製造業の第一線の管理者・技術者向け手順書シリーズ(PDF電子データ版)
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第3部 医療機器セクターにおける適用:ISO 13485に基づく安全性とコンプライアンスの確保
このセクションでは、「初期流動管理」という用語は一般的に使用されないものの、その基本原則が、患者の安全性を絶対的な優先事項とする、はるかに厳格で法的に義務付けられたプロセスバリデーションの枠組みを通じて実行されていることを示す。
3.1. 規制上の必須要件:ISO 13485とFDA
自動車セクターの効率とコストへの焦点とは対照的に、医療機器業界の主要な推進力は、患者の安全性と有効性を確保することである。これは、米国の食品医薬品局(FDA)のような国の規制当局によって法的に強制されている 。
主要な品質マネジメントシステム規格は、医療機器に特化して設計されたISO 13485である 。これは、ほとんどの主要市場におけるコンプライアンスの基盤となっている 。米国では、FDAの規制(21 CFR Part 820)、およびこれを組み込んで間もなく置き換わる品質マネジメントシステム規則(QMSR)が法律である 。
ここでの哲学は、単なる欠陥予防ではなく、臨床使用のために製品がリリースされる「前」に、安定的で能力があることが証明された、固定化された検証済みプロセスを構築することである。変更は高度に管理され、しばしば再バリデーションと規制当局への通知が必要となる 。
3.2. プロセスバリデーション(IQ/OQ/PQ):生産立ち上げの中核
正式なプロセスバリデーションのプロトコルは、医療機器業界における初期流動管理の直接的な対応物である。これは、製造プロセスが所定の仕様を満たす製品を一貫して生産することを証明するための、体系的で文書化されたプロセスである 。
バリデーションは3つの段階で構成される。
①設備据付時適格性評価(IQ): 設備が製造者の仕様に従って納入され、据え付けられたことの文書化された証明 。これがすべての基礎となる。
②運転時適格性評価(OQ): 据え付けられた設備が、操作手順に従って使用された場合に、規定された範囲内で作動することの文書化された証明。これは、設備の機能を「ワーストケース」条件下でテストする 。
③性能適格性評価(PQ): 訓練された担当者と生産用の材料を用いて、通常の操作条件下でプロセスが許容可能な製品を一貫して生産することの文書化された証明。再現性を実証するために、通常は一連の生産ロット(例:連続3ロットの成功)にわたって実施される 。
3.3. 設計管理と厳格なトレーサビリティ
医療機器製造の基本原則の一つは、すべてを追跡できる能力である。トレーサビリティ・マトリックスは、ユーザーニーズを設計インプット、設計アウトプット、検証、および妥当性確認に結びつける重要な文書である 。製造プロセスは、設計プロセスの直接的な「アウトプット」である。
主要な管理文書は以下の通りである。
・設計履歴ファイル(DHF): 完成した医療機器の設計履歴を記述する記録の集大成。すべての設計開発記録が含まれる 。
・デバイスマスター記録(DMR): 医療機器の「レシピ」。機器を一貫して製造するために必要なすべての仕様書、図面、手順書が含まれる 。検証されたプロセス(IQ/OQ/PQ)は、DMRの中核部分となる。
初期の生産ロット(PQフェーズ)は、設計プロセス(DHF)から導き出された「レシピ」(DMR)が実際に機能することの最終的な検証となる。
3.4. リスクマネジメント(ISO 14971)と市販後フィードバックの役割
ISO 14971は、医療機器に関連するリスクをそのライフサイクル全体を通じて管理するための体系的なプロセスを要求する。設計およびプロセス開発フェーズで特定されたリスクは、バリデーション活動に直接反映される。PQは、特定されたプロセスリスクが管理されていることを証明するために設計される 。
初期生産ロットからのデータは、単にリリース目的だけでなく、継続的な監視のためのベースラインを確立する。苦情処理と市販後調査システムは必須である 。市場からの逸脱や苦情は調査されなければならず、それがプロセス上の問題を示唆する場合には、再バリデーションの必要性を引き起こす可能性がある。
医療機器のアプローチは、根本的に科学的捜査であり、証拠に基づくものである。その目標は、プロセスを安定させることだけでなく、規制当局に提出するための網羅的で監査可能な証拠パッケージ(IQ/OQ/PQ報告書、DHF、DMR)を作成し、市場投入「前」にそのプロセスが安全かつ有効であることを合理的な疑いの余地なく証明することにある。
使用される言葉は「適格性評価」「バリデーション」「証拠」「文書化」といった法的・科学的なものであり、プロセスは法律(FDA QMSR)と規制に整合した国際規格(ISO 13485)によって支配されている。
アウトプットは、コンプライアンスの法的記録として機能する一連の公式報告書とファイルである。したがって、この活動全体は、規制当局に対して防御可能な事例を構築することに他ならない。ここでの「顧客」は病院や患者だけでなく、製品の販売許可を与える政府機関でもある。
この規制主導のアプローチは、プロセスを硬直的で時間のかかるものにする。「継続的改善」という概念は極めて慎重に適用され、検証済みのプロセスへのいかなる変更も、完全で費用のかかる再バリデーションと、場合によっては新たな規制当局への提出を必要とする可能性がある。ここでの信条は「最適化よりも一貫性」である。



