」ことです。
本記事では、専門的な管理手順書に基づき、中国企業との取引を継続するための具体的なリスク管理策と、単なる「外注」を超えた代替取引手段について解説します。
1. 取引継続のための3つのリスク管理策
海外取引、特に中国の工場との取引において、日本国内の「阿吽の呼吸」や性善説に基づく管理は機能しません 。リスクを最小化するには、性悪説に立った「契約」と「管理プロセス」の徹底が不可欠です。
(1) 「性善説」の排除:契約によるリスクの「見える化」
すべてのリスク管理は、詳細な契約書の締結から始まります 。標準的な雛形を流用するのではなく、起こりうるあらゆる事態を想定した「防御的」な内容を盛り込む必要があります 。
・秘密保持の徹底: 取引で知り得た設計仕様やノウハウの漏洩を厳しく禁じます 。
・「横流し」の禁止: 発注側の図面や仕様書に基づく製品・類似品を、第三者に製作・販売することを禁止します 。
・「中抜き」の防止: 発注側の承諾なく、その顧客と直接交渉・取引することを禁止します 。
・ブラックボックス化の防止: 発注側の書面による承諾なしに、業務の一部または全部を第三者に再委託することを厳しく制限します 。
・紛争のルール化: 契約解除の具体的な条件(支払停止、契約違反、会社更生等)を明記し 、紛争解決の手段(例:仲裁機関)をあらかじめ定めておきます 。
(2) 「現場任せ」の排除:データに基づく監査と「割り切り」
契約(ルール)を定めたら、それが実行されているかを定期的に確認する「管理」のプロセスが必要です 。
・定期監査の実施: 年に1回など、定期的な工程監査を実施し、品質状況を確認します 。
・「活動の記録」を確認する: 監査で見るべきは、監査のために準備された「きれいな現場」ではありません 。工場の真の実力は、「過去の活動の記録」に表れます 。
過去の「不具合発生の原因調査、対策の記録」
「多能工の教育計画とその実績」
「生産性を上げるための取組み内容と成果」
これらを時系列で確認し、PDCAが回っているかを評価します 。
・取引先のランク付けと「割り切り」: 監査結果や実績に基づき、「取引先ランク設定」を行います 。Aランク(最優先)からDランク(新規取引不可)までを明確にし 、Dランクの取引先には取引停止を通告するなど、非情な「割り切り」を行うことが、結果として自社のリスクを最小化します 。
(3) 「熟練工頼み」の排除:品質保証体制の再構築
日本の工場運営は、しばしば熟練作業者のスキルや解釈に依存しがちですが、人材の流動性が高い海外工場ではその前提が崩れます 。
・「流出防止」への集中: 工程内での作り込み(性善説)が期待しにくい以上、品質管理のポイントは「不良品を自社(日本)へ入れさせない」こと、すなわち「流出防止」に置くべきです 。梱包前に第三者検査を行う体制の構築を要求することが重要です 。
・「完璧な図面」の支給: 作業者の解釈に依存しないよう、図面、仕様書、作業指示書は「多少不備があっても日本では通用する」という感覚を捨て、完璧なものを支給する必要があります 。
・「限度見本」の活用: 外観や色合い、キズなど、数値化しにくい官能検査項目については、必ず「限度見本」を用意し、判断基準の曖昧さをなくします 。
・品質レベルの明確な通告: 監査時には、目先の問題点を指摘するだけでなく、「いつまでに、このレベルを達成すべき」という要求品質レベルをはっきりと通告し、期限後に達成状況を確認することが重要です 。
2. 代替取引手段の構築:「連携」へのシフト
サプライチェーンの見直しは、単に「どこから安く調達するか」という問題だけではありません。従来の「下請け構造」から脱却し、新たな付加価値を生み出す「連携(パートナーシップ)」へと関係性をシフトさせる好機でもあります 。
中国の人件費は高騰し、「安くて良いもの」を委託生産するビジネスモデルは限界を迎えつつあります 。一方で、多くの海外企業は設計能力や開発リソースを強化しています。
今後は、単なる「製造委託」だけでなく、以下のような「上流工程」での連携を模索することが、新たな取引手段の構築につながります 。
CAD設計業務の委託
試作品製作の連携
先端材料や加工技術に関する共同研究開発
これにより、相手企業の経営資源(リソース)を有効活用し、自社はより付加価値の高い業務に集中することができます 。
まとめ
サプライチェーンの見直しは、「脱・中国」という短絡的な結論を意味するものではありません。
まずは足元のリスクを徹底的に洗い出し、「契約」と「監査」というグローバルスタンダードな管理手法を再徹底すること。そして同時に、従来の「発注者と外注先」という関係性を見直し、設計や開発を共に行う「パートナー」として連携できないか、新たな関係性を模索すること。
今こそ、自社の契約書とサプライヤーの管理体制を、ゼロベースで見直す時です。



