世界を支える「見えない巨人」(2):半導体産業を支える日本の素材・製造装置
工場のしくみ、システム改善の攻め所として、どこに着目したら良いか?それは日常業務のPDCAサイクルの中で、工場のあらゆる状況がリアルタイムで見える化され、改善にすぐにつなげることと考えられるが、そのためにどのように現状把握し、どこから改善に着手したら良いか以下にまとめてみます。
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工場のシステム改善において最も重要なのは「日常業務のPDCAサイクルの中で、工場のあらゆる状況がリアルタイムで見える化され、改善にすぐ繋げられる状態」を構築することです。これはまさに、トヨタ生産方式をはじめとする優れた生産システムの根幹をなす考え方です。
では、その理想的な状態に近づくために、どのように現状を把握し、どこから改善に着手すればよいか。その攻め所と具体的なステップを以下に示します。
●改善の基本思想:攻め所は「ムダ」の徹底的な排除
まず大前提として、改善のターゲットは工場内に潜むあらゆる「ムダ」です。
付加価値を生まない全ての活動がムダであり、これを見つけ出し、排除することが利益に直結します。トヨタ生産方式では、代表的な「7つのムダ」を定義しています。
・加工のムダ:必要以上の品質や機能を持たせる過剰な加工
・在庫のムダ:必要以上の原材料、仕掛品、完成品
・作りすぎのムダ:必要以上に早く、多く作ってしまうこと(最も悪いムダ)
・手待ちのムダ:作業者が次の仕事がなく、待っている状態
・運搬のムダ:必要以上のモノの移動や仮置き
・動作のムダ:しゃがむ、探す、持ち替えるなど、付加価値を生まない人の動き
・不良・手直しのムダ:不良品を作り、それを修正する作業
まずは、この「ムダ」というメガネをかけて工場全体を見渡すことが、改善の第一歩です。
★Step 1:現状把握と「見える化」の方法
改善に着手する前に、まずは客観的な事実(データ)に基づいて現状を正確に把握する必要があります。勘や経験だけに頼ると、的外れな改善になりかねません。
① 「モノと情報の流れ」の見える化
手法: バリューストリームマップ(VSM)
これは、製品が原材料として工場に入ってから、完成品として出荷されるまでの「モノの流れ」と「情報の流れ」を一枚の図に書き出す手法です。何が見えるか?
・各工程の作業時間、段取り時間、在庫量
・工程間の停滞(手待ち・在庫のムダ)
・どこでボトルネックが発生しているか
リードタイム(着手から完成までの時間)の大部分が、実際の加工時間ではなく停滞時間であること
アクション: まずはこのマップを作成し、チーム全員で「どこに一番モノが滞留しているか?」「なぜここで情報が止まるのか?」を議論し、問題意識を共有します。
② 「パフォーマンス」の見える化
手法: 重要業績評価指標(KPI)の定点観測
工場の実力を示す客観的な数値を継続的に記録し、誰もが見える場所に掲示します。
見るべきKPIの例(QCD)
・Q (品質): 不良率、手直し件数、顧客からのクレーム件数
・C (コスト): 材料歩留まり、一人当たりの生産性、設備の稼働率(OEE)
・D (納期): 生産計画達成率、リードタイム、段取り時間
アクション: これらの数値を日次や週次でグラフ化し、生産管理板や朝礼で共有します。目標値(あるべき姿)と実績のギャップが、改善すべき課題となります。IoTなどを活用すれば、これをリアルタイム化することも可能です。
③ 「問題」の見える化
手法: アンドン、問題管理板
異常が発生した瞬間に、その場で問題を顕在化させる仕組みです。
何が見えるか?
・設備停止、品質不良、材料欠品などの異常が「いつ」「どこで」「どれくらい」発生しているか
・問題の発生頻度と傾向
アクション: 異常が発生したら、その場でラインを止めて原因を究明する文化を醸成します(トヨタで言う「自働化」)。発生した問題を管理板に記録し、毎日確認することで、再発防止策に繋げます。
★Step 2:どこから改善に着手すべきか?(攻め所の優先順位)
現状が見える化できたら、いよいよ改善に着手します。全てを一度に行うのは不可能ですので、効果が大きく、実行しやすいところから優先順位をつけて攻めるのがセオリーです。
優先度 A:ボトルネック工程
バリューストリームマップで明らかになった、**工場全体の生産能力を最も制約している工程(ボトルネック)**から手をつけるのが最も効果的です。
理由: ボトルネック以外の工程をいくら改善しても、工場全体の生産量はボトルネックの能力以上にはなりません。ボトルネックを10%改善すれば、工場全体の生産量が10%向上する可能性があります。
着眼点: なぜこの工程は遅いのか?(段取り時間、チョコ停、作業者のスキルなど)
優先度 B:顧客クレームが多い工程・不良率が高い工程
品質問題は、企業の信頼を損ない、手直しという最大のムダを生み出します。
理由: 顧客満足度に直結し、コストインパクトも大きいため、経営的な優先度が非常に高いです。
着眼点: なぜなぜ分析(Why-Why Analysis)を用いて、不良が発生する根本原因を徹底的に追究します。ポカヨケなどの仕組みで、人がミスをしない(できない)工程を目指します。
優先度 C:在庫が最も多い工程間
在庫は「問題の隠れ蓑」と言われます。在庫が多い場所には、必ず何かしらの問題(設備の不安定、長すぎる段取り時間など)が潜んでいます。
理由: 在庫削減は、キャッシュフローの改善に直接貢献します。また、在庫を減らすことで隠れていた問題が顕在化し、次の改善テーマが見つかります。
着眼点: なぜここに在庫を置く必要があるのか?前工程の能力は不安定か?段取り時間は長いか?
優先度 D:段取り(切替)時間が長い工程
多品種少量生産が求められる現代において、段取り時間はリードタイム短縮と在庫削減の鍵です。
理由: 段取り時間が短縮できれば、生産ロットを小さくでき、作りすぎのムダや在庫のムダを大幅に削減できます。
着眼点: SMED(シングル段取り)の考え方を活用し、内段取り(設備を止めないとできない作業)を外段取り(設備を止めずに行える準備作業)に置き換えることができないか検討します。
まとめ:小さなPDCAから始める
・最初から工場全体の完璧なシステムを目指す必要はありません。
・まず現場に行き(三現主義)、一つの製品の流れを追って簡単なマップを描いてみる。
・最も流れが滞っているボトルネック工程を見つける。
・その工程の段取り作業をビデオで撮影し、チームでムダな動きがないか探してみる。
「このボルトを探す時間をなくせないか?」という小さな改善(Plan, Do)を行い、時間を測定する(Check)。
効果があれば、それを標準作業として定着させる(Act)。
このように、見える化した事実に基づき、最もインパクトの大きい場所から、現場のチームを巻き込んで小さな成功体験を積み重ねていく。この地道なPDCAサイクルの継続こそが、強い工場を作り上げるための最も確実な道筋です。



