日本が中国に替わってアジアの覇権国家?地政学者が予測する2030年の世界覇権地図と日本の戦略とは?
日本人の一人当たりの生産性が低いと言われますが、正確には付加価値生産性のことを指しています。日本人は世界でも指折りの働きにより、優れた製品を作り、きめ細かいサービスを提供し、美味しい日本食を提供しているのになぜ生産性が低いのでしょうか?
はい、ご指摘の通りです。日本人の生産性が低いと言われる場合、それは一人当たりの付加価値生産性(または時間当たり)を指すのが一般的です。
一般的に考える生産性と付加価値生産性の違いを、インプット(投入)とアウトプット(産出)の視点から見ていきましょう。
●一般的に考える生産性(物的生産性)
日常会話で「生産性が高い」と言う場合、それはしばしば「少ないインプットで、より多くのモノやサービスを産み出すこと」を指します。
インプット: 労働力(人件費、労働時間)、原材料、設備など。
アウトプット: 物理的な生産量(例:製造した自動車の台数、作成した書類の枚数、提供したサービスの件数など)。
このタイプの生産性は、特に製造業など、成果が物理的な量で測りやすい場合に用いられます。
生産性= 物理的な生産量÷投入した資源(労働時間や人数など)
例: 1人の従業員が1時間で10個の製品を作れる場合、生産性は「10個/時間」となります。もし改善によって12個作れるようになれば、生産性は上がったと言えます。
●付加価値生産性
一方、経済学や国際的な比較で用いられる「付加価値生産性」は、単なる物理的な量ではなく、生み出された「価値」に焦点を当てます。
インプット: 労働力(人件費、労働時間など)。
アウトプット: 付加価値額。これは、企業が原材料などを加工・販売する過程で、新たに生み出した価値のことで、売上高から外部から購入した費用(原材料費、外注費など)を差し引いたものを指します。
付加価値生産性= 付加価値額÷投入した労働力(労働者数や労働時間など)
なぜ「付加価値」を使うのか?
付加価値生産性が重要なのは、以下の理由からです。
★真の企業活動の評価
単にたくさんモノを作っても、それが安価なものや、売れないものであれば意味がありません。付加価値生産性は、企業がどれだけ効率的に「利益を生む力」を持っているかを測る指標になります。
★国際比較の公正性
製品の個数や重さは国によって物価が異なるため、単純な比較が困難です。付加価値は金額で評価されるため、物価の差を考慮することで、より公正な国際比較が可能になります(購買力平価で調整する場合が多い)。
日本の付加価値生産性はなぜ低いのか?
付加価値生産性が低い背景には、日本の経済構造や働き方に根ざした複数の要因があります。日本人が勤勉で質の高い仕事をしているにもかかわらず、それが国際的な指標に反映されにくい主な理由は以下の通りです。
1. サービス産業の生産性の低さ
日本のGDPと雇用の大部分はサービス産業が占めていますが、この分野の生産性が国際的に見て低いことが全体を押し下げています。特に、宿泊・飲食サービス業、小売業などは、多くの人的リソースを要する一方で、生み出す付加価値が比較的少ないためです。
過剰な「きめ細かさ」: 日本ならではの丁寧なサービスや、顧客の期待を超える「おもてなし」は世界的に高く評価されますが、一方でそれが過剰な労働時間や人件費を要し、効率性を損なっている側面があります。
非効率なプロセス: サービス産業におけるIT投資やデジタル化の遅れも、生産性の低さの一因です。多くの業務が依然として手作業やアナログなプロセスで行われているため、効率化が進んでいません。
2. 労働時間の長さと働き方
日本は依然として長時間労働が常態化している傾向があり、それが生産性を低下させていると指摘されています。
労働時間と生産性の関係: 労働時間は増えても、疲労の蓄積により集中力やアウトプットの質が低下し、時間あたりの生産性は逆に下がることが多くの研究で示されています。
非効率な会議や書類作成: 形式的な会議や報告、社内稟議のための膨大な書類作成など、実質的な価値を生み出さない業務に多くの時間が費やされていることも、生産性を低くする要因です。
3. デジタル化・イノベーションの遅れ
多くの企業で、デジタル技術の導入や業務プロセスの変革が遅れています。
IT投資の遅れ: 中小企業を中心に、データ分析や自動化を可能にするITシステムへの投資が十分に進んでいない状況があります。
イノベーションの停滞: 既存のビジネスモデルや慣行に固執し、新たな技術や働き方を取り入れることに抵抗がある企業も少なくありません。これにより、新たな付加価値を生み出す力が弱まっています。
要するに、日本人の勤勉さや高い品質は疑いようがありませんが、その「努力の方向性」が必ずしも付加価値生産性を高める方向に向いていない、という構造的な課題があると言えます。



