中小製造業の海外市場展開:島国日本の得意技術を世界へ導く方策(4)海外市場進出を果たした中小企業の成功事例

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

日本の中小製造業が海外市場で成功を収めるには、自社の強みを活かし、現地のニーズ
に適応し、公的支援を効果的に活用することが重要です。ここでは、具体的な成功事例
を通して、その有効な方策を考察します。

1 技術力を活かしたニッチ市場開拓事例
日本の中小企業は、特定の分野における高度な技術力を武器に、ニッチな海外市場を
開拓し、成功を収めています。

株式会社愛研化工機(水処理技術)
愛媛県松山市に拠点を置く株式会社愛研化工機は、高い水処理技術を強みとしています 。
同社は、瀬戸内海の厳しい排水規制をクリアするための技術や、排水からのエネルギー
回収、再利用技術を有し、国内の大手食品メーカーに実績を持っています 。国内市場
の縮小を見据え、高濃度排水処理のニーズが高い新興国市場に注目し、海外展開を決断
しました 。  

成功の要因は、その技術力に加え、徹底した現地ニーズへの適応とフットワークの軽さ
にあります。海外から排水処理の引き合いがあれば必ず現地に赴き、現場調査を行い、
現地のニーズに合った提案を行いました 。

例えば、インドネシアではJICAのパームオイル排水対策プロジェクトに参画し、バリ
島のホテルでは排水の再利用による水不足への貢献を実現しています 。
また、ベトナムに事務所を設立し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の
FS事業に採択されるなど、公的支援も積極的に活用しています 。中国四川省での養豚
場排水汚染問題への取り組みも、現地の深刻な環境問題解決に貢献しています 。  

愛研化工機は、自社の世界基準の技術力を現地のパートナーと連携しながら発揮し、
各地の豊かな水の暮らしを支えるグローバル企業へと成長しています 。
これは、単に製品を輸出するだけでなく、現地の具体的な課題を解決するソリューシ
ョンを提供することで、市場に深く根ざした成功を収めた事例と言えます。  

サンエイ工業株式会社(小型農業機械)
北海道斜里郡斜里町に本社を置くサンエイ工業株式会社は、畑作業用の農業機械の製造
販売および研究開発を手掛ける企業です 。同社は、大型農業機械が主流の欧州市場に
おいて、小型農業機械の潜在的なニーズをいち早く見抜き、そのニーズに応える製品
開発と改良を行うことで、独自の市場を確立しました 。  

サンエイ工業の成功要因は、企業トップの海外輸出に対する揺るぎない熱意と、海外
対応を自力で行える体制を構築したことにあります 。現地の商習慣に合わせた商談
の進め方や、市場ごとに異なる機械装置の性能・仕様要求に対し、きめ細やかな改造
を行うなど、積極的な活動を展開しています 。これにより、欧州を中心に販路を拡大
し、継続的な輸出を目指すと同時に、インドやブラジルといった新興国への販路拡大
も視野に入れています 。  

この事例は、ニッチな市場であっても、顧客の潜在ニーズを深く理解し、それに適合
した製品開発と柔軟な対応を行うことで、大企業との競合を避けつつ独自の競争優位
性を築けることを示しています。

2 公的支援を活用した販路拡大事例
公的支援機関の活用は、中小企業が海外展開の障壁を乗り越え、販路を拡大する上で
非常に有効な手段となります。

有限会社瑞穂(熊野筆)
広島県熊野町に位置する有限会社瑞穂は、伝統的な熊野筆の技法を用いた化粧筆や
画筆などを製造する企業です 。国内市場の縮小傾向を受け、自社ブランドの確立と
販売強化を目的として海外進出を決断しました 。  

瑞穂の成功要因は、公的支援の積極的な活用と、それに伴う戦略の見直しにあります 。
2008年に自社ブランド「Mizuho Brush」を立ち上げ、香港美容展示会に出展した
ものの、初回の成果はゼロでした 。この失敗を受けて、同社は専門家のアドバイス
に従い、展示会出展の対応と輸出体制を綿密に整備しました 。具体的には、JETRO
輸出有望案件事業や中小機構F/S支援事業などの事業支援、展示会のハンズオン支援
を積極的に活用しました 。  

再度の香港美容展示会出展でOEMの初受注に成功し、その後も欧州市場への販路開拓、
英語版ホームページやSNSの開設によるオンラインプロモーション強化を進めました 。
これにより、海外市場での知名度が向上し、個人顧客や卸業者からの問い合わせが増加
効率的な物流フローも確立され、売上増加につながりました 。
瑞穂は、公的機関の支援を最大限に活用し、専門家のアドバイスに基づいた戦略的な
取り組みによって、自社ブランドの海外での確立に成功した典型的な事例と言えます 。  

3 現地ニーズへの適応とパートナーシップ構築事例
海外市場での成功には、現地の文化やニーズを深く理解し、それに適応した製品・サー
ビスを提供すること、そして信頼できる現地パートナーとの協力関係を築くことが不可
欠です。

株式会社花善(駅弁の現地調達・地産地消)
秋田県大館市の老舗駅弁製造販売企業である株式会社花善は、1899年創業の歴史を持ち
ます 。同社は、海外進出において、単に日本の駅弁を輸出するのではなく、現地調達
による「地産地消」という戦略で活路を見出しました 。  

このアプローチは、輸送コストや鮮度維持の課題を解決しつつ、現地の食材や食文化に
合わせた製品を提供することで、海外の消費者にも受け入れられやすい形での展開を
可能にしました。現地での生産体制を構築し、地元の食材を活用することで、地域経済
への貢献も期待でき、単なるビジネス展開に留まらない持続可能なモデルを構築して
います。

重光産業株式会社(味千ラーメンの海外展開)
熊本県を拠点とするラーメンチェーン「味千ラーメン」を運営する重光産業株式会社は、
従業員数8人と小規模ながら、その海外展開は目覚ましいものがあります 。国内約67
店舗に対し、世界14カ国で約645店舗を展開しており、中国をはじめ、シンガポール
タイ、インドネシア、アメリカなど多地域に進出しています 。  

重光産業の成功要因は、社長自らが率先して中国市場のリサーチとビジネス展開を行い
日本式のサービスレベルを現地で実現させたことにあります 。これは、現地の食文化
や商習慣を理解しつつ、日本の「おもてなし」や品質管理といった強みを現地に導入
することで、日本人だけでなく中国人顧客からも高い評価を受けるサービスを提供で
きたことを意味します 。
フランチャイズ方式を活用し、現地のパートナーと連携しながら多店舗展開を進めた
ことも、迅速なグローバル展開を可能にした要因と考えられます。  

これらの事例は、中小企業が海外市場で成功するためには、自社の技術や製品の強み
を活かしつつも、現地の市場環境、文化、消費者のニーズに柔軟に適応し、信頼でき
るパートナーとの協業を通じて、独自の価値を提供することが重要であることを示唆
しています。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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