崖っぷちか、それとも新たな覇権か?矛盾だらけの中国経済の「未来のシナリオ」

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

皆さん、こんにちは。今回は、世界経済の最大のアキレス腱とも言える、「中国は一体どこへ向かうのか?」という、最も困難で重要な問いについて、徹底的に深掘りして解説していきます。
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ニュースを見ていると、「中国経済はもう崩壊寸前だ」という話と、「EVやAIで世界を席巻する第2の奇跡が起きている」という、全く矛盾した二つの声が聞こえてきますね。
果たして、この巨大な国は本当に「静かなる崩壊」に向かっているのでしょうか?それとも、国家主導の壮大な賭けによって、新たな覇権国家になろうとしているのでしょうか?

データが示す「静かなる腐敗」と、政府が仕掛ける「無謀な大実験」。この二つの視点から、中国の未来のシナリオを読み解いていきましょう。
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【シナリオA】2026年を待たずして崩壊する「末期症状」
多くの専門家は、中国が今、単なる景気低迷ではなく、国家の土台そのものが揺らぐ危機に直面していると指摘しています。最も深刻な病状は、国民が国家システムそのものを信じていない、「信頼の崩壊」です。

この危機は、すでに以下の六つの末期症状として、社会全体に全身転移しています。

1. 経済の完全失速と「世界の工場」の残骸
かつて「世界の工場」と呼ばれた製造業は、現在「見るも無惨な残骸」となっています。
• 製造業の景況感を示すPMI指数は6ヶ月連続で危険域の45以下に沈んでいます。
• 不動産バブルの崩壊(エバーグランデなど大企業の破綻)により、北京の住宅価格は25%も下落しました。
• 地方政府の財政は崩壊し、借金は2,000兆円を超え、土地バブルで失われた収入を補うために公有財産まで売却されています。

市場が縮小する中で、企業同士が生き残りをかけた地獄の価格競争、つまり「共食い(友食い)」を始めています。
• EV、半導体、太陽光パネルなどあらゆる業界で、利益度外視のダンピング(不当廉売)が勃発。
• 特に国有企業が政府補助金を使ってダンピングを行うため、民間企業は赤字覚悟の値下げ競争に突入。
• その結果、中小企業の倒産率は40%増加。EV業界ではBYDの値下げにより、この1年で100社以上の新興企業が消え、30万人が失職しました。

表面上強固に見える習近平政権の足元も揺らいでいます。習近平氏の反腐敗運動による政敵の粛清(今年だけでも500人以上の幹部が調査対象)の結果、「疑心暗鬼モード」に突入し、地方の統治が麻痺しています。

さらに、地方官僚たちは、命令を表向きは従いつつも、政策実行を故意に遅らせる「無言のサボタージュ」を実行しています。これは、誰も声を上げない社会主義型のストライキであり、重要プロジェクトが最大6ヶ月も遅延する例も出ています。

国に未来を感じられなくなった富裕層、高度人材、一般市民が、一斉に国からの脱出(チャイナエクソダス)を始めています。
• 2019年以降、中国を出た人は110万人以上。特に習近平第3期目以降加速し、2025年は8ヶ月で40万人を突破しました。
• 深センのソフトウェアエンジニアの20%以上が海外流出するなど、中国は**「ブレインドレイン国家」**化しています。
• 富裕層も合法的に脱出しており、2025年には1万8,000人の億万長者が出国し、**総資産45兆円(3000億ドル)**が流出する予測です。

経済の低迷、失業、希望の喪失に絶望した人々が、社会への復讐として無差別暴力事件を起こすケースが急増しています。
• 上海では事件数が35%増となり、学校やショッピングモールといった日常の場所が地獄に変わることで、国民は常に怯えています。
• 政府は事件の原因を公表せず、ネットから毎月100万以上の記事や映像を削除して情報統制を強化していますが、これは逆に不安と不信を増すだけです。

「頑張っても報われないなら最初から頑張らない」という無気力な抵抗運動、「寝そべり主義」が社会運動として広まっています。
• 彼らのスローガンは「結婚しない、家も買わない、子供も作らない」であり、北京や広州の30%以上の若者が共感。
• 結果、結婚率は20%減少、出生率は1人未満となり、国家の存続に関わるレベルの危機です。

これらの末期症状は複雑に絡み合い、中国全体が癌細胞に侵されたような状態にあり、このままでは2026年を待たずして崩壊するという見方が強まっています。
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【シナリオB】国家資本主義による「第2の経済的奇跡」への賭け
しかし、中国経済が崩壊しないどころか、世界市場を席巻しているという、冒頭で述べた「パラドックス」も存在します。なぜ内側では消費が冷え込んでいるのに、産業は成長し続けられるのでしょうか?

これは、中国が日本とは全く違う、「国家資本主義」という無謀な道を選んだからです。
現在の中国は、かつて日本が経験した「失われた30年」に似た側面を多く抱えています。不動産バブルの崩壊、デフレ、若者の深刻な失業率...。消費者は苦しみ、お金を使わなくなっています。

本来であれば、消費の低迷は製造業の不振に直結し、経済全体が停滞するはずです。
ところが、中国は決定的に違いました。
2021年の不動産バブル崩壊後、中国政府(共産党)は国内の銀行システムに対し、「不動産から手を引け。そして、その有り余る資金を戦略的な産業に全額投入しろ」と命令を下したのです。

中国の主要な銀行は全て国有または政府の強い影響下にあるため、この無茶な命令が通ってしまいました。銀行は、不動産への融資を減らす代わりに、製造業(EV、クリーンエネルギー、AIなど)へ巨額の資金を投入し始めました。

これにより、国内消費者が苦しんでいるにもかかわらず、政府の巨額の支援を受けた産業界は、世界市場を接する「第2の経済的奇跡」を演出しているのです。

しかし、この国家主導のモデルは、極めて危険な二つの巨大なリスクを抱えています。
リスク1:輸出への過度な依存と貿易摩擦
国内消費者が貧しいために、政府の支援でフル稼働する工場が作り出す大量の製品は、海外に輸出するしかありません。
この戦略は記録的な貿易黒字を生み出しましたが、当然、世界中との深刻な貿易摩擦を引き起こしています。

アメリカはすでに高関税の壁で締め出しを図り、EUも中国製の電気自動車に対して高い関税をかけ始めました。ブラジルやインドネシアなど、いわゆるグローバルサウスの国々さえも、安すぎる中国製品が自国の産業を破壊することを恐れ、反発し始めています。

中国は、「世界中を敵に回しかねない危うい戦略」を進んでいるのです。

リスク2:制御不能な借金の増加
この新たな経済モデルは、中国の借金を再び急速に増加させています。
中国の総債務(家計、企業、政府全て)の対GDP比は、すでに借金大国アメリカを上回っています。特に深刻なのは、中央政府ではなく、国有企業と地方政府の借金が爆発的に膨れ上がっている点です。この構造は、リーマンショック後の大規模な景気刺激策(インフラや不動産への投資大号令)の結果として形成されました。

この債務の増加は持続不可能であり、中国はいずれ痛みを伴う改革(消費を基盤とした経済モデルへの転換)を受け入れざるを得ないと、経済学者は指摘しています。
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まとめ:中国はどこに向かうのか?
現在の中国は、「崩壊への道(シナリオA)」と、「国家主導による覇権獲得への賭け(シナリオB)」という、相反する二つの力を同時に抱えて進んでいます。

中国政府は今、国内経済の健全性や国民の生活をある意味で犠牲にし、国家の威信をかけて産業力と地政学的な影響力を最大化するという壮大な実験を行っています。

目先の未来を予測するならば、中国は国家の力で問題を先送りし続けることは可能ですが、その持続可能性は極めて低いです。この国が本当に安定した発展を遂げるには、経済発展の「正解ルート」である、国民の消費をエンジンとした経済モデルへの転換が不可欠です。

しかし、これまで利益を享受してきた既得権益層(共産党幹部とその家族である国有企業や不動産トップ)が、その変革に激しく抵抗しているため、改革は実現していません。

この「大いなる矛盾」を抱えた中国が、世界史の中でどのような結末を迎えるのか。それは、この賭けが成功するか、あるいは内部の腐敗(六つの末期症状)と、貿易摩擦や債務危機といった外部の圧力が限界に達するかの、ギリギリの鬩ぎ合いによって決まるでしょう。

日本も隣国の危機と無関係ではいられません。今後もこの巨大な竜の動向を注視していく必要があります

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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