過去不具合情報を「ナレッジ化」、水平展開するにはどうすれば良いか?生成AIを活用した事例
サービス業の例としてホテル業を取り上げ、QFDの実施手順、品質表のフォーマット例
そして具体的な業務設計例について解説します。
ホテル業でQFDを実施する際の一般的な手順は以下の通りです。
1.顧客要求(VOC:Voice of Customer)の収集と整理
●収集方法
宿泊客アンケート(客室、オンライン)
予約サイトやSNSのレビュー、口コミ分析
顧客インタビュー、フォーカスグループインタビュー
フロントやコンシェルジュへの直接の要望やクレーム
従業員からのヒアリング(顧客との接点から得られる情報)
●整理
収集した「生の声」をKJ法などでグルーピングし、抽象度を上げながら本質的な顧客
要求(要求品質)を抽出します。「枕が合わない」「空調の音が気になる」といった
具体的な声から、「快適な睡眠環境」といった要求品質を導き出します。
●要求品質の重要度評価
抽出された各要求品質に対して、顧客がどれだけ重要視しているかを評価します。
アンケート調査で重要度を直接尋ねる方法や、コンジョイント分析などを用いて間接的
に評価する方法があります。
●品質特性の抽出
顧客の要求品質を満たすために、ホテル側が提供すべき具体的なサービス要素や機能
(品質特性)を洗い出します。
これは、ホテルがコントロール可能な設計要素や管理項目です。例えば、「快適な睡眠
環境」という要求品質に対して、「寝具の種類・質」「客室の遮音性」「空調の静音性
・調整機能」などが品質特性として挙げられます。
●品質表(品質の家)の作成(作成したを知りたい方はお問い合わせください)
<ステップ1>
要求品質と品質特性のマトリクス作成: 左側に要求品質とその重要度を、上側に品質
特性を配置し、両者の関連度を記号(例:◎、○、△など)や数値で示します。
<ステップ2>
競合比較: 自社ホテルと競合ホテルが、各要求品質に対して顧客からどのように評価
されているかを記入します。また、各品質特性において、自社と競合がどのような
レベルにあるかを客観的に評価します。
<ステップ3>
品質特性間の相関分析(屋根部分): ある品質特性を向上させることが、他の品質特性
にどのような影響を与えるか(プラスの影響、マイナスの影響、影響なし)を分析します。
<ステップ4>
技術的評価と目標品質の設定: 各品質特性について、技術的な難易度、目標とすべき水準
(ターゲット値)、改善コストなどを検討します。競合状況や顧客の重要度評価を考慮
して、どの品質特性を重点的に改善すべきかを決定します。
2.業務プロセスへの展開(具体的な施策の立案)
品質表で明確になった重要度の高い要求品質や、改善が必要な品質特性に対して、具体的
な業務プロセスやサービス改善策を設計します。
誰が、いつまでに、何を行うのかを具体的に計画に落とし込みます。
●実行と評価、改善
計画に基づいて施策を実行し、その結果を再び顧客アンケートやデータ分析などで評価
します。QFDは一度作って終わりではなく、継続的な改善サイクルの中で活用していく
ことが重要です。
3.業務設計例(品質表の結果を受けて)
上記の品質表で、例えば以下の点が明らかになったとします。
●最重要要求品質: 「快適な睡眠環境」
課題のある品質特性: 「客室の遮音性」(競合より劣り、目標品質達成に技術的難易
度とコストが高いが、最重要要求品質との関連が非常に強い)
●改善しやすい品質特性: 「チェックイン・アウトの迅速さ」(技術的難易度とコスト
が中程度で、顧客満足度向上への貢献が期待できる)
これを受けて、以下のような業務設計(改善策)が考えられます。
(1)「快適な睡眠環境」実現のための業務設計(客室の遮音性向上に注力)
●短期的な施策:
業務プロセス: 客室清掃時に、ドアや窓の隙間からの音漏れがないかチェックする項目
を追加。必要に応じて簡易的な防音テープなどで応急処置を行う。
従業員教育: 静かな環境を求める顧客への配慮として、深夜帯の廊下での会話や作業音
を最小限に抑えるよう全部署に周知徹底。
備品: 希望する顧客に耳栓やアイマスクを提供するサービスを開始。
●中長期的な施策:
設備投資計画: 予算を確保し、特に音漏れが指摘されている客室から順次、二重窓への
改修や壁の遮音材追加工事を実施する計画を策定。
サプライヤー選定: 改修工事にあたり、遮音性能の高い建材や施工技術を持つ業者を
選定する。
客室割り当てルール: 音に敏感な顧客や、静かに過ごしたいという要望があった顧客に
は、比較的静かな位置の客室(例:エレベーターから遠い、上層階の角部屋など)を
優先的に割り当てる運用ルールを導入。
2. 「チェックイン・アウトの迅速さ」向上のための業務設計
●業務プロセス改善:
事前チェックインシステムの導入検討: オンライン
での事前情報入力や決済を可能にしフロントでの手続きを簡略化する。
ピークタイムの人員配置見直し: 過去のデータに基づき、チェックイン・アウトが集中
する時間帯のフロントスタッフを増員する。
手続きフローの標準化と簡素化: 現行のチェックイン・アウトプロセスを見直し、不要
な手順や書類を削減する。
●従業員スキル向上:
システム操作研修: 新しいシステムや既存システムの効率的な操作方法に関する研修を
定期的に実施。
接客ロールプレイング: スムーズで分かりやすい説明、イレギュラー対応など、様々な
状況を想定したロールプレイング研修を実施し、スタッフの対応力を向上させる。
●情報提供の工夫:
館内案内のデジタル化: 客室のテレビやタブレットで館内情報を確認できるようにし、
フロントでの説明時間を短縮する。
FAQの整備: よくある質問とその回答をウェブサイトや客室内に用意し、顧客が自己
解決できるようにする。
●重要なポイント:
部門横断的な連携: QFDから業務設計への落とし込みは、フロント、客室、料飲、施設
管理、マーケティングなど、関連する全部署が連携して取り組むことが不可欠です。
従業員の参加: 現場の従業員は顧客と直接接しており、貴重な情報や改善のアイデアを
持っています。QFDのプロセスや業務設計の段階で、積極的に意見を吸い上げること
が重要です。
測定可能な目標設定: 業務改善策を実施する際には、具体的な数値目標(例:顧客満足
度スコアのX%向上、平均チェックイン時間のY分短縮など)を設定し、効果を測定
・評価できるようにします。
継続的な改善: QFDやそれに基づく業務改善は一度行ったら終わりではありません。
市場の変化や顧客のニーズの変化に合わせて、定期的に見直し、改善を続けていくこと
が重要です。
このように、QFDは顧客の潜在的なニーズを具体的なサービス設計や業務プロセスに
結びつけるための強力なフレームワークとなります。ホテル業においても、顧客満足
度向上と競争力強化のために有効活用できるでしょう。



