日本の製造業における「設計」「品質」の重要性について。製造業の上流と下流で差別化!
自社の強みや機会を客観的に評価し、次のステップに進むことは多くの企業にとって大きな課題です。
特に、下請けの製造業やサービス業では、日々の受注に応えることに追われ、自社の独自性や提供価値を深く見つめ直す機会が少ないのが実情です。
--------------------------------------------------------------------------------
★技術支援・若手教育支援
★オンラインセミナー
★技術マニュアル
--------------------------------------------------------------------------------
しかし、「自社の得意分野で顧客の要望しているものを提供していく」という着眼点は、ステップアップのための最も重要で確実な第一歩です。そのために、具体的にどのように進めていけば良いかを、5つのステップで解説します。
ステップアップへの5つの具体的ステップ
■ステップ1:自社の「強み」を客観的に棚卸しする
まず、社内の思い込みではなく、事実に基づいた「強み」を洗い出すことが重要です。
事実(データ)で語る
・品質: 不良品率の低さ、クレーム件数の少なさ、顧客からの品質評価アンケートの結果など。
・納期: 納期遵守率、短納期への対応実績、急な仕様変更への対応スピード。
・技術: 他社には真似できない特定の加工技術、保有している特許や認証(ISOなど)、難易度の高い案件を成功させた実績。
・コスト: VA/VE提案(価値分析/価値工学)によるコストダウン実績、生産効率の高さ。
・人材: 特定の技能を持つ熟練工の存在、多能工の比率、若手の定着率。
顧客からの言葉を集める
・なぜ、競合ではなく自社に発注してくれるのか?
・過去に「ありがとう」「助かったよ」と感謝されたのは、どのような場面だったか?
営業担当や現場の従業員が、顧客から直接言われた褒め言葉を収集・共有する場を設けます。これは非常に価値のある客観的評価です。
フレームワークの活用
シンプルなSWOT分析も有効です。特に「強み(Strengths)」と「機会(Opportunities)」に焦点を当てて、社内の複数メンバーで意見を出し合ってみましょう。
ポイント: この段階では「これが本当に強みだろうか?」と疑わず、まずは事実ベースでリストアップしていくことが大切です。
■ステップ2:顧客の「真の要望」を深く掘り下げる
顧客が口にする「要望(スペック、価格、納期)」の裏には、彼らが本当に解決したい「課題」や「目的」が隠されています。
「なぜ?」を繰り返す
・「この部品はなぜ、この精度が必要なのですか?」
・「なぜ、この納期に間に合わせる必要があるのですか?」
その答えの先に、顧客の製品が抱える課題や、顧客の顧客(エンドユーザー)が求めている価値が見えてきます。
例:「この部品の精度が悪いと、最終製品の組み立て時に歩留まりが下がり、結果的にコストが上がってしまうんです。」
→ この顧客の真の要望は「部品」そのものではなく、「最終製品の歩留まり向上」です。
購買担当者以外と話す
可能であれば、顧客の設計担当者や開発担当者、製造現場の責任者と話す機会を作りましょう。彼らから直接、製品開発の背景や現場の悩みを聞き出すことで、より本質的なニーズを把握できます。
顧客の業界を調べる
顧客が属する業界は、今どのようなトレンドの中にいるのか?(例:軽量化、電動化、省人化など)
そのトレンドの中で、顧客はどのような課題に直面しているのか?
この視点を持つことで、将来的なニーズを先読みした提案が可能になります。
ポイント: 「言われたものを作る」御用聞きから、「課題解決のパートナー」へと視点を変えることが重要です。
■ステップ3:「強み」と「顧客の要望」を掛け合わせ、提供価値を再定義する
ステップ1で見つけた「自社の強み」と、ステップ2で掘り下げた「顧客の真の要望」を結びつけます。ここに、ステップアップのヒントが隠されています。
価値の再定義(リフレーミング)
例1(製造業)
・自社の強み: ミクロン単位の精密研磨技術。
・顧客の真の要望: 製品のエネルギー効率を上げたい。
・新しい提供価値: 「部品を磨く」のではなく、「貴社製品のエネルギー効率を向上させる表面加工ソリューションを提供します」。
例2(サービス業)
・自社の強み: 急な依頼にも対応できるフットワークの軽さ。
・顧客の真の要望: 突発的なトラブルによる生産ラインの停止時間を最小限にしたい。
・新しい提供価値: 「迅速な修理サービス」ではなく、「貴社の生産ラインのダウンタイムを最小化する緊急保守パートナー」。
ポイント: この「新しい提供価値」こそが、価格競争から脱却し、自社が選ばれる理由になります。
■ステップ4:小さな成功事例(モデルケース)を作る
再定義した価値を、まずは特定の顧客への提案という形で実行に移します。
提案型営業の実践
単なる見積書ではなく、「貴社の〇〇という課題を、当社の△△という技術で解決できます。その結果、□□というメリットが生まれます」というストーリーで提案書を作成します。
特に、ステップ2で関係を築いた設計担当者や現場担当者への提案は効果的です。
特定の顧客に絞る
まずは、関係性が良好で、新しい提案に耳を傾けてくれそうな優良顧客を数社選び、アプローチします。
全方位に展開するのではなく、まずは成功事例を作ることに集中します。
成果を記録し、横展開する
提案が採用され、顧客の課題解決に貢献できたら、そのプロセスと成果を必ず記録に残します(顧客の許可を得て、数値的な改善効果なども含める)。
その成功事例を「実績」として、他の顧客や新規の顧客にも展開していきます。
ポイント: 一つの成功事例が、自社の自信となり、次の提案への説得力を生み出します。
■ステップ5:継続的に改善のサイクルを回す
一度成功しても、市場や顧客のニーズは変化し続けます。このプロセスを継続的に回していく仕組みを作ることが不可欠です。
PDCAサイクルを意識する
・Plan(計画): 上記のステップ1〜3で提供価値を計画する。
・Do(実行): ステップ4で提案・実行する。
・Check(評価): 提案の結果どうだったか?顧客の反応は?成果は?
・Act(改善): 評価を元に、次の提案の改善点や、新たな強みの伸ばし方を考える。
社内での情報共有
顧客から得た情報や成功事例、失敗事例を社内で共有する場を定期的に設けましょう。これにより、組織全体の提案力や課題発見能力が向上します。
成功のための心構え
・脱・下請け意識: 「発注元」と「下請け」という意識から、「対等なビジネスパートナー」という意識へ変革することが最も重要です。
・情報発信: 自社の強みや成功事例を、ウェブサイトや簡単なパンフレットなどで積極的に発信しましょう。「こんな技術があったのか」「こんな相談もできるのか」と、新たな引き合いに繋がります。
これらのステップは、一朝一夕に結果が出るものではありません。しかし、地道に続けることで、顧客からの信頼が深まり、価格以外の部分で選ばれる強い企業へと着実にステップアップしていくことができるはずです。ぜひ、できるところから始めてみてください。



