人手不足が拓く日本の高付加価値経済への道:付加価値労働生産性を上げる大きなチャンス

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

現在の人手不足の状況は、付加価値労働生産性を上げる大きなチャンスであるにもかかわらず、国民や経営者は従来型のビジネスから脱しきれないと言われていますが、この点について詳しく解説します。

「物的生産性は高いが付加価値生産性が低い」という日本の状況は、長らく続いたデフレ経済と、そこから抜け出せない国民・経営者のマインドセットに起因しています。

現在の日本が直面する人手不足は、この「付加価値労働生産性」を向上させる大きなチャンスであると説明されていますが、過去の経験からくる慣習や考え方から脱却できないという課題があります。

「物的生産性は高いが付加価値生産性が低い」とは
まず、それぞれの生産性の意味合いを再確認します。

• 物的生産性(Physical Productivity)
「単位時間あたりにどれだけのモノを作れるか、どれだけの作業をこなせるか」という、量的な効率性や生産量を示します。日本人は勤勉で、チームワークにも優れており、教育レベルも高いため、この物的生産性は高いと評価されています。すなわち、効率的に多くの良いモノを作ることができる能力があります。

• 付加価値労働生産性(Added Value Labor Productivity)
「1時間あたりの労働でどれだけのお金(付加価値)を生み出せるか」という、経済的な価値創造能力を示します。これは「もらえるお金(付加価値)を労働時間で割ったもの」と定義されます。

日本の場合、いくらたくさんの良いモノを作っても、「作ったものの単価が安い」と、この付加価値労働生産性は上がらないと説明されています。現在、日本の付加価値労働生産性は世界で30位か31位と非常に低い水準にあります。

つまり、「物的生産性は高いが付加価値生産性が低い」とは、日本人は能力的に多くのモノを作れるにもかかわらず、その労働に対して十分な経済的価値や対価を得られていない状態を指します。

現在の人手不足が「付加価値労働生産性」向上へのチャンスである理由
現在の日本は「人類史上初めての局面」と言われるほどの人手不足に直面しており、特に建設、医療介護、生活サービス、観光といった労働集約的な産業(エッセンシャルワーカーの領域)で人手不足が顕著です。この状況は、付加価値労働生産性を上げる大きなチャンスであると述べられています。

1. 労働集約的産業の価値上昇
人手不足により、これまで給料が安く、あまり人気がなかったエッセンシャルワーカーの仕事の価値が上がり始めています。例えば、建設現場の技能工の日当や、庭師の剪定作業料が高騰しており、それでも人が見つからない状況です。日当が上がれば、労働に対して得られるお金が増えるため、直接的に付加価値労働生産性が向上します。

2. AIによる補完効果
AIは人間の能力の一部を代替したり拡張したりするものですが、特にエッセンシャルワーカーのような頭と体を同時に使う仕事(例:建設業、医療介護、観光業)においては、人間の能力を「代替」するのではなく、むしろ「補完」する効果があると考えられています。

AIが定型的な事務作業などを効率化することで、エッセンシャルワーカーはより高付加価値な対人サービスや、AIが苦手とする不定形な作業に集中できるようになり、全体の生産性を高めることができます。

3. 高い物的生産性と国民性
日本人は元来、物的生産性が高く、チームワークに優れ、教育レベルも高いため、AIなどの新しい技術を使いこなし、付加価値を向上させる潜在能力を秘めています。

国民や経営者が従来型のビジネスから脱しきれない理由
このようなチャンスがあるにもかかわらず、日本全体として変革が進みにくいのは、以下の要因が絡み合っているためと説明されています。

1. 30年間のデフレ経済によるマインドセットの固着:
・去30年間、日本は需要が足りないデフレ経済下で、失業者の増加を防ぐために、意図的に「生産性を抑え込む」選択をしてきました。これは、みんなで仕事を分け合う「ワークシェアリング」を暗黙的に選択した結果です。

・この結果、多くの企業は「価格を下げて商売を守る」戦略を採用し、利益率(荒利、付加価値)を薄くしてきました。メディアも値上げに批判的な風潮があり、国民の間にも「安さ」を追求する意識が根強く残っています。

・この30年間の経験は「1世代」にわたるものであり、人々の潜在意識に深く「すり込まれて」しまっているため、今になって状況が変わっても、頭の切り替えが難しいのです。

2. 付加価値労働生産性への意識の低さ
・ 多くの国民や経営者は「生産性が低い」という言葉を聞くと、無意識に「物的生産性」を思い浮かべ、「日本人は勤勉で効率が悪いわけではない」と反論しがちです。しかし、問題は「作ったものの単価が安い」こと、つまり「付加価値労働生産性」が低いことにあると指摘されています。

・企業の中には、そもそも付加価値労働生産性の数値をきちんと把握していないところも多いとされ、これを経営上の明確な指標として捉える意識が欠如しています。

3. 旧来型のビジネスモデルからの脱却の困難さ
・デフレ期に染み付いた「人件費を抑える」という発想のビジネスモデルから抜け出せていない企業が多数存在します。給料を払える範囲で払うという考え方のため、現在の賃金高騰に対応できず、結果として人を集められずに倒産する「人権倒産」が増えています。

・多くの経営者、特に中小企業では、この変化に「ぼっとして」おり、旧来のモデルから抜け出せないでいます。顧客単価を上げたり、ロボット化・機械化を進めて労働力を大幅に減らしたりといったビジネスモデルの転換が迫られているにもかかわらず、それができていません。

4. 制度的・社会的な経路依存性(Path Dependency)
・政府の規制や政策(例:米の減反政策、最低賃金制度など)も、かつては供給を抑制し、雇用を維持する方向に機能してきました。これらの制度が、生産性向上を妨げる「経路依存性」を生み出しています。

・「終身雇用」のような日本の雇用慣行も、「雇用を守る」という発想から生まれてきましたが、今や働き手側からこの慣行が壊れつつあります。組合や労働部門の抵抗も予想されます。

変化しないことの結末
このマインドセットの転換ができなければ、日本は「暗黒の時代」に突入する可能性があり、社会基盤自体が危うくなると警鐘が鳴らされています。例えば、公共工事で人が集まらず不調に終わったり、地方自治体で工事を発注する技術者が不足したりといった問題がすでに生じており、医療・介護分野でも同様の課題があります。

まとめ:必要なのは「180度の意識転換」
現在、日本は人手不足とインフレという、これまでのデフレとは真逆の経済モードに入っています。この状況下では、人材の確保が競争に勝つための最重要課題となり、そのためには賃上げを通じて付加価値労働生産性を高めることが不可欠です。

日本は物的生産性が高く、AIの補完効果も期待できるため、潜在的な「伸び代」は非常に大きいとされています。経営者が「付加価値労働生産性」を明確な指標とし、賃金を上げて働き手を囲い込むビジネスモデルに転換できれば、「高生産性国家」へと移行し、財政問題も解決に向かう「黄金の時代」が訪れると期待されています。

しかし、この転換ができなければ、社会基盤の崩壊を招く危険性があると強調されています。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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