世界を支える「見えない巨人」(7)「ものづくり」と「カイゼン」の精神
第2章:なぜ日本の技術は「目立たない」のか?その構造的理由
日本の技術が世界に不可欠でありながら「目立たない」のは、偶然ではありません。
それは、日本の産業が持つ構造的な特性と、企業が採用するビジネスモデル、そして
情報発信の課題に深く関連しています。
2.1 BtoBビジネスモデルの特性
日本の多くの優良企業は、一般消費者向けの製品(BtoC)ではなく、企業向けの製品
やサービス(BtoB)を提供しています。このビジネスモデルが、彼らの知名度が低い
主要な理由です。
BtoB企業は、最終消費者に直接製品を販売するのではなく、他の企業に部品や素材、
設備などを供給します 。例えば、自動車のエンジンやブレーキ、スマートフォンの
ディスプレイやバッテリーなどは、私たちが普段使う製品の内部に組み込まれており、
その製造元を意識することはほとんどありません 。
部品メーカーはサプライチェーンにおいて「中流」に位置し、上流の素材メーカーか
ら材料を仕入れ、加工して部品を製造し、下流の加工・組立メーカーに納品します。
最終製品を組み立てるメーカーが消費者に直接販売するため、部品メーカーは「裏方」
のような存在となり、その貢献が直接的に認識されにくい構造になっています 。
消費者からの知名度は低いものの、BtoB企業は世界のモノづくりを支える高度な技術
力で、国内のみならず世界の消費者の生活を支えています 。しかし、BtoC企業に比べ
て知名度が低いことが、就職活動における応募倍率の低さにつながることもあります 。
「目立たない」という特性は、日本の産業がグローバルバリューチェーンにおいて、
最終製品ではなく、他社の最終製品を「可能にする」基盤技術や中間財に強みを持つ、
という戦略的ポジショニングに内在するものです。
日本企業が「部品メーカー」「素材サプライヤー」「サプライチェーンの中流」に位置
するという一貫した説明は、最終製品ではなく中間財に焦点を当てた、意図的または
進化的なビジネスモデルを示しています。
彼らの成功は、顧客企業の成功によって測られるため、直接的な消費者販売とは異なり
ます。これが、消費者からの認知度が低い根本的な構造的理由です。
このBtoBへの集中は、マーケティングとブランディングのあり方を異にします。企業に
販売する場合、マーケティングはキャッチーなスローガンや広範なブランド認知よりも、
技術仕様、信頼性、コスト効率、そして深い顧客関係に重点が置かれます 。
BtoB製造業関連キーワードの「検索ボリュームの低さ」 や「ルートセールス」への依存
は、この異なるマーケティングアプローチを裏付けています。「隠れたチャンピオン」
という地位は、彼らの「ブランド」が、特定の専門業界内で不可欠な技術的品質と信頼
に基づいて構築されており、消費者からの認識とは異なることを示しています。
(5)に続く



