製造業の第一線の管理者・技術者向け手順書シリーズ(PDF電子データ版)
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★初期流動管理の戦略的実装(4) 航空宇宙・防衛セクター
★初期流動管理の戦略的実装(5) 業界横断的な統合と戦略的提言
第4部 航空宇宙・防衛セクターにおける適用:AS/JIS Q 9100による絶対的信頼性の達成
この部では、航空宇宙産業の独自のアプローチに焦点を当てる。ここでは、初期流動管理に機能的に相当するものが初回製品検査(FAI)であり、これは少量生産かつ影響の大きい環境において、絶対的な確実性とトレーサビリティを求める必要性から生まれたプロセスである。
4.1. AS/JIS Q 9100の要求:安全性、信頼性、ミッションの成功
この業界の主要な推進力は、壊滅的な故障の防止である。単一の部品の故障が、航空機、宇宙ミッション、そして何百もの人命の喪失につながる可能性がある。したがって、焦点は設計仕様への絶対的な適合性にある 。
この業界の品質マネジメントシステム規格はAS9100(日本ではJIS Q 9100、欧州ではEN 9100)である。これはISO 9001を基礎としているが、安全性、信頼性、サプライチェーン管理、およびトレーサビリティに関する厳格な要求事項が追加されている 。
4.2. 初回製品検査(FAI - AS9102):究極の検証
FAIは、航空宇宙産業において、生産プロセスがすべての技術・設計要求事項を満たす部品を製造する能力があることを検証するための公式化されたプロセスである 。これは、
最初の生産品に対する完全かつ文書化された検証である。
FAIは、新規部品や、重大な変更(例:設計変更、工程変更、長期間の生産中断)があった場合に要求される 。その目的は、すべての要求事項が理解され、考慮され、検証され、文書化されているという客観的な証拠を提供することである 。
そのアウトプットであるFAI報告書(FAIR)は、設計図上のあらゆる単一の特性(すべての寸法、公差、注記、材料仕様、工程仕様)を網羅する詳細な報告書である。これは、時間をかけたプロセスの統計的な妥当性確認ではなく、生産された最初の一個の製品に対する100%の検証である 。
4.3. 形態管理と絶対的なトレーサビリティ
形態管理(コンフィギュレーション・マネジメント、CM)は、航空宇宙分野における極めて重要な規律である。これは、製造されている製品(「製造形態」)が、承認された設計文書(「設計形態」)と常に完全に一致することを保証する 。いかなる逸脱も正式に管理されなければならない。FAIは、生産形態の初期ベースラインを確立する重要なイベントである。
この業界では、原材料から航空機に搭載される最終製品まで、完全で途切れることのないトレーサビリティが要求される 。FAI報告書を含む記録は、数十年にも及ぶ航空機の運用寿命全体にわたって維持することがしばしば要求される 。
4.4. 特殊工程とサプライチェーンの管理
特殊工程、すなわち後工程の検査ではその結果を十分に検証できないプロセス(例:熱処理、溶接、化学処理)は、極めて厳格な監視の対象となる。Nadcapのようなプログラムは、これらの特殊工程を実施するサプライヤーに対して、業界が管理する個別の認証を提供する 。有効なNadcap認証は、しばしばFAIの前提条件となる。
航空宇宙のプライムメーカー(例:ボーイング、エアバス)は、これらすべての要求事項(AS9100、FAI、CM)をサプライチェーン全体に展開する。複雑なコンポーネントのFAIは、そのすべてのサブコンポーネントのFAIを組み込むことになり、入れ子構造の検証システムが構築される 。
航空宇宙のアプローチは、徹底的な記録保管を重視するものである。これは、完璧な「ゴールデン」パーツを一度作ることができると証明し、その後、すべての変数を細心の注意を払って管理し、後続のすべてのパーツがその同一の複製であることを保証するという原則に基づいている。
FAIは、統計的な意味でのプロセスの「能力」をテストするものではなく、設計に対するプロセスの「忠実度」を検証するものである。焦点は「初回製品」という単一の物理的なアイテムにあり、プロセスには設計の全特性に対する100%の照合が含まれ、統計的な推論の余地はない。
FAI報告書は、部品の形態に紐づけられた永続的な歴史的記録となる。したがって、その哲学は、完璧な設計図を作成し、その後の正確な複製を保証することにある。これは、自動車産業のように統計的なばらつきを管理することよりも、いかなる逸脱も防ぐことに重きを置いている。この部品中心の決定論的モデルは、少量・高複雑性の製造に適しているが、非常に時間がかかり高価である。



