「どうしてまた同じミスをしたんだ!」工場の現場で、このような怒声が響いていませんか?はっきり言って「不注意」を原因にしている限り、そのミスは必ず再発します。
製造現場で発生した問題に対し、「なぜなぜ分析」を実施したものの、結局は「作業者のポカミス」「マニュアルの不備」といった製造現場の対策で終わっていませんか?
もし、同じような問題が繰り返すなら、その真の原因は製造現場ではなく、その問題を発生させた「仕組み」、特に上流工程(製品設計や工程設計)に潜んでいる可能性が高いです。
本日は、従来の分析から発想を転換し、上流工程の関係者を巻き込んで恒久的な再発防止を実現する、「越境型」なぜなぜ分析の具体的な方法をご紹介します。
●従来の「なぜなぜ」が設計原因に辿り着けない3つの理由
一般に提供されている「なぜなぜ分析」テキストにもあるように、多くの場合、なぜなぜ分析は途中で止まってしまいます。特に設計原因に辿り着けない主な理由は以下の3点です。
(1)「人・現場」に焦点を当てすぎる
原因追求の過程で「作業者がミスした」「管理者が教育を怠った」といった、現場の行動に原因を求めてしまいがちです。これにより、分析が「なぜ2(作業の不良)」の階層で終結してしまいます。
(2)関係者の欠如
設計や工程設計の担当者が分析の場にいないため、現場メンバーだけで「なぜ、この設計になったのか?」という問いに深入りできません。
(3)設計ルールの未検証
「設計が悪い」という結論になっても、「なぜその設計に至ったか?」という設計プロセスのルールや検証の不備まで追求が及ばず、単なる設計変更という対症療法で終わってしまいます。
●発想を変える:「越境型」なぜなぜ分析の進め方
真の原因が上流工程にあると仮定し、分析の焦点を意図的に(上流工程・仕組みの不備)の階層へ引き上げましょう。
(1)参加者の強制的な「越境」と拡充
従来の「現場メンバーと直属の上司」という構成から脱却し、初期段階から以下のメンバーを分析チームに加えます。
分担と役割り
a.現場作業者・管理者
物理現象(なぜ1)と作業の実態(なぜ2)に関する事実の提示
b.製品設計者
製品の仕様や公差が決定した根拠と意図の説明(なぜ3)
c.工程設計・製造技術者
加工方法、設備、治工具が決定した根拠とリスク検証の説明(なぜ3)
d.品質保証部門
品質マネジメントシステムの不備、ルール違反の監視と監査(なぜ4)
特に設計者は、現場の問題が「設計や工程設計の不備」に起因すると考えられる場合、分析の場に出席を義務付け、「なぜこの設計(工程)になったのか」を説明する責任を負わせることが重要です。
(2)「なぜ3」への強制的な問いかけを組み込む
分析フローに「なぜ2(現場対策)」が出た後、意図的に「なぜ3(設計・仕組みの不備)」へと問いかけをシフトするチェックポイントを設けます。
a.現場原因特定後:「この問題は、現場の作業者やルールが完璧だったとしても、設計段階で予防できた可能性はないか?」→ 現場から設計への視点転換
b.設計者へ:「なぜ、この工程で不良が発生するリスクを、設計レビューやFMEA(故障モード影響解析)で事前に潰しきれなかったのか?」→ 設計のプロセスと検証不備の検証
c.設計者へ「なぜ、現場でポカミスが起こりやすい(やりにくい)工程・設計になってしまったのか?(ポカミス誘発要因)」→「設計の作りやすさ」のルール検証
(3)原因の分類に「設計・仕組みのM」を追加する
製造現場の要因分類に用いる「5M(人・機械・材料・方法・測定)」に加え、原因追求のフレームワークに**「設計/仕組み(Mechanism)」**という大きな分類を設けます。
a.設計/仕組み(Mechanism)
・製品設計上の問題(公差、材料選定)
・工程設計上の問題(加工順序、設備選定、レイアウト)
・品質システムの不備(変更点管理、検証ルール、教育訓練の仕組み)
設計原因を一つの独立した要因として捉えることで、現場対策で思考が停止するのを防ぎ、分析の網羅性(MECE)を上流まで広げることができます。
●まとめ:真の再発防止は「仕組みの改善」から
「越境型」なぜなぜ分析は、一見すると時間と手間がかかるように見えます。しかし、現場と上流工程が問題を共有し、設計プロセス自体を検証・改善することで、以下のような大きな効果が生まれます。
(1)真の再発防止
根本原因である「設計の仕組みの不備」が解消されるため、同じ問題が現場で発生しなくなります。
(2)水平展開の促進
設計ルールや検証プロセスが改善されるため、他の製品や工程にも自動的に不良の予防策が適用されます。
(3)設計品質の向上
製造現場の「生の声」が設計プロセスにフィードバックされ、設計品質そのものが向上します。
「なぜなぜ分析」の究極の目的は、不良を出さない仕組みを作り上げることです。現場の責任追及で終わらせず、ぜひこの「越境型」分析で、品質レベルを一段階引き上げてください。



