中国の不思議?なぜ不況の中で経済成長を続けられるのか

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

本動画は、「なぜ中国は不況の中で経済成長を続けられるのか」という現代世界における最大のパラドックスを解き明かすことを目的としています。
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1. 中国経済が抱えるパラドックス
現在の中国経済は奇妙な状況にあります。一方では、日本がかつて経験したような深刻な不況の兆しが見られます。具体的には、物価が上がらないデフレ、依然として高い水準にある若者の失業率、そして政府による景気刺激策の実施など、活力を失った病人のように見えます。

ところが、それと同時に、中国は「第2の経済的奇跡」と呼ぶべき脅威的な好景気を呈しています。昨年、中国は世界の主要な大国の中でトップクラスの経済成長率を記録し、電気自動車(EV)、クリーンエネルギー、AIといった最先端産業でわずか数年のうちに世界市場を席巻しました。

通常、深刻な不況と脅威的な好景気が同時に成り立つことはありえませんが、この矛盾した現象が現在の中国で起きています。

2. データの信頼性と「日本化」
当初、中国政府が経済統計の数字を偽っているのではないかという疑惑がありました。しかし、最近の米連邦準備制度理事会(FRB)の研究者による調査では、GDP以外の代替指標(小売売上高や工場生産指数など)を検証した結果、中国のGDP成長率の数字がおかしいという危険信号は見当たらず、数字は本物である可能性が高いと結論づけられました。

この問題の根はデータの偽造ではなく、消費者が苦しみながらも国全体としては成長しているという現実そのものの奇妙さにあります。
この現象を理解するには、中国経済の「日本化」という側面を見る必要があります。1960年代から70年代の日本、そして1990年代から2000年代初頭の中国は、投資主導型の成長モデルで驚異的な発展を遂げました。

政府が銀行システムをコントロールし、国民の貯蓄をインフラ建設(道路、工場、住宅など)に集中的に注ぎ込んだのです。また、労働者の賃金や通貨価値を意図的に低く抑えることで、輸出に極めて有利な環境を作り、製造業大国へと成長しました。

3. 成長モデルの限界と政治的抵抗
しかし、投資主導の成長モデルは、必要なインフラが満たされた時点で限界に達します。その証拠の一つが、投資過剰の結果として生まれた中国各地のゴーストタウンです。

この時点で、国は投資・輸出主導モデルを捨て、国民の消費をエンジンとするサービス業主導の経済モデルに転換する必要に迫られます。サービス業は高度な製造業よりもはるかに多くの雇用を生み出し、経済発展の「正解ルート」とされています。

このモデル転換は、政治的にとてつもない困難を伴います。これまで製造業や建設業といった優遇産業に与えてきた特権を剥奪し、新しい産業に与え直すことを意味するためです。投資主導で巨万の富を築いた不動産デベロッパーや国有企業のトップたち(その多くは共産党の高級幹部とその家族)は、自らの権力や富が相対的に低下するこの変革に激しく抵抗しました。

4. 痛みを避けるための「魔法の選択肢」
政治的な痛みを伴う改革を避けつつ経済成長を続けるため、政府は「魔法の第3の選択肢」として、住宅バブルを膨らませることを選びました。政府は頭金比率の緩和や返済能力の基準の引き下げなど、安全装置としての規制を意図的に緩め、銀行に住宅ローン供給を増やすよう圧力をかけました。

住宅価格が上昇することで、国民は給料が増えていなくても「自分が豊かになった」と錯覚し(資産効果)、財布の紐を緩めて消費を増やしました。

この住宅バブルという「麻薬」は、本来成長が鈍化する時期のカンフル剤として機能しましたが、その代償として国の借金はGDP成長をはるかに上回るペースで爆発的に増加しました。中国の債務の対GDP比は、2008年の約130%から2019年には約260%へと倍増しました。

5. 日本との決定的な違い:国家資本主義の介入
住宅バブルは必ず弾けます。価格が下落に転じると、人々は貧しくなったと感じて消費を切り詰め、銀行は貸し出しを停止する「悪夢のサイクル」が回り出し、日本経済全体を蝕みました。

中国でも不動産市場の低迷やデフレ、消費者の苦しみといった現象は日本と全く同じですが、決定的に違ったのは産業界の動向です。中国の製造業、特にハイテク産業は不況に陥るどころか、ますます世界市場を席巻しています。

この謎を解く鍵は、中国が日本や西側諸国よりもはるかに強力な国家の力を伴う国家資本主義の国である点にあります。2021年に不動産バブルが崩壊した後、中国政府は国有の銀行システムに事実上の命令を下しました。それは「不動産から手を引け、その余剰資金を我々が指定する戦略的な産業(製造業)に今すぐ全額投入しろ」というものです。

この政府の指示に基づく銀行による前例のない規模の融資ブームこそが、国内消費者が苦しんでいるにもかかわらず中国の産業が世界を席巻できている最大のからくりであり、不況と好景気という2つの矛盾した説が同時に成立する根拠となっています。

6. 国家主導モデルが抱える二つの巨大なリスク
この一見万能に見える国家主導モデルは、極めて危険な「無謀な賭け」です。
1. 海外市場への極端な依存: 国内消費者が貧しくて物を買えないため、政府の支援でフル稼働する工場が作る大量の製品は、海外に輸出するしかありません。

これにより、記録的な貿易黒字が生まれる一方で、アメリカやEUとの間で深刻な貿易摩擦(関税の壁)を引き起こしています。輸出先をグローバルサウスに転換しようとしても、各国が補助金漬けの安価な中国製品による自国産業破壊を恐れ、反発し始めています。

2. 急速な借金の再増加: この新しい経済モデルは、中国の借金を再び急速に増加させています。中国の総債務(対GDP比)はすでに借金大国アメリカを上回っています。

特に危険なのは、国有企業と地方政府の借金が爆発的に膨れ上がっていることです。これは2008年のリーマンショック以降、中央政府が地方政府や国有企業に借金をしてインフラや不動産に投資するよう大号令をかけた結果であり、中国の債務問題の核心はこの巨大すぎる国有企業と地方政府の債務にあると言えます。

結論
この国家主導の構造は永遠には続かず、持続可能ではありません。中国はいずれ痛みを伴う改革を受け入れ、消費を基盤とした経済モデルに転換せざるを得ないでしょう。
さらに、中国は今後数十年で生産年齢人口が急速に減少し始めるという、絶対に避けられない人口問題という次元爆弾も抱えています。

中国は現在、国家の威信をかけて産業力と地政学的な影響力を最大化するという壮大な実験を行っており、そのために国内経済の健全性や国民の生活をある意味で犠牲にしています。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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