「消費税減税」の議論だけで大丈夫? 世界の財政リスクと日本の未来を考える

濱田金男

濱田金男

テーマ:日本の未来を考える

最近、「日本のGDPがドイツに抜かれ世界4位に転落」というニュースが話題になりました。長引く経済の停滞感に加え、日々の生活では物価高が家計を圧迫しています。
こうした状況を受け、世論調査では物価高対策として「一時的な消費税減税」を支持する声が6割にのぼるという結果も出ています 。  

しかし、私たちの暮らしと国の未来を考えるとき、本当に「消費税減税」という短期的なテーマだけで十分なのでしょうか?

日本、米国、中国、ドイツという経済大国の国家財政を比較分析において、見えてくるのは、各国がそれぞれ深刻で、かつ全く異なる種類のリスクを抱えているという現実です。
今回はその分析結果と、日本の世論の現状を踏まえ、私たちがこれから日本の財政をどう考えていくべきか、そのヒントを探ります。

世界は「リスクだらけ」- 他人事ではない各国の財政事情
まず、日本を取り巻く世界の状況を簡潔に見てみましょう。どの国も決して安泰ではありません。

●米国:覇権国家の足かせ
世界最大の経済大国である米国は、巨額の政府債務を抱え、その「利払い費」が爆発的に増加しています。その額は国防費や医療費を上回る勢いで、将来への投資を圧迫する深刻な足かせとなっています。

●中国:隠れた巨龍
急成長を遂げた中国は、公式な政府債務はコントロールされているように見えます。しかしその裏では、地方政府が抱える「隠れ債務」が巨大な金融リスクとなっており、不動産不況がその時限爆弾の導火線に火をつけかねない状況です。

●ドイツ:堅実モデルのジレンマ
財政規律を重んじる「債務ブレーキ」という憲法上のルールを持つドイツ。しかし、ウクライナ戦争後のエネルギー危機や国防費の増大、そして高齢化という新たな支出圧力に直面し、これまでの堅実モデルが通用しなくなるという大きなジレンマに陥っています。

このように、世界を見渡せば、各国がそれぞれの「不都合な真実」と向き合っているのです。

●日本が抱える「静かな時限爆弾」
では、日本の状況はどうでしょうか。日本の財政リスクは、他国とはまた違う、独特で根深い問題を抱えています。

GDPに対する政府債務残高は250%を超え、先進国で突出して高い水準です。歳出の最大の要因は、年金や医療といった「社会保障関係費」であり、これは世界で最も速く進む高齢化によって、今後も増え続けることが確実視されています 。  

通常であれば、これほどの借金を抱えれば国の信用は失墜します。しかし、日本がこれまで財政破綻を免れてきたのは、発行された国債のほとんどを日本銀行が買い支えるという、世界でも類を見ない「特殊な安定」があったからです。

しかし、この安定は「ゼロ金利」という前提の上に成り立っていました。今、日本がデフレを脱却し、金利が本格的に上昇する局面を迎えれば、この構図は一変します。政府の利払い費は急増し、財政を直撃する「静かな時限爆弾」が作動しかねないのです。

なぜ議論は深まらない? 国民の「本音」と財政の「現実」のズレ
ここで大きな問題となるのが、財政の「現実」と、私たちの「意識」との間にある大きなギャップです。

各種の世論調査を見ると、多くの国民が日本の財政状況を「問題だ」と認識しています 。しかし、その原因についてはどうでしょうか。ある調査では、財政赤字の原因を「政治の無駄遣い」や「公務員の高い人件費」と考える人が大半を占め、真の原因である「社会保障費の増大」を挙げる人は2割に留まりました 。  

これは、多くの人が年金や医療といった社会保障サービスから「受益している実感が薄い」ことの裏返しでもあります 。特に若い世代は、将来年金制度が維持できなくなると考えており、強い不安を抱いています 。  

こうした状況が、「財政再建は必要だが、そのための負担増(増税)は受け入れがたい」という矛盾した世論を形成しています。目下の生活苦から、国民が政府に最も求めるのは「物価高対策」や「貧困と社会不平等の緩和」であり 、消費税減税のような短期的な処方箋に期待が集まるのも無理からぬことかもしれません。  

しかし、このギャップを埋めない限り、日本の財政問題の根本的な解決は望めません。

★私たちにできること - 未来のための「賢い選択」とは?
では、私たちはどうすればいいのでしょうか。短期的なテーマで思考停止するのではなく、議論を深めるために、以下の4つの視点を持つことが重要です。

★「受益と負担」を自分ごととして捉える
社会保障は、政治家や官僚のためではなく、私たち自身や家族のための制度です。今受けている、あるいは将来受けるであろうサービス(受益)と、そのために支払っている保険料や税金(負担)の関係を正しく理解することが第一歩です。社会保障費は「無駄遣い」なのではなく、私たちの生活を支えるためのコストであるという認識が必要です 。  

★「世代間の対話」を始める
今の高齢世代を支えているのは現役世代であり、その現役世代を将来支えるのは今の子供たちです。若者は将来への不安から負担増に敏感になり、高齢者は現在の給付水準が下がることに抵抗を感じます 。この対立構造を乗り越え、全ての世代が納得できる持続可能な制度とは何か、という共通のゴールに向けた対話が不可欠です。  

★「賢い有権者」になる
「政治が悪い」という不信感だけで思考を止めてしまうのは簡単です 。しかし、その政治家を選んでいるのは私たち有権者です。財政の現状や将来の見通しについて、政府に透明性の高い情報公開を求め、耳障りの良い公約だけでなく、財源の裏付けまで含めて厳しく政策を評価する「賢い有権者」になることが求められます。  

★「未来への投資」という視点を持つ
財政問題を単なる「赤字の穴埋め」と捉えるのではなく、「未来の日本に何を遺すか」という視点で考えることが重要です。借金を将来世代に先送りするのではなく、教育や科学技術、子育て支援といった未来への投資にこそ、限られた財源を重点的に配分すべきではないか。そんな前向きな議論が必要です。

おわりに
世界経済の秩序は、まさに変動の渦中にあります。どの国も安泰ではなく、それぞれの課題と向き合いながら、未来への舵取りを迫られています。

日本がこの予測不能な時代を乗り越え、豊かで安定した社会を次の世代に引き継ぐためには、目先の痛みを和らげる「消費税減税」のような議論だけに終始するわけにはいきません。財政という国家の根幹について、私たち一人ひとりが当事者意識を持ち、長期的な視点から議論を深めていくこと。今、まさにその岐路に立たされているのではないでしょうか。

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