国内半導体製造の本格化で、受注加工型中小製造業に新たなチャンスが生まれる

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

TSMCの熊本における第2工場計画の本格始動は、日本の半導体産業の再興を象徴する
だけでなく、これまで自動車部品などの受注加工を主としてきた中小製造業にとって、
新たな市場への参入と事業拡大の絶好のチャンスをもたらします。

半導体製造は極めて高度な技術と精密さを要求するため、日本の「縁の下の力持ち」
としての技術力が、これまで以上に「見える価値」として評価される機会となるで
しょう。

●受注加工型中小製造業に生まれる新たなチャンス
<超精密加工・微細加工分野への参入>
半導体製造装置の部品は、傷一つない高精度と耐久性が求められ、公差はミクロン単位
時には0.1mm未満の安定した精度が要求されます 。これは、自動車部品製造で培われ
た精密加工技術を応用できる領域です。

例えば、半導体チップの微細な回路パターン形成には精密加工が不可欠であり 、3次元
微細加工技術も将来の半導体技術を支える重要な研究領域とされています 。自動車部品
製造で培った金型設計・加工、精密プラスチック製品製造、精密プレス部品製造などの
技術は、半導体製造装置の部品や、半導体そのものの製造工程における精密な加工ニー
ズに応えることができます 。  

<特殊表面処理・熱処理技術の応用>
半導体プロセスでは、物理的なチリだけでなく、各種金属イオンなどを一定レベルに維持
する高純度な環境が求められます 。耐熱性・耐薬品性・化学的に不活性な特性を持つ
フッ素樹脂コーティングなど、特殊な表面処理技術が半導体製造装置の部品や容器に数多
く使用されています 。

また、半導体製造における熱処理は、デバイスの特性に大きな影響を与え、材料の特性
向上、構造の最適化、電気的特性の安定化に不可欠です 。自動車部品の表面処理や熱処
理で培ったノウハウは、半導体分野の厳しい要求に応える新たなビジネスチャンスとな
ります。  

<高純度洗浄技術の提供>
半導体製造工程の約3割が洗浄工程と言われるほど、半導体の表面に付着した不要な物
質を徹底的に取り除くことが、品質と生産性確保のために極めて重要です 。微細なゴ
ミや金属イオンの除去には、高度な洗浄技術と専用の洗浄液が不可欠です 。

自動車部品の製造過程で培われた洗浄技術や、品質管理のノウハウは、半導体製造に
おける洗浄ニーズに対応する新たな市場を開拓する可能性があります。  

●サプライチェーンへの直接組み込みと「連合軍」戦略
TSMCの工場建設は、半導体生産に必要な良質な水が豊富で、広い土地が確保しやすい
九州の特性を活かしたものであり、関連する設備投資が活気づいています 。半導体産
業のサプライチェーンは複雑で多岐にわたる企業の分業によって成り立っており、これ
まで縁のなかった中小・中堅企業にもビジネスチャンスが開かれつつあります 。

熊本県工業連合会に加入する中小製造業者らが台湾を訪れ、半導体関連の商談を行う
など、中小企業が連携して新たな顧客開拓に乗り出す動きも見られます 。これは、
個社だけでは難しい大規模なサプライチェーンへの参入を、中小企業が「連合軍」
として協力し、技術力や生産能力を結集することで実現するチャンスです 。  

●政府の強力な支援と投資機会の拡大
日本政府は、TSMCの工場建設に巨額の補助を行うなど、半導体産業の強化を国策と
して強力に推進しています。経済産業省は、半導体の安定供給確保に向けた供給確保
計画を認定し、材料や製造装置部材を製造する企業に補助金を助成しています。

また、自民党の中小企業・小規模事業者政策調査会に半導体プロジェクトチーム(PT)
が設置され、「成長する半導体市場の中で、サプライチェーンにいかに中小企業が参
入するか、中小企業が持っている製造装置や素材といった分野の高い技術力を生かし、
中小企業を支える方策を考えていく」と、中小企業の参入機会拡大への環境整備が議
論されています 。

これにより、「ものづくり補助金」の「グローバル展開型」や「成長型中小企業等研
究開発支援事業(Go-Tech事業)」など、既存の補助金制度も半導体関連分野での採
択確率が高まる可能性があります。  

●ニッチ市場戦略の深化と高付加価値化
半導体産業は技術革新や市場変化が激しい分野ですが、中小企業は大企業にはないス
ピード感や柔軟性を持っています。この特性を活かし、特定のニッチな市場に特化し、
そこで圧倒的な技術的優位性を確立する「グローバルニッチトップ」戦略 を深化さ
せることで、独自のマーケットポジションを新規に開拓できるでしょう。

例えば、半導体製造装置の部品加工では、工数が多い分、コストダウンにつながるア
イデアや設計の見直し、効率化を積極的に提案できる中小企業が重宝されます 。  

●課題と適応
一方で、半導体産業への参入には、自動車部品製造とは異なる、あるいはより高度な
要求への適応が求められます。

・桁違いの精度要求: 半導体部品の金属加工では、これまでとは桁違いの精度が求め
 られることがあります 。  

・難削材の加工技術: 半導体部品には難削材が多用されるため、高度な切削技術と
 ハイスペックな工作機械への投資が必要となる場合があります 。  

・知的財産保護: 高度な技術が関わるため、知的財産権の保護戦略を強化し、技術
 流出のリスク管理を徹底する必要があります。

これらの課題に対し、中小企業は政府や公的機関の支援を最大限に活用し、地域の大学
や研究機関との連携を通じて、人材育成や技術開発に取り組むことが重要です。

TSMCの日本進出は、受注加工型中小製造業にとって、これまでの技術力を新たな高付
加価値市場で開花させる、まさに「千載一遇のチャンス」と言えるでしょう。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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