中小製造業の事業再構築事例(その2)ホームページによる新規顧客獲得の裏ワザ:下請け体質からの脱出対策
日本の技術が「目立たないところで世界に貢献している」という強みを持つ一方で、
「失われた30年」が示唆するように、その真価を十分に世界にアピールできてこなか
ったという反省点は、未来戦略において極めて重要な課題です。
この課題を解決し、日本の技術が持つ計り知れない価値を世界に「見える化」していく
ためには、多角的なアプローチと戦略的な変革が不可欠です。
以下に、この課題を解決するための考察をまとめます。
1. 戦略的な情報発信とブランド構築の強化
日本のBtoB企業は、そのビジネスモデルの特性上、一般消費者からの知名度が低い
傾向にあります 。しかし、その技術は世界のモノづくりを根底から支える不可欠な
存在です 。
この「隠れた強み」を顕在化させるためには、従来の「ルートセールス」に依存した
営業活動だけでなく、デジタル時代に即した戦略的な情報発信とブランド構築が求め
られます 。
デジタルマーケティングへの本格的な移行
BtoB製造業の顧客もオンラインでの情報収集を増やしており、デジタルマーケティン
グは効率的な新規顧客獲得の機会を提供します 。ウェブサイトの最適化、SEO対策、
コンテンツマーケティング、SNS活用、オンラインイベントの開催などを通じて、
自社の技術力や製品の優位性を積極的に発信する必要があります 。
特に、専門性の高い技術情報であっても、アニメーションや動画、図解などを活用し、
知識のない人にも分かりやすく表現する工夫が重要です 。
技術ブランディングの確立
自社の技術が「誰にとってどんな意味があるか」「何を可能にするのか」といった
本質的な価値を明確にし、言語化することが不可欠です 。単なるスペックの羅列で
はなく、技術が解決する「人間的な課題」や「社会的な意義」をストーリーとして
語ることで、顧客の共感を呼び、信頼を築くことができます 。
例えば、開発の背景や技術者の想いを物語として再構成し、感情に訴えかけるメッセ
ージを発信することで、ブランドの人格や使命を明確にできます 。
成功事例の積極的な発信
日本企業には、特定のニッチ市場で世界トップシェアを誇る「グローバルニッチトップ
企業」が数多く存在します 。これらの企業の成功事例や、半導体材料、精密部品など、
世界のサプライチェーンを支える具体的な貢献を、顧客の声やデータを用いて具体的
に示すことが重要です 。これにより、技術の「質」と「影響力」を可視化し、業界内外
での認知度と信頼性を高めることができます。
2. オープンイノベーションと連携の推進
「自前主義」に固執せず、外部との連携を強化することは、新たな価値創造と技術の
「見える化」に繋がります。
技術のオープン化と共創
自社内で「すごい」と判断される技術であっても、「他社から見たときにどう活きる
か」という視点を持つことが、可能性を広げる第一歩です 。超音波はんだ技術の公開
が新市場開拓に繋がった事例や、プラスチック加工技術の公開が200社以上の取引先
の事業進化に貢献した事例のように、技術を積極的に開示し、クラウドソーシングな
どを活用して不特定多数のユーザーとの接点を構築することで、社内では気づけなか
ったニーズや新たな市場を発見できる可能性があります 。
産学官連携の強化
中小企業庁の「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」のように、大学
や公設支援研究機関、大手企業との連携を促進する政府の支援策を最大限に活用し、
共同研究開発やマッチングを通じて、新たな技術革新と事業化を加速させるべきです 。
これにより、個社の技術がより大きな社会課題の解決に貢献する姿を具体的に示すこと
ができます。
3. グローバル人材の育成と多様性の受容
技術を世界にアピールし、国際競争力を維持するためには、グローバルな視点とコ
ミュニケーション能力を持つ人材の育成が不可欠です。
多角的なグローバル人材育成プログラムの導入
海外派遣プログラム、オンライン英会話の無料提供、海外駐在経験者によるメンタ
リング、異文化理解ワークショップなどを通じて、社員の語学力と異文化理解力を
向上させる必要があります 。また、管理職候補者への海外勤務義務化や、海外子会
社からの逆赴任制度の導入など、計画的な人事ローテーションを通じて、グローバ
ルな視点を持つリーダー層を厚くすることも重要です 。
技術広報の専門性強化
ITエンジニア不足が深刻化する中で 、自社の技術力を正確にアピールし、優秀な人
材を惹きつけるための「技術広報」の専門性を高める必要があります 。自社エンジ
ニアが主体となって技術系イベントの開催やオウンドメディアでの情報発信、Pod
castなどの音声コンテンツ活用を行うことで、技術情報だけでなく、企業の文化や
雰囲気を伝え、共感を呼ぶことができます 。
4. 知的財産戦略と国際標準化への貢献
日本の技術が模倣されず、その価値が正当に評価されるためには、知的財産戦略と
国際標準化への積極的な貢献が不可欠です。
知的財産マネジメントの高度化: 技術流出のリスクを管理しつつ、特許権や実用新案権
商標権などの出願方針を明確にし、知的財産を戦略的に保護する必要があります 。
特に、共同研究や下請け取引における技術盗用を防ぐための法運用の実効性強化や、
中小企業への支援も重要です 。
国際標準化活動への積極的な参画
日本の技術を国際標準として採用させることは、その技術の優位性を世界に「見える
化」し、市場を創出する上で極めて有効な戦略です 。技術そのものの標準化だけでな
く、機能や性能の優位性を可視化する試験方法やインターフェースの標準化にも注力し
日本の技術が世界のデファクトスタンダードとなるよう、積極的に国際会議や委員会
に専門家を派遣し、貢献していくべきです 。
5. 「製造業X」への進化とサービス化の推進
日本の製造業は、製品のコモディティ化や価格競争から脱却し、新たな価値創造のモデ
ルへと進化する必要があります。
モノからコトへの価値転換
経済産業省が提唱する「製造業X」のように、GX(グリーン・トランスフォーメーション)
やフロンティア技術による差別化、デジタルを活用したサービス化などを推進し、高付加
価値製造業への転換を図るべきです 。
単にモノを販売するだけでなく、モノから得られるデータを分析し、AIを活用して顧客
の課題解決に貢献するサービスを提供することで、新たな収益源を確保し、競争力を
強化できます 。
持続可能性への貢献の可視化
間伐材を配合した樹脂素材「TABWD」を自動車部品に実装し、カーボンニュートラル
に貢献するトヨタ車体の事例や、剥離・廃棄される塗膜粉をリサイクルして自動車外装
部品に適用する住友化学の事例のように、環境負荷低減や持続可能な社会の実現に貢献
する技術を積極的にアピールすべきです 。これは、企業の社会的責任(CSR)を果た
すだけでなく、新たな市場ニーズを捉え、ブランド価値を高めることに繋がります。
これらの戦略を複合的に、かつ長期的な視点で実行していくことで、日本の技術は「目立
たない」存在から、その価値と貢献が世界に明確に認識される「見える巨人」へと変貌を
遂げることができるでしょう。



