世界を支える「見えない巨人」(1):日本の技術が「目立たないところで世界に貢献している」その実態と深層

濱田金男

濱田金男

テーマ:中小製造業の生き残り策

日本の技術は、世界の産業や人々の生活に深く貢献しながらも、その多くが一般の目に
触れることのない「縁の下の力持ち」として存在しています。スマートフォンや自動車
医療機器といった最終製品のブランドは海外企業が席巻する一方で、それらを構成する
素材や部品、製造装置においては、日本企業が圧倒的な世界シェアを誇るケースが少な
くありません。
この現象は単なる偶然ではなく、グローバルバリューチェーンにおける戦略的な位置
付けの結果であると考えられます。

本稿では、この「目立たないところで世界に貢献している」という日本の技術の特徴を
深掘りし、その実態と、なぜこのようなユニークな立ち位置が可能になったのかを多角
的に分析します。この「目立たない」貢献は、一般消費者からの認知度の低さという
課題を伴う一方で、企業間取引(BtoB)領域における独自の競争優位性と強固なブラン
ド力を確立しているという側面も持ち合わせています。

第1章:世界に不可欠な日本の「縁の下の力持ち」技術
日本の技術が世界に貢献する具体的な事例は多岐にわたります。特に注目すべきは、
最終製品の裏側で、その性能や機能、持続可能性を支える基盤技術や素材、精密部品
の分野です。

1.1 グローバルニッチトップ企業群の存在
日本には、特定のニッチな市場で世界トップシェアを誇る「グローバルニッチトップ
(GNT)企業」が数多く存在します。これらの企業は、一般にはあまり知られていま
せんが、それぞれの分野で圧倒的な技術力と市場支配力を持っています。経済産業省は
特定の分野で高い世界シェアを持つ企業を「グローバルニッチトップ企業100選」と
して選定しており、これは日本の産業構造における隠れた強みを示しています 。  

これらのGNT企業は、最終製品の競争ではなく、特定の産業プロセスや素材といった
上流工程において、深い専門性と技術的優位性を追求する戦略を採用しています。
例えば、NITTOKU株式会社はモーターやコイルを生産する巻線機システムに
おいて、開発から製造、ラインビルド、制御まで一貫して提供することで、世界シェア
No.1(37%)を獲得しています 。その包括的なソリューション提供能力が強みであり
他社にはない独自の立ち位置を確立しています。  

また、株式会社イシダはスーパーマーケットなどで使われる「自動包装値付機」で
世界シェア40%以上を占めています 。同社はグローバルなサプライチェーン展開と
メンテナンス体制の強化に注力し、海外市場を見据えた事業展開を進めています。
株式会社フルヤ金属は、スマートフォン製造の一次材料である高純度イリジウム化合
物で世界シェア9割を達成しています 。ハードディスクドライブの記録層に用いられ
るルテニウムの高純度化技術とリサイクル技術にも優位性を持っています。  

これらの事例が示すように、GNT企業の存在は、日本企業が特定の高付加価値セグメ
ントに経営資源を集中させ、そこで圧倒的な技術的優位性を確立する戦略、すなわち
ニッチ戦略を採っていることを明確に示しています。これは、大企業が参入しにくい
「市場の隙間」を狙うことで、消耗戦を避け、独自の価値で勝つというアプローチです 。  

このニッチ戦略は、価格競争を回避し、高い収益性を確保する効果があります 。
特定のニッチ市場で9割ものシェアを持つ企業が存在するという事実は、その分野に
おける競合が極めて少ないことを意味し、結果として価格競争に巻き込まれにくく
なります。高いシェアは高い収益性につながりやすい傾向があります。

さらに、これらの企業が提供する製品は、最終製品の品質や性能に直結する重要な
要素であるため、顧客企業は技術力、品質、信頼性を重視します。これにより、一度
信頼関係を築けば、顧客は容易に他社に乗り換えにくくなり、強固なブランドロイヤ
ルティが形成されます。
これは、消費者向けの知名度が低くても、業界内での「隠れたブランド力」が極めて
高いことを示しています。  

(2)へつづく

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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