「学校に行きたくない」と言われたら? 親が知っておきたい、子どもの心と未来へのコンパス

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

「学校に行きたくない」
ある朝、わが子からこの言葉を告げられたとき、多くの親御さんは目の前が真っ暗になるような感覚に襲われるかもしれません。「なぜ?」「何があったの?」「将来はどうなるの?」――不安と焦りが、次から次へと押し寄せてくることでしょう。

しかし、まず一番にお伝えしたいのは、「あなたは一人ではない」ということです。そして、「これは、お子さんのせいでも、あなたのせいでもない」ということです。

昨年度、日本の小中学校で不登校の状態にある子どもは過去最多の約35万人にのぼりました 。これはもはや、個人の問題ではなく、私たちの子どもを取り巻く「学校」というシステムそのものが、大きな転換点を迎えていることの表れなのかもしれません。

この記事では、不登校に悩む親御さんが、少しでも心を軽くし、お子さんと一緒に未来への一歩を踏み出すためのヒントをお伝えします。

ステップ1:問い詰める前に、心のエネルギーを充電する
子どもが学校に行けなくなったとき、親として真っ先に知りたくなるのが「原因」です。しかし、焦って「どうして行けないの?」と問い詰めるのは、少しだけ待ってみてください。

文部科学省の調査では、不登校の最大の要因は「無気力・不安」とされています 。しかし、専門家は、これは原因ではなく、むしろ学校生活での様々なストレスによって心のエネルギーが枯渇してしまった「結果」であると指摘しています 。バッテリーが切れたスマートフォンが動かないのと同じように、お子さんの心も、今は動きたくても動けない状態なのかもしれません。  

今、最も大切なのは、家庭を「安心できる充電基地」にすることです。

●「行かなくてもいい」と一度受け入れる: まずは「学校は休んでいいんだよ」と伝え、心と体を休ませてあげましょう。

●ありのままを認める: 学校に行けていなくても、お子さんの存在そのものを肯定し、愛情を伝え続けてください。

●原因探しを一旦やめる: お子さん自身も、なぜ行けないのか言葉にできないことが多くあります 。無理に聞き出そうとせず、お子さんが自ら話したくなったときに、じっくり耳を傾ける姿勢が大切です。

実は、学校側の調査では不登校の理由として「いじめ」が挙げられることは稀ですが、子ども本人に聞くと26%以上がいじめ被害を経験しているというデータもあります 。大人が気づけていない苦しみが隠れている可能性も、心に留めておきましょう。  

ステップ2:「学校」のイメージをアップデートする
私たちは無意識のうちに、「教育=毎日決まった時間に学校に通い、みんなと同じ授業を受けること」と考えてしまいがちです。しかし、学びの形は決して一つではありません。今の学校が合わないのであれば、お子さんが輝ける別の場所を探すという選択肢があります。

日本には、画一的な教育とは異なるユニークな学びの場、「オルタナティブスクール」や「フリースクール」が数多く存在します 。  

●きのくに子どもの村学園: ここにはテストも宿題もありません 。子どもたちは農業や料理、木工といった「プロジェクト」の中から自分の興味のあるものを選び、異年齢の仲間と協働しながら体験的に学びます 。教育の基本は「自己決定」。子ども自身が学びの主役です 。  

●軽井沢風越学園: 「“同じ”から“違う”へ、“分ける”から“混ぜる”へ」を合言葉に、3歳から15歳までが同じ敷地で学びます 。子ども一人ひとりが自分の学習計画を立て、主体的に探究活動を進める「自己主導」の学びが特徴です 。  

●フリースクール: 全国には、学習支援だけでなく、対話や自然体験、創作活動など、多様なプログラムを提供するフリースクールがあります 。オンラインやメタバースを活用した新しい形の居場所も増えています 。  

これらの場所は、学校に戻るための「一時避難所」ではありません。子どもが自己肯定感を取り戻し、自分のペースで「生きる力」を育むための、積極的な「学びの選択肢」なのです。

ステップ3:未来への不安を「可能性」に書き換える
親として最も心配なのは、お子さんの将来ではないでしょうか。「このままでは、社会に出ていけないのではないか…」そんな不安に駆られるのは当然です。

しかし、データは私たちに希望を与えてくれます。文部科学省が行った追跡調査によると、中学校時代に不登校を経験した人のうち、20歳になった時点で約82%が就学または就業していることがわかっています 。不登校の経験が、必ずしもその後の人生を閉ざすわけではないのです。  

むしろ、学校というレールから一度外れたからこそ、見える景色があります。

多様な進路: フリースクールなどを卒業した後も、通信制や定時制高校、大学、専門学校への進学など、道は様々です 。

新しい働き方: 自分の興味をとことん追求した経験を活かし、フリーランスとして働いたり、起業したりする人もいます 。プログラミングやデザインなど、学歴以上にスキルが重視される分野で活躍する道もあります。  

「立ち止まる」ことの価値: 教育先進国デンマークには、「エフタースコーレ」というユニークな学校があります 。これは、義務教育を終えた14歳から18歳の子どもたちが、1年間寮生活を送りながら、学問だけでなく芸術やスポーツなど、自分の興味をとことん追求する場所です。

そこには競争も評価もありません 。目的は、自分自身と向き合い、人間的に成長するための「豊かな回り道」をすること。日本社会も、一直線のレールだけが正解ではないという価値観へと変わりつつあります。  

不登校を経験したお子さんは、他の子とは違う、ユニークな経験と感性を持っています。その経験は、将来、誰にも真似できない強みになるかもしれません。

最後に:親として、人として
お子さんの不登校と向き合う日々は、決して平坦な道のりではないでしょう。時には自分を責めたり、先の見えない不安に押しつぶされそうになったりすることもあるかもしれません。

そんな時は、どうか一人で抱え込まないでください 。フリースクールの見学に行ってみる、専門のカウンセラーに相談する、同じ悩みを持つ親の会に参加してみる。親であるあなた自身が外部と繋がることが、状況を好転させるきっかけになることもあります。  

何よりも忘れないでほしいのは、教育の究極の目標は「良い学校に入ること」や「良い会社に就職すること」だけではないということです。お子さん自身が、自分の人生を愛し、困難があっても乗り越えていける「生きる力」を育むこと。そして、自分は価値のある存在だと心から思えること。

不登校は「問題」ではなく、お子さんがあなたに送ってくれた「今の学校は、僕(私)には合わないよ」という大切なサインです。その声に耳を澄まし、お子さんに合った学びの道を一緒に探していくこと。それこそが、今、親としてできる最も価値あるサポートなのかもしれません。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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