ホテル業におけるQFD(品質機能展開)の実施手順、具体的な業務設計例とは?(その2)
第2章 設計・開発におけるプロアクティブなリスク低減
不具合は、生産段階や市場で修正するよりも、設計段階で未然に防止する方が、コストと効率の面で圧倒的に優れている 。この章では、製品が形になる前の設計・開発フェーズで用いられる予測的分析ツールに焦点を当てる。これらのツールは、潜在的な問題を早期に発見し、設計そのものに堅牢性を組み込むための情報を提供する。
--------------------------------------------------------------------------------
★技術支援・若手教育支援
★オンラインセミナー
★技術マニュアル
--------------------------------------------------------------------------------
<関連記事>
★「QAネットワーク」と過去トラブル情報の「知識(ナレッジ)化
★(1)トヨタ式QAネットワーク:情報駆動型フレームワーク構築
★(2)顧客の声を品質保証の設計図とする
★(3)開発におけるプロアクティブなリスク低減
★(4)製造工程を客観的真実の情報源とする
★(5)変更管理とサプライヤー品質
設計故障モード影響解析 (DFMEA)
設計FMEA(Design Failure Mode and Effects Analysis)は、製品設計に内在する潜在的なリスクを体系的に洗い出すための中心的な手法である。
そのプロセスは、製品を構成するコンポーネントや機能を特定し、それらがどのように故障しうるか(故障モード)をブレインストーミングし、その故障が顧客やシステム全体に与える影響(影響度:Severity)、故障原因が発生する可能性(発生頻度:Occurrence)、そしてその故障を設計・検証段階で検出できる可能性(検出度:Detection)を評価することから成る 。
これら3つの評価点を掛け合わせることで、リスク優先度指数(Risk Priority Number: RPN)が算出され、対策すべきリスクの優先順位が明確になる 。
この分析を効果的に行うためには、設計部門だけでなく、製造、品質保証、購買、サービスといった多様な視点を持つメンバーから成るクロスファンクショナルチームの構築が不可欠である 。異なる専門知識の結集により、より包括的で実用性の高いリスク分析が可能となる。
DFMEAで特定された高RPN項目は、QAネットワークに直接的な情報を提供する。故障の「原因」は、発生防止のための厳格な管理が求められる「重要特性」や「特別特性」を示唆する。そして、「故障モード」そのものは、万が一発生した場合に確実に流出を阻止するための強力な「検出」管理が必要な項目を指し示す 。
設計レビュー (DR)
設計レビュー(Design Review: DR)は、設計がある段階に達した時点で、より広範な専門家チームによってその妥当性を評価する公式なチェックポイントである 。DRの目的は、設計上の弱点、要求仕様との不整合、製造上の課題(Design for Manufacturability)などを早期に特定することにある。
DRで出された指摘事項は、単なる口頭でのコメントで終わらせてはならない。それらは公式に記録され、対策の進捗が追跡管理されるべきである 。例えば、「この寸法公差は、我々の現有プロセスの能力では達成が困難である」といった指摘は、極めて重要な品質情報である。このような指摘は、DFMEAの再評価を促したり、特定のリスクを軽減するための検査や管理項目をQAネットワークに直接追加する根拠となったりする 。
新技術・新材料のリスクアセスメント
製品に新たな材料や技術を導入する場合、過去の経験則だけではリスクを評価できない。そのため、これらの新規要素に特化した正式なリスクアセスメントが必須となる 。これには、新材料特有の劣化メカニズムの分析や、新技術がもたらす未知の相互作用の評価などが含まれる。
特に、建築材料のように強度や品質が法律で直接規定されていない新材料を使用する場合、その認定プロセスの中で品質・強度を含めた審査が行われ、その結果が品質保証の前提となる 。このアセスメントの結果は、DFMEAとQAネットワークの両方にとって、極めて重要なインプットとなる。
これらの設計段階での活動は、QAネットワークとの間に共生関係を築く。FMEAが「何が問題になりうるか」を予測する分析ツールであるのに対し、QAネットワークは「それをいかにして防ぐか」を文書化する実行計画である。両者は品質保証というコインの表裏一体なのである。
例えば、DFMEAで「材料の非適合によるシール劣化」が高いリスクとして特定された場合、推奨される対策は「受入時の材料証明書100%確認」となるかもしれない。この確認作業は、QAネットワークの「受入検査」工程における具体的な「流出防止」活動としてスコア化され、文書化される。これにより、QAネットワークは単なるチェックリストから、リスク分析に基づいた具体的な管理計画へと昇華する。
さらに、DRでの指摘やFMEAの分析結果をQAネットワークに体系的に組み込むことは、組織的な知識管理(ナレッジマネジメント)の実践そのものである。DRはベテラン技術者の経験知を、FMEAは潜在的故障に関する予測知を、そして過去トラブル情報は歴史知をそれぞれ形式知化する 。
これら全ての源泉から導き出された管理策をQAネットワークに集約することで、組織は製品とプロセスのリスクに関する集合知を体現した「生きた文書」を創り出す。この文書は、次世代製品を開発する際の出発点となり、過去の過ちの繰り返しを防ぎ、ベストプラクティスを組織内に定着させるための強力なツールとなるのである 。



