世界を支える「見えない巨人」(3) スマートフォン、自動車、医療機器を動かす精密部品

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

シリーズ(3)の今回は精密部品についてです。

1.3 スマートフォン、自動車、医療機器を動かす精密部品
私たちの日常生活に深く浸透しているスマートフォンや自動車、そして人々の命を救う
医療機器。これらの最終製品の性能や信頼性は、内部に組み込まれた目に見えない精密
部品や素材の質に大きく左右されます。ここでも、日本の技術が世界を支える重要な
役割を担っています。

スマートフォンの電子部品の約40%が日系メーカー製であり、特に高性能なスマート
フォンではそのほとんどが日系メーカー製です 。ソニーのイメージセンサーはスマート
フォンカメラの「眼」となる部品で、世界シェア約4割を占め、米アップルなどの有力
メーカーに供給しています。

「ソニーのセンサーが不足すると中国産スマホが作れない」と言われるほど不可欠な
存在です 。タツタ電線はスマートフォンのフレキシブルプリント基板に張る「電磁波
シールドフィルム」で世界シェア8割強を占めています 。

上村工業はスマートフォンの多層基板の最終表面処理めっき薬で世界シェア7~8割を
担い、iPhone向けに8割、BlackBerryにはほぼ100%供給しています 。また、電源
管理用めっき液「SESAME」も開発しています 。

村田製作所(コンデンサー、フィルター)、TDK(コンデンサー、高周波部品)
京セラ(半導体基板)、日本電産(振動モーター)、日東電工(光学フィルム)
アルプス電気(カメラアクチュエーター)、ローム(半導体素子)など、主要な日系
電子部品メーカーがスマートフォンの高性能化に貢献しています 。  

日本の強い自動車産業は、日本の自動車部品産業に支えられています 。
デンソー(世界2位)、アイシン精機が主要なプレーヤーです 。自動車部品は日本の
輸出額で乗用車に次ぐ3位を占める主要な外貨獲得手段です 。ブリヂストン、横浜ゴム
住友ゴム、TOYO TIREといった日本のタイヤメーカーも世界市場で大きなシェアを占
めています 。

トヨタ車体は間伐材を配合した樹脂素材「TABWD」を開発し、自動車部品に実装する
ことでカーボンニュートラルに貢献しています 。この素材はオフィスチェアなど自動
車以外の用途にも展開されています。

住友化学は剥離・廃棄される塗膜粉を資源として活用し、自動車外装部品にリサイクル
素材を適用、高い品質基準を満たしつつユニークな意匠を実現しています 。日本ガイシ
はEV用インバーターなどに使われるパワーデバイスの性能向上に貢献するSiCウェハや
5G/6G通信に対応する高周波フィルターを実現するLT/LN複合ウェハなど、次世代ウェ
ハ製品を開発し、高出力化、電力損失低減、信頼性向上に寄与しています 。  

世界の医療機器市場において、日本企業は最終製品メーカーとしては欧米に及ばない
ものの(世界シェア約10%) 、精密部品や加工技術で貢献しています。

日本スーパーはハードディスク用スピンドルモーターの超精密技術(0.3ミクロン以下
の真円度)を医療機器部品加工に応用し、難削材や特殊材料の加工で独自の技術力を
発揮しています 。
精密機械加工部品は、整形外科用インプラント(人工関節、脊椎インプラントなど)
や外科用器具(メス、鉗子など)、埋め込み型医療機器(ペースメーカー、除細動器
など)の製造に不可欠であり、高い精度と生体適合性が求められます 。  

日本がスマートフォン、自動車、医療といった広範な分野に貢献する形態は、最終製品
そのものではなく、その性能と信頼性を決定づける高機能・高精度な部品や素材に存在
します。

これにより、その貢献は遍在的でありながらも間接的です。データは一貫して、日本
企業が最終製品に「組み込まれる」部品や素材で優位に立っていることを示しており
これは「目立たない」という本稿の主題を補強します。貢献は、最終製品の性能向上
信頼性、持続可能性を通じて感じられるものであり、直接的なブランド認知ではあり
ません。これは典型的なBtoBビジネスモデルの特性です 。  

グローバルサプライチェーンにおける高付加価値部品への深い統合は、多くの世界的
な製品の性能と革新が日本の技術進歩に根本的に依存していることを意味し、これに
より「静かなる」しかし強大な世界的影響力を確立しています。

ソニーのイメージセンサーが不足すると中国製スマホが作れない 、あるいは日本の特定
のめっき液がスマホ多層基板の70-80%に使われている という事実は、日本のインプッ
トなしには世界の生産ラインが最適に機能しないことを示しています。

これは「ボトルネック制御」あるいは「イネーブリング技術」としての役割を例証します。
植物由来樹脂や先進ウェハにおける日本の革新は、次世代製品の能力(カーボンニュート
ラルな自動車、5G/6G通信、量子コンピューティングなど)を直接推進します。

この戦略的ポジションは、宣伝されることはないものの、世界の技術進歩に対して大き
な影響力を持つものです。  

(4)へつづく

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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