3Dプリンターを用いて精密部品の試作事業を行う場合の注意点
1.2 半導体産業を支える日本の素材・製造装置
現代社会を支える半導体は、スマートフォンから自動車、AIまであらゆる技術の心臓部
です。この半導体産業において、日本はチップそのものの製造ではかつての勢いを失っ
たと言われることもありますが、その製造に不可欠な「素材」と「製造装置」の分野
では、今も圧倒的な世界シェアを誇り、世界のテクノロジーを根底から支えています。
世界の半導体材料市場において、日本は全体の48%のシェアを持ち、2位の台湾(16%)
を大きく引き離しています 。日本企業が生み出す製品群のうち、世界シェア60%以上を
誇る製品が約3割を占め、この高い世界シェアを持つ製品のうち約8割が部素材関係です 。
半導体チップの基となるシリコンウェハでは、信越化学工業(31%)とSUMCO(23%)
の2社で市場の半分以上を占めています 。特に信越化学工業は、長年の経験とノウハウ
の積み重ねにより、99.999999999%という超高純度シリコンウェハの安定製造を実現
しています 。
微細な回路パターン形成に不可欠なフォトレジストは、JSR、東京応化工業、信越化学
工業、住友化学、富士フイルムの日本企業5社が市場シェア92%を寡占しています 。
半導体向けの高純度フッ酸は、ステラケミファ、ダイキン工業、森田化学工業といった日
本企業しか製造できず、この3社で市場シェアの80~90%を占めています 。フォトマスク
の元となるマスクブランクスでは、HOYAが世界シェア70%と圧倒的な地位を築き、最先
端のEUV向けではAGCが強みを持っています 。
その他、CMPスラリー、スパッタターゲット、後工程材料(モールド樹脂、半導体パッ
ケージ基板など)のほとんどの主要材料で日本企業が50%以上のシェアを占めています 。
特にハイエンド向けの半導体パッケージ基板では、イビデンと新光電気工業の2社で70
~80%のシェアを持ち、「イビデンと新光電気がなければサーバ用プロセッサが作れな
い」とまで言われるほど、その技術力は高く評価されています 。
日本の半導体材料・製造装置における強みは、単に高い市場シェアの集合体ではありま
せん。これは、現代エレクトロニクスの基盤をなす超精密、高純度、複雑なプロセス技術
の卓越した習熟度を示すものです。ウェハ、フォトレジスト、高純度フッ酸、マスク
ブランクスといった日本が支配的なシェアを持つ材料のカテゴリーの多さ、そしてその
シェア率の高さは、日本の技術が精密工学と材料科学において並外れた能力を持ってい
ることを示唆しています。これは、単に製品を作るだけでなく、次世代技術を可能に
する「その製品」を作る能力があることを意味します。
半導体製造装置の分野でも、日本は世界シェア31%を占め、アメリカ(35%)に次ぐ
世界第2位です 。世界売上ランキングTOP10には、東京エレクトロン(4位)、アド
バンテスト(6位)、SCREENホールディングス(7位)、KOKUSAI ELECTRIC(9位)
など、6社もの日本企業がランクインしています 。
これらの企業は、高い技術力と生産性で知られています。東京エレクトロンは21,645件
の特許を保有し、顧客の生産ラインの生産能力向上に貢献しています 。アドバンテスト
は35年連続で米TechInsights社から「10 BEST」に選出されるなど、その品質と信頼性
は世界的に評価されています 。ディスコは半導体の「削る」「切る」「磨く」技術に
優れ、ニコンは半導体露光装置に強みを持っています 。
半導体サプライチェーンの上流におけるこの不可欠な役割は、日本が最終的なチップ
製造で苦戦する中でも、世界経済において地政学的に重要な影響力とレジリエンスを
保持していることを意味します。
「イビデンと新光電気がなければサーバ用プロセッサが作れない」とまで言われるほど
であり、日本企業がフォトレジストの92%を支配しているという事実は、世界のチップ
生産が日本からの供給に大きく依存していることを示しています。このポジションは、
日本の供給が途絶えれば世界のハイテク生産が麻痺する可能性を秘めており、経済的
安定性と戦略的優位性をもたらす「ソフトパワー」の一種と言えます。
(3)へつづく



