サービス業や小売業における顧客の潜在ニーズ把握の手法としてQFD(品質機能展開)は使えるか?(その1)

濱田金男

濱田金男

テーマ:顧客ニーズの把握・マーケティング戦略

サービス業や小売業では、様々な顧客の潜在ニーズを把握する必要がありますが
製造業で使われるQFDの手法を応用できるかどうかを検討してみます。

結論から言うと、製造業で用いられるQFD(品質機能展開)の手法は、サービス業
や小売業における顧客の潜在ニーズ把握に応用することが可能です。
アンケートや購買行動の分析だけでは見えにくい、顧客が言葉にできないニーズや
期待を明らかにし、それを具体的なサービスや店舗設計、業務プロセスに落とし込む
際に有効なツールとなり得ます。

●QFDとは?
QFDは、顧客の要求(要求品質)を、製品やサービスの設計要素(品質特性)に変換し
さらにはそれを具体的な業務プロセスや部品の仕様にまで展開していく体系的な手法です。
「顧客の声(VOC: Voice of Customer)」を起点とし、顧客満足度を最大化すること
を目的としています。

●製造業におけるQFDの活用
製造業では、QFDは以下のような目的で活用されています。
・顧客ニーズの的確な把握と製品設計への反映
 顧客が本当に求めているものは何かを深く掘り下げ、それを製品の機能や性能、デザ
 インに具体的に落とし込みます。

・開発プロセスの効率化と手戻りの削減
 開発の初期段階で顧客ニーズを明確にすることで、後工程での仕様変更や手戻りを防ぎ
 開発期間の短縮やコスト削減に繋げます。

・競合製品との差別化
 顧客ニーズと自社技術の強みを照らし合わせ、競合他社にはない独自の価値を持つ製品
 開発を目指します。

●サービス業・小売業へのQFDの応用可能性
サービス業や小売業においても、QFDの基本的な考え方やプロセスは応用できます。

・「顧客の声」の収集と分析
 アンケート、インタビュー、お客様窓口への問い合わせ、ソーシャルメディア上の口コミ
 購買履歴データなどを通じて、顧客の要望や不満、潜在的な期待を収集します。
 これらの「声」を、QFDの手法を用いて整理・分類し、本質的なニーズ(要求品質)を
 抽出します。
 例えば、「待ち時間が長い」という不満の声から、「時間を有効に使いたい」「ストレ
 スなくサービスを受けたい」といった潜在ニーズを掘り下げることができます。

・サービス品質・店舗体験への展開
 抽出された顧客の要求品質を、具体的なサービス内容、店舗の雰囲気、接客応対、品揃え
 情報提供の方法といった「品質特性」に変換します。
 例えば、「時間を有効に使いたい」というニーズに対して、「予約システムの導入」
 「迅速なレジ対応」「分かりやすい店内案内」といった具体的な施策を検討できます。

・業務プロセスの改善
 さらに、これらの品質特性を実現するための具体的な業務プロセスや従業員の行動基準
 にまで落とし込みます。
 例えば、「迅速なレジ対応」を実現するために、「レジ増設」「研修によるスキル向上」
 「ピークタイムの人員配置最適化」といった具体的な改善策を計画・実行します。

●QFDをサービス業・小売業に応用する際のポイントと注意点
・「モノ」と「コト」の違いの認識
 製造業のQFDは有形の「モノ」を対象とすることが多いですが、サービス業・小売業
 では無形の「サービス」や「経験(コト)」が中心となります。そのため、要求品質
 や品質特性を定義する際には、この違いを意識する必要があります。
 例えば、サービスの「快適性」「安心感」「感動」といった情緒的な価値も重要な要素
 となります。

・顧客接点の多様性
 サービス業・小売業では、店舗、ウェブサイト、コールセンター、配送担当者など、
 顧客との接点が多岐にわたります。それぞれの接点における顧客体験を考慮し、QFD
 を展開する必要があります。

・従業員の役割の重要性
 サービスの品質は、従業員のスキルやモチベーションに大きく左右されます。QFDの
 展開においては、従業員教育や権限委譲といった要素も重要になります。

・定性的な情報の扱い
 顧客満足度は数値化しにくい感情的な側面も含むため、アンケートの自由記述やインタ
 ビューといった定性的な情報を丁寧に分析し、QFDに組み込むことが重要です。

・柔軟性と迅速性
 市場の変化や顧客ニーズの多様化が速いサービス業・小売業においては、QFDのプロ
 セスをあまり複雑にしすぎず、状況に応じて柔軟に見直し、迅速に改善に繋げること
 が求められます。

●具体的な応用例
・飲食業
 顧客の「居心地の良さ」「料理の満足度」「待ち時間の快適さ」といったニーズを、
 店舗デザイン、メニュー構成、接客マニュアル、予約システムなどに展開する。

・小売業
 顧客の「買い物のしやすさ」「商品の見つけやすさ」「レジのスムーズさ」「専門的な
 アドバイス」といったニーズを、店舗レイアウト、商品陳列、POP広告、スタッフ教育
 オンラインストアの設計などに展開する。

・ホテル業
 顧客の「快適な睡眠」「リラックスできる空間」「質の高い食事」「パーソナルな対応」
 といったニーズを、客室設備、アメニティ、レストランサービス、コンシェルジュサー
 ビスなどに展開する。

●結論
QFDは、製造業だけでなく、サービス業や小売業においても顧客の潜在ニーズを的確に
捉え、それを具体的なサービスや業務改善に繋げるための強力な手法となり得ます。

「顧客の声」に真摯に耳を傾け、それを体系的に分析・展開することで、顧客満足度の
 向上、そして競争優位性の確立に貢献できるでしょう。ただし、業態の特性を踏まえ
 柔軟に手法を適用していくことが重要です。

次回はQFDの実際に実施する場合の手順について解説します。

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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