中小企業が研究開発(R&D)プロジェクトを進めるには?課題解決のプロセスと注意点

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

中小企業でも、国からの補助金を得ながら、また大学からの支援を受けながら研究開発
を行っている例が見られますが、中小企業で研究開発を行うにはそれなりのリソース、
期間が必要になってきます。またプロジェクトマネジメントをしっかりと行って行くに
はどのような進め方で、どのような点に注意すればいいでしょうか?

中小企業が国からの補助金や大学からの支援を受けながら研究開発(R&D)プロジェクト
を進めるには、確かに特定のリソースと期間、そして綿密なプロジェクトマネジメント
が必要となります。

以下に、中小企業が大学の協力を得て、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の
A-STEPプログラムの支援を受けて進めている具体的な事例を示しますが、ここでは多く
の有益な示唆を与えてくれます。

中小企業がR&Dを行う上で必要なリソース、期間、プロジェクトマネジメントの進め方
そして注意すべき点を、本プロジェクトの事例を交えながらご説明します。

中小企業で研究開発を行うためのリソースと期間、プロジェクトマネジメント
1. 必要なリソース
• 人的リソース
 <専門家とプロジェクトリーダー>
 開発管理責任者と代表研究者(大学の教授)のように、企業と大学双方に責任者と
 専門家を配置することが不可欠です。

<多機能な開発チーム>
 技術部、品質保証部、総務部など社内の様々な部署から人員を配置し、金型設計・
 製作製品信頼性評価、経理など多様な役割を担うチーム体制を構築します。

<外部専門家の活用>
 県産業技術センターからの業務支援や、顧問を招聘するなど、不足する専門知識
 やマネジメント能力を外部から補完することも有効です。

<技術継承と人材育成>
 大学で確立した技術を自社へ移転するための技術継承担当者を明確に配置し、開発
 主担当者が大学教授から直接指導を受ける体制を構築しています。これは、開発ノウ
 ハウを蓄積し、将来の自社での量産化を見据える上で極めて重要です。

• 設備・施設リソース
<研究開発拠点>
 大学の研究室と自社工場内の研究開発室の両方を活用することで、基礎研究から量産
 化に向けたスケールアップまでを段階的に進めています。

<専用設備の導入>
 各種専用処理装置、各種分析装置、そして最終製品の成形・評価に必要な二軸押出機
 や射出成形機、金型製作設備などを計画的に導入しています。これらの設備投資は、
 補助金制度を活用することで中小企業でも実現可能になります。

<レイアウト改善>
 効率的な作業動線確保のため、設備配置レイアウトの検討と改善を継続的に行って
 います。

• 資金リソース
<公的補助金・支援制度の活用>
 JSTのA-STEPのような国の支援プログラムは、中小企業が高額な設備投資や長期的
 なR&Dを行う上で不可欠な資金源となります。返済型の場合でも、成果が出れば返済
 という形になるため、リスクを抑えながら挑戦できます。

<コスト管理と削減努力>
 原料調達コストや人件費の削減(自動化の推進)など、プロジェクト全体でのコスト
 ダウンへの意識が重要です。

2. 必要な期間と段階的な進め方
開発プロジェクトは、長期的な視野で計画されています。
• プロジェクト期間
 2021年12月から2025年12月までの約4年間が設定されています。中小企業のR&Dは
 短期的な成果を求められがちですが、材料開発のような基礎から応用までが必要なテ
 ーマでは、数年単位の期間設定が現実的です。

• 段階的な目標設定(チェックポイントとマイルストーン)
<チェックポイント(CP)>
 (CP1)~(CP3)など、個別の技術課題に対して達成時期と確認内容を定めています。

<マイルストーン(MS)>
 複数のCPの達成状況を総合的に評価する中間目標としてMS1が設定されています。これ
 により、計画の進捗を定期的に確認し、必要に応じて計画の見直しを行います。

<適応的な計画変更>
 例えば、大きな課題に直面した際には、製造方法を変更するなど、計画の柔軟な見直し
 と対応が可能です。

3. プロジェクトマネジメントの進め方
本プロジェクトでは、以下の点を重視してプロジェクトが推進されています。
• 強力な連携体制
<産学連携の明確化>
 大学が基礎的な材料開発と分析の専門知識を提供し、企業が製造プロセスの確立と
 量産化、事業化を担うという明確な役割分担がなされています。

<定例報告と情報共有>
 JSTへの四半期報告 や、関係者間での定期的な会議 を通じて、進捗状況の確認、課題
 の共有、意思決定を密に行っています。

• 顧客との連携
<ニーズの把握と共同開発>
 想定顧客とのコミュニケーションを活発化させ、要求仕様や要望価格を明確にすること
 で、開発製品の用途と目標を具体化しています。これは、開発成果が市場ニーズに合致
 し、事業化へと繋がるために極めて重要です。

• 実験計画法(DoE)の活用
 材料の配合比率や処理条件など、複数の因子が物性に与える影響を効率的に評価する
  ためにDoEを導入しています。これにより、試行錯誤の回数を減らし、最適な条件を
  体系的に見つけることが可能になります。

4. プロジェクト遂行における注意点
• 技術的な課題への対応
<予期せぬ技術的困難>
 計画当初には予期できなかった技術的な課題に直面した際に、新たな方法や材料の見直
 しといった代替案を迅速に検討し、実行する柔軟性が重要です。

<物性バランスの最適化>
 高剛性化と引き換えに発生する脆性(引張破断伸びや衝撃強度の低下)は、複合材料
 開発における一般的な課題です。本プロジェクトでは、ある添加剤を導入し、剛性を
 維持しつつ靭性・伸びを向上させる対策を講じています。

• 品質管理と評価体制
<客観的な評価指標>
 物性測定(曲げ弾性率、引張破断伸び、衝撃強度) に加え、微細構造の観察・定量を
 行うことで、開発の進捗を客観的に評価しています。

本開発プロジェクトは、中小企業が補助金と大学の支援を受けながら、複雑な材料開発と
量産化に挑むための、具体的な成功要因と課題克服のプロセスを示しています。これらの
要素を複合的に考慮し、柔軟に対応することが、中小企業でのR&Dを成功させる鍵となる
でしょう。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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