AI活用による製造現場の技能蓄積・継承戦略(その5:技能伝承を加速するチーム作りと文化醸成)

濱田金男

濱田金男

テーマ:DX化で製造業は変わる!

「AIを使ってベテランの技を若手に伝えたいけど、何から始めればいいの?」
「最新技術を導入しても、結局使われなかったらどうしよう…」

製造業でAIを活用した技能伝承を進めようとするとき、こんな不安を感じる方も多い
のではないでしょうか。実は、AI導入を成功させるためには、優れた技術を選ぶのと
同じくらい、会社全体の「体制」や「文化」を整えることが重要なんです。

今回は、AIを技能伝承の強力なサポーターにするために、組織としてどんな準備や
工夫が必要なのか、具体的なポイントを分かりやすく解説していきます!

1. AIウェルカム!な文化と戦略を育てる
AIがその能力を最大限に発揮するには、まず「AIを受け入れ、活用しよう!」という
会社全体の雰囲気と、しっかりとした戦略が必要です。

●リーダーの本気がカギ!
「AIを使って、社員みんながもっと働きやすくなるように、そして会社がもっと成長
できるようにするぞ!」という社長や上司の強い意志と明確なビジョンが、AI導入の
第一歩です 。リーダーが率先してAI活用の旗を振り、必要なサポートを約束すること
で、社員も安心して新しい技術に向き合えます。

●「知ってることは共有しよう!」オープンな知識共有文化を育む
「これは自分だけのノウハウだから…」なんて情報を抱え込まず、良いアイデアや
成功事例、時には失敗談もオープンに共有し合う文化が大切です 。トヨタ自動車の
「カイゼン活動」のように、現場の知恵を集めて共有する仕組みは、AI時代にも通じ
る素晴らしいお手本です 。

アサヒビールでは、生成AIを活用した社内情報検索システムを導入し、社員が必要な
情報へ簡単にアクセスできるようにして、知識共有を促進しています 。AIツールは
知識共有を助けてくれますが、その土台となるのは「みんなで良くしていこう」と
いう協力的な心です。

●AI戦略は会社の羅針盤!事業目標としっかり連携
AI導入が、単なる「新しいもの好き」で終わらないように、会社の大きな目標(例え
ば、生産性向上、品質改善、コスト削減など)としっかり結びつけることが重要です。
技能伝承が特に効果を発揮しそうな分野を見極め、戦略的にAIを活用しましょう 。

●変化はチャンス!みんなで乗り越える「チェンジマネジメント」
新しいことへの挑戦には、不安や抵抗がつきものです。Prosci社のADKARモデル
(Awareness:認識、Desire:欲求、Knowledge:知識、Ability:能力、Reinfor
cement:定着)のようなフレームワークを参考に、社員一人ひとりが変化を前向き
に捉え、新しいスキルを身につけられるようサポートしましょう。
丁寧な説明、メリットの提示、そして成功体験の共有が、変化への抵抗を和らげる
鍵となります。

2. AI時代に勝つ!最強チームの作り方
AIを効果的に活用するためには、従来の組織のあり方を見直し、より柔軟で専門性の
高いチーム作りが求められます。

●AI特化型チームでスピードアップ!
AIプロジェクトを推進するためには、様々な専門知識を持つメンバーが集まった、機
動力のあるチームが有効です。Scrum.orgでは、「AIポッド」(少人数のAI専門チ
ーム)や「AIドメイン」(AIポッドの戦略的グループ)といった、アジャイルなチ
ーム構造を提案しています 。このようなチームで、アイデア出しから開発、改善ま
でをスピーディーに進めましょう。

●部署の壁を壊せ!部門横断プロジェクトチーム
AIの専門家、現場のベテラン技能者、IT部門、そして実際にAIシステムを使う事業
部門の担当者など、様々なバックグラウンドを持つ人たちが協力し合うことが成功
の秘訣です 。日立製作所では、熟練技術者とAI専門家が連携して技能のデジタル化
を進めています 。それぞれの知見を持ち寄ることで、より実用的で効果的なAI活用
が実現します。

●AI戦略の「司令塔」を設置!
会社全体でAI戦略を推進し、倫理的な問題がないかなどをチェックする「AIガバナ
ンス」の仕組みや、専門のリーダー(例えばCAIO:最高AI責任者)を置くことも
有効です 。これにより、AI導入が正しい方向に進んでいるかを確認し、必要なリソ
ースを確保しやすくなります。

3. AI時代を生き抜く!社員のスキルアップ大作戦
「AIに仕事が奪われるんじゃ…」そんな心配は無用です!AIは人間の能力を拡張す
るツール。大切なのは、社員がAIを使いこなし、AIと共に成長できるスキルを身に
つけることです。

●まずは現状把握!どんなAIスキルが必要?
会社全体として、AI時代に向けてどんなスキルが不足しているのか、現状を正確に
把握することから始めましょう 。AIを開発する専門的なスキルだけでなく、AIが
出した情報を理解し活用する力、AIと協力して問題を解決する力なども重要になり
ます 。

●AI人材育成計画を立てよう!
・社内で育てる「スキルアップ&リスキリング」
 今いる社員向けに、AIの基礎知識やデータ分析、AIツールとの連携方法などを学
 べる研修プログラムを用意しましょう 。
 Amazonの「Machine Learning University」やトヨタ自動車の「デジタル人材育
 成体系」などが参考になります 。

・外部から採用する「戦略的採用」
 必要に応じて、AIに関する高度な専門知識を持つ人材を外部から採用することも
 検討しましょう 。

・一人ひとりに合わせた「個別育成プラン」
 AIを活用して、社員の現在のスキルやキャリア目標に合わせた、オーダーメイドの
 育成計画を作ることも可能です 。

・「学び続ける」文化を醸成
 AI技術は日進月歩。常に新しいことを学び、変化に対応していく姿勢を会社全体で
 応援しましょう 。

●AIは「頼れる相棒」!人間とAIの協調を目指す
社員には、AIを単に「使う」だけでなく、AIと「協力して働く」ためのスキルを身に
つけてもらうことが大切です。AIが出した情報を鵜呑みにせず、その限界を理解し、
最終的な判断は人間が行う、といった「人間参加型ループ(Human-in-the-Loop)」
の考え方を浸透させましょう 。

4. 失敗も成功も「宝の山」!みんなで学ぶ仕組みづくり
AI導入プロジェクトは、最初から全てがうまくいくとは限りません。大切なのは、成
功事例だけでなく、失敗事例からも学び、それを組織全体で共有し、次に活かすこと
です。

●なぜ「学ぶ仕組み」が大切?
過去のプロジェクトの経験(成功も失敗も)をきちんと記録・分析し、組織全体で共有
することで、同じ過ちを繰り返すのを防ぎ、より良い方法を早く見つけ出すことができ
ます 。

●教訓共有のフレームワークを活用しよう!
Asana社が提唱する「教訓共有の5ステップ」(特定、記録、分析、保管、想起)のよ
うなフレームワークを活用すると、体系的に学びを蓄積できます 。

特定する: プロジェクトで何がうまくいき、何が問題だったのかを洗い出す。
記録する: それらを具体的に文書化する。
分析する: なぜそうなったのか、原因を分析する。
保管する: 分析結果を、後から誰でも見られるように保管する。
想起する: 次のプロジェクトを始める前に、過去の教訓を必ず確認する。

●AIプロジェクトの「あるある失敗談」と対策
・よくある失敗要因:
  「AIなら何でもできるはず」という過度な期待 。
  導入目的が曖昧、途中で変わる 。
  予算や専門知識を持つ人材が足りない 。
  AIに学習させるためのデータの質や量が不十分 。
  技術的な問題(AIモデルが不安定、中身がブラックボックスで理解不能など)。

・製造業特有の失敗と対策
  現場のデータ品質が低い: センサーデータのノイズが多い、記録が不正確など。
   → データ収集方法の見直し、データクレンジングの徹底。

  現場の協力が得られない: 「忙しい」「AIはよく分からない」といった抵抗感 。
   → 導入目的やメリットを丁寧に説明し、現場を巻き込む。

  経営層と現場の認識のズレ: プロジェクトの途中で方針が変わってしまう 。
   → 関係者間での密なコミュニケーションと合意形成。

  検証不足: 「作ったはいいけど、現場で使えない…」 。
   → パイロット導入や現場での十分なテストを実施。Ford社の予知保全プロジェ
    クトの事例では、技術的には有望でも、既存システムとの連携やディーラー
    の協力体制の問題で本格導入に至らなかったと報告されています 。

●AI専門チーム(CoE)の役割
 AI CoE(Center of Excellence:専門組織)のようなチームを作り、会社全体でAI
 に関する知識や成功・失敗事例を共有し、ベストプラクティスを広めていく中心的
 な役割を担ってもらうのも効果的です 。

まとめ
AI導入成功の秘訣は「組織力」!
AIを活用した技能伝承は、単に新しいツールを導入するだけでは成功しません。会社
全体がAIを理解し、受け入れ、そしてAIと共に成長していくための「組織の力」が
不可欠です。

リーダーシップ、知識共有文化、柔軟なチーム体制、継続的な人材育成、そして失敗
から学ぶ姿勢。これらを一つひとつ丁寧に築き上げていくことが、AIという強力な
エンジンを最大限に活かし、技能伝承を成功へと導く道筋となるでしょう。

変化を恐れず、組織全体でAI活用にチャレンジしていきましょう!

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濱田金男プロは上毛新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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